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第05話 驚く村人

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 自らのスキルを自覚したライルはまず教会を訪ねた。

「おや、ライル? どうしたのですか?」
「神父様……。僕のスキルが何かわかりました」
「え?」

 ライルは神父に自分のスキルの事を正直に話した。

「そ、そんなスキルは聞いたことも……」
「今も見えないままですか?」
「え? あ、待って下さい」

 神父はライルを鑑定した。

「……見えませんね。私には【?】のままです」
「そうですか……。神父様、僕はどうすれば……」
「と、とりあえず村長も交えて話をしましょう。その方が手間も省けるでしょう」
「はい」

 ライルは神父とともに村長宅へと向かった。

「ん? 二人揃ってどうした?」
「村長、ライルのスキルが判明したようです」
「おぉ! そうかそうか! 良かったなライル!」

 喜ぶ村長だが神父はそれを制した。

「村長、事はそう単純ではないのです」
「ん? どう言う事だ? まさか幽閉されるような危ないスキルなのか?」
「幽閉……。いえ、場合によっては処刑もあり得ます」
「な、なんだとっ!? ライルにはどんなスキルが宿ったのだ!?」

 ライルは改めて自分のスキルを二人に詳しく説明した。

「全知、万物創造、無限収納、次元転移……そして不老不死ですか……。確か不老はヴァンパイア族、不死は死霊族のスキルですね。どちらも魔族のスキルです、村長」
「魔族か……。いや、それは良い。だが他の四つはどうだ。まるで聞いたこともないスキルだぞ?」
「はい。教会本部の資料にも記載されておりません。もしかすると……ライルのスキルが必要になるような事態が待ち受けているのかも……」
「英雄が必要になるかもしれない……か。うむ。皆を集めてくれ、神父」
「わかりました」

 村長は神父に村人を集める様に指示し、ライルに向き直った。

「ライルよ、今の内にお前にはこの村の秘密を話しておこう」
「村の秘密?」
「そうだ。ここは単なる寒村ではない。お主達親子は外から来たから知らないだろうが……この村はかつて英雄と呼ばれた四人が生まれた村でもあるのだ」
「えっ!?」

 村長は棚から一冊の本を取り出した。

「英雄伝記?」
「そうだ。これは実際にあった話だ。今から千年前、異次元から【混沌】と呼ばれる者がこの世界に現れた」
「混沌……」
「混沌は瞬く間に世界を手中に収め、世界の人はそやつの力で配下に変えられていった。そこで人々は神にすがったのだ」

 ライルは黙ったまま村長の話に耳を傾ける。

「すると祈りが届いたのか、この村の若者四人に特別なスキルが宿った。それは【正義】、【絶対防御】、【神聖気】、【次元穴】だ。四人はこのスキルで混沌に立ち向かった。襲い掛かる配下を神聖気を持つ聖女が凪ぎ払い、飛来する攻撃を絶対防御を持つ英雄の親友が全て受け止める」

 ライルは村長の話を聞きながら興奮していた。

「そうして戦い続ける事三日三晩、正義がついに混沌に渾身の一撃を入れた。混沌は瀕死にはなったがどうやっても消し去る事は出来なかった。そこで最後の英雄が次元穴を開き、混沌と共にこの世界から消えたのだ……」
「共に……? じゃあ最後の英雄は……」
「……うむ。この村に戻ってきたのは三人だけだった。三人は悲しみに呉れながらもこの話を後世に伝えようとこの本を記したのだ」

 ライルの瞳には涙が浮かんでいた。

「なんて悲しい結果なんだ……。次元穴の人が可哀想だ」
「この時はそうするしか解決方法がなかったのだ。村に風車があるだろう? あれは次元穴の英雄のために三人が建てたものなのだ。墓標としてな……」
「うっうっ……」

