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第3章 楽に生きたい!

03 温情?ハメられたっ!

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    愛斗は屈強な国家騎士達に周りを囲まれ、再び王都へと逆戻りしていた。

「くそう…。倒せるっちゃ倒せるが…転覆罪に反逆罪がプラスされたら……明るい未来が全く見えねぇ…しくしく。」

「黙って従えよ?態度次第で減刑されるかも知れないしな。」

    にゃろう…。国ごと消し飛ばすか?いやいや、ユーキも居るしそれは辞めておこう。

    愛斗はガタゴトと馬車に揺られて王都に着いた。時間は深夜、幸い人の目には映らなかった。

「着いたぞ。さぁ、馬車を降りるんだ。」

「…はい。」

    愛斗は黙って従った。国家騎士達は愛斗を懐かしの牢屋へと送り込んだ。

「明日、王から直接刑を言い渡される。因みにこの牢はスキルも魔法も封印される。大賢者特製の牢だ。逃げ出せるなど思わぬ事だな。じゃあ…良い夢を。」

    フザケンナー。牢屋で良い夢なんぞ見られるかーい。せめてユーキの部屋にしてくれないかなぁ…はぁ。あー死ぬ前にDTだけは捨てたかったなー。王様に頼んでみるかー。

    愛斗は現実逃避しながら牢屋で一晩過ごした。

    翌朝、国家騎士の1人が愛斗を迎えにきた。

「出ろ。これから身を清める。その後は王と謁見だ。その装備は此方で預かる。浴場に着いたら見習いに渡すのだ、良いな?」

「はいはい。わかりましたー。」

    愛斗は投げやりになっていた。浴場に着くとそこにはユーキがいた。

「マナトさん、…残念です。まさか…貴方が国家転覆罪だなんて…。」

「違うと言っても信じてはくれないんだろうな。ま、後は王の采配次第だ。また使うかもしれないから、この装備、丁重に扱ってくれ。1つでも無くなっていたら…俺はお前だろうと容赦しない。全力をもって殺す。良いな?」

    ユーキは黙ったまま装備を受け取った。その顔は少し悲し気に見えた。愛斗は言われるがまま、身体についた汗を流した。

「清められたか?ではこの服に着替えて謁見の間まで行くぞ。」

「分かったよ。しかし…なんだこの服は…。」

    国家騎士から渡された服は貴族が着る様な立派な服だった。白い生地に金の糸で刺繍が施されていた。

「さぁな。王の言葉だ。俺は知らんよ。準備は出来たか?行くぞ。」

    愛斗は騎士に連れられ、謁見の間に入った。奥の玉座に王が座り、続く通路の両側を国家騎士がズラリと並び固めていた。

「お連れ致しました。」

「うむ、大義である。マナト・シーナよ。前へ。」

    愛斗は言われた通り前に進んだ。

「さて、今主には国家転覆罪の容疑がかけられている。何故かは分かっておるな?」

「グレゴールの言葉を知らせなかったからだろ?俺はグレゴールの予言の事なんて全く知らなかったし、ましてや魔族の王が復活するなんて与太話は最初から信じていなかった。大した理由もなく国を混乱させる訳にはいかなかった。」

    これでどうだ?

「グレゴールの予言はこの国に住む者なら子供でも知っている話だ。ましてや主は本人からそれを聞いたのだろう?知らないは通じんぞ?」

    くそが…。こうなったらもう言うしかないか…。

「…俺はこの世界の人間じゃない。少し前に違う世界から此処に来た。気がついたら南の草原に居た。」

「信じられないな。違う世界から来たと言うならば、何か証拠はあるのか?」

    証拠…証拠か。う~ん…。

「俺の荷物はあるか?」

    騎士団長らしき人物がユーキを呼んだ。

「ユーキよ。彼の荷物をこれに。」

「は、はい!」

    ユーキは愛斗の装備が入った鞄を1つ持ってきた。愛斗はユーキから荷物を受け取り、中から元居た世界の品を取り出して並べた。

「ボールペン。運動靴。時計。スマホ。教科書。財布。まだあるが、これらはこちらの世界にあるものか?」

    王は鑑定士を呼び、愛斗の荷物を調べさせた。

「王よ。彼の言った事は事実であると推測されます。鑑定の結果、これらはこの世界には無い物と判断致しました。」

「そうか。分かった。下がって良い。」

    愛斗は荷物を再び鞄に入れた。

「で、俺はこれからどうなる?予言については知らなかった。国家を転覆させる積もりも無い。無罪放免で良いよな?」

「3つ程聞きたい。主は誰かに召喚されたか?」

「いや。気がついたら草原で寝ていた。あっちの世界で死にかけた時に視界がブレたのは覚えているが、その後は一面草原だった。」

「ふむ…。転生…いや転移か?神と名乗る者には会ったか?」

「いいや。欠片も見ちゃいねぇよ。」

    事実だ。俺は神とやらには会った事も無い。

「そうか、ならば…力を得た主はこれから何を望む?地位か名誉か?」

「んなもんいらねーよ。俺はただ静かにのんびり暮らしたい。それだけだ。」

「その力があれば世界を我が物に出来るやもしれんのだぞ?」

「4つ目だぜ?だが、答えようか。世界を手に入れてどうする?手に入れるのは簡単かもしれないが、その後の管理が面倒なのは王なら分かるだろう?俺はそんな面倒は御免だ。そして、誰も彼も救おうと思える程聖人君子でもない。そんなのは勇者とやらがやれば良い。俺に構うな。」

「貴様っ!王に何て口をっ!!」

「良い!口を挟むな!」

「はっ!も、申し訳御座いません!」

    騎士の1人が列に戻った。

「確かに…それは勇者である者の役割だ。だがな、魔族がこの地に来ぬと思うか?」

「自分と仲間の身くらいは守るさ。ただ、その仲間にお前達が入ってないってだけの話だ。残念だったな。」

    王は黙ったまま目を閉じていた。そこでユーキが口を開いた。

「私もっ!私も仲間では無いと言うの…ですか?」

「…あぁ。お前は一瞬でも俺を疑っただろ?その時点で最早仲間でも何でもねぇよ。ただの知り合い。それたけだ。」

    ユーキはホロリと涙を流した。だが、俺はそんな涙で動く程お人好しでは無い。こんな国、救ってやる義理も無いしな。

    黙っていた王が口を開いた。

「主の言い分は分かった。では…刑を言い渡す。マナト・シーナ。お前を国外追放とす。以後、この国に入る事を認めない。以上だ。下がるが良い。」

「…ああ。」

    マナトは鞄を持ち、城を後にした。

「ま、待って!」

    後ろからユーキが走ってきた。

「何だよ?」

「…疑って…ごめんなさい…。」

「今更だな。もう会うことは無いだろう。じゃあな。」

    ユーキは泣き崩れていたが、愛斗は後ろを振り向かず、城から離れた。

「ふん。こんな国…知ったこっちゃねぇ。リリィ達には悪いが…、国を出るか。胸糞わりぃ…。」

    愛斗は王都にある乗り合い馬車に乗り、1人隣国へと消えたのであった。




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