 ライルは涙が止まらなくなっていた。そんな犠牲の上で生き残った人間が今やお互い争っているのが凄く悲しく思えたのである。

 話が終わった事に合わせ、神父が扉を開いた。

「村長、集まりました」
「うむ。ライルの母親は?」
「はい、います」
「……わかった。ライル、続きは外で話そう。ついてきなさい」
「っ、はいっ!」

 ライルは涙を拭い皆の前に出た。

「皆、聞いてくれ。ライルに特別な力が宿っている事がわかった」
「「「特別な力?」」」
「そうだ。千年前、この村の若者四人に宿ったような特別な力だ」
「「「っ!」」」

 村人達の表情が変わった。

「まさか……来るのか?」
「え? え?」

 どうやらわかっていないのは母親だけらしい。その母親に隣の家の奥さんが英雄伝記を教えていた。

「わからぬ。だが混沌が現れる前もライルのようにこの世界にはまだ無かった新しいスキルを授かったのだ。そして今回はライルにのみ未知のスキルが発現した」
「ああ、だから使い方がわからなかったのか」
「うむ。千年だ、千年かけてようやく世界は人口を取り戻した。だが、それも今や水泡に帰そうとしている。ライルよ、お主にはこれから世界を回ってもらう」
「「えっ?」」

 村長の言葉に驚いたのはライル達親子だ。

「な、なぜライルなのっ! 私にはもうライルしかいないのっ! 私からライルを奪わないでっ!」
「か、母さん……」

 ライルの母親は村長にすがった。

「奪いはしないさ」
「え?」

 村長はライルの母親に言った。

「ライルにはスキル【次元転移】と言うものがある。これは行った事がある場所なら一瞬で飛べるスキルだ。旅はさせるが毎日家に帰って来させれば良いだろう?」
「えっ!?」
「旅は決定なんですね……」
「うむ。混沌が現れる前に行ける場所を増やしておくのだ。すぐに対処できるようにな」

 ライルの母親が村長に言った。

「でも一人で旅なんて……。ライルはまだ十六歳なんですよ!」
「……お主なぁ。そろそろ子離れしたらどうだ? 十六と言えば大人だぞ? あまり縛ってはライルが変な方向に育つぞ?」
「良いんですっ! ライルはどこにもやりませんっ! ライル、家に帰ろ? 村に居づらいなら他の村に……」

 そんなライルの母親に対し今度は神父が諭しにかかる。

「その場合、私は国にライルのスキルを報告しなければなりませんよ」
「なっ!?」
「当然です。今までは村の仲間だったから黙っていただけの事」
「おい神父。そりゃあんまりだぜ。国に報告なんてしたらライルは……」
「処刑……でしょうね」
「そんなっ!」

 ライルの母親は神父に掴みかかる。

「なんでライルを苛めるのっ! ライルが何をしたって言うのよっ! 私達は……私達はただ静かに暮らしたいだけなのにっ!」
「その静かな暮らしも……混沌が再び現れたら消えてしまいます。それも、この世界全てからです」
「……あ、あぁ……っ」
「まだ混沌が現れていない今しかチャンスはないのです。どうか世界のためにライルの力を頼らせて下さいっ!」

 ライルが二人の間に入った。

「ラ、ライル……」
「母さん、僕……旅に出るよ」
「ライル!」
「大丈夫だよ母さん。僕は絶対に死なないスキルがあるんだからさ」
「ライル……」
「もし世界が悲しみに包まれようとしているなら立ち向かわなきゃ! それが僕に与えられた使命なんだよきっと……」
「あぁぁぁぁぁぁっ!」

 ライルはしがみついてくる母親をそっと抱き締めた。

「大丈夫だよ、母さん。ちゃんと毎日帰るし、旅のどこかで仲間も見つける。だから安心して、母さん」
「……ちゃんと毎日帰るって約束して」
「うん」
「あと、朝御飯と晩御飯は家で食べる事!」
「うんっ!」

 母親は涙を拭いながら身体を離す。

「行ってきなさいライル! 混沌なんてぶっ飛ばしちゃいなさい!」
「うんっ!! 約束するよ、母さんっ!」

 こうしてライルは寒村から世界に向け旅立つ事になるのだった。
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