上 下
30 / 37
第ニ章 魔大陸の章

05 衝突

しおりを挟む
 グローリア王国で起きた戦を境に東南大陸全体で各国が緊張状態に入った。元々東南大陸は拳王が支配していた大陸で格闘術は敬われていた。拳王は魔法を拳一つで消し飛ばしてしまう。そのために格闘術こそが最強であるという風潮があった。

 だが拳王が亡くなり一番弟子では魔法に抗えず均衡が崩れた。今現在は魔法こそ最強であるという風潮になり、格闘術は衰退している。

 これらの理由から各国は軍を再編成し、中級物理系スキル持ちを肉壁、上級物理系スキルを魔導系スキルの護衛と再編成していった。そこで初級物理系スキル持ちは不必要とされ、現在次々と魔大陸に廃棄されていた。

 オウルの執務室に慌てた様子のカインが飛び込んできた。

「オウル! また町で衝突だ!」
「はぁ……またか。わかった、向かうよ」
「すまん、何しろ数が多くてよぉ」
「町で暮らす事を許可したのは俺だし構わないさ。でもこうなると何かしら考えないとダメだな」

 オウルはカインの案内で城下町へと向かう。町に到着すると違う国同士の人間が徒党を組み小競り合いをしていた。

「あぁっ!? 俺らの王国舐めてんじゃねぇぞゴラッ!」
「そりゃこっちのセリフだ! 田舎モンがよ!? 帝国舐めてんのかオォンッ!」
「ハッ、帝国だぁ~? 無駄に広いだけで拳王がいなくなったら瞬く間に落ちぶれてったワンマン国家だろうがよ? ハリボテ野郎が」
「こ、殺す!!」

 一触即発の間にオウルが飛び出し制止させる。

「静まれ! この町での争いは許さない!」
「あ? はんっ、グローリア王国の雑魚がなんか言ってんなぁ?」
「静まれだ? 誰に口きいてんのお前? お前からやっちゃーゾ?」

 オウルのこめかみに血管が浮かび上がる。それを覚ったカインはスッとその場を離れていった。

「だいたい何でお前なんぞに従わなきゃならねぇんだ。たかだか男爵家の癖によ?」
「お前は俺らより強ぇんか? んー? おい、震えてんぞこいつ」

 震えているのは恐怖ではない。オウルは怒りに震えていた。他国の兵士が流入してきてからは毎度こういった感じで争いが起きているため、いよいよオウルの堪忍袋の尾も切れそうだった。

「ふぅ~……冷静に冷静に……」
「あ? 何ブツブツいってんだコイツ」
「ヤバイ薬でもやってんじゃねぇ? なんせ自称魔王様だからよぉ~。ギャハハハ──は? なっ!?」

 オウルの瞳が白く輝く。

「な、なんだコイツの眼!?」
「な、なんかヤベェぞ!?」

 オウルは小競り合いをしていた全員を視界に収める。

「自称魔王? そうかそうか。それなら俺が魔王だという事を身を持って知れ。【白眼】」
「「「な、なんだっ!?」」」

 オウルは魔王眼の力の内の一つ【白眼】を使った。白眼は対象からレベルを吸い取る力である。吸い取ったレベルはそのまま自分に追加し、吸い取れた者達のレベルは全員1まで下がった。

「な、なにしやがった!」
「魔王眼の力の内の一つ白眼を使った。お前らのレベルは今1になっている」
「「「「な、なにぃぃぃっ!?」」」」
「魔王たるためには魔王眼が使えなければならない。次は漆黒眼でも使ってやろうか? レベル1のお前らに毒を与えたらどうなるかな。数分で絶命するだろうな」
「や、やめろよ。じ、冗談きついぜ」
「冗談? ふざけるなっ!!」

 オウルは拳を握り小競り合いをしていた者達を激しく叱る。

「俺もお前達も国は違えど全員が追放された身だろうっ!! 魔大陸はお前達の国じゃない、魔族達の国だっ! いつまで寝ぼけている、お前達はもう国に戻ることはできないんだぞ。それとも自分を捨てた国がそんなに愛しいのか? 帰りたいなら帰れよ、海でも泳いでなっ!」
「む、無茶いうなよ」
「無茶でもなんでもない。次に争いを起こした者は問答無用でレベルを1にした上で町から放り出す。この町に住みたいなら争うな。そしてルールを守れ。ここは無法地帯じゃない。魔族達の温情で捨てられた人間のためにと俺が預かっている国だ」

 オウルは深呼吸をし冷静さを取り戻す。

「本来この大量に住む者は永く虐げられられてきた事から人間を憎み嫌っている。俺達が生かされている理由は情けからだ。その情に報いるためにもせめて争いは起こすな。俺達はこの大陸で生きる者たちに償わなければならないんたからな」

 オウルの言葉を聞いた者たちは反論できなくなっていた。

「騒ぎを起こした者たちは一ヶ月間農作業に従事してもらう。従えないなら町を出ろ。お前達はもう貴族でもなんでもない。ただの人だ。身分や力を固辞し他者を傷つける事をやめるんだ」
「わ、わかった。従うからここに住まわせてくれ。追い出されたら死んじまうよっ」
「次はないからな。よく覚えておけ」
「あ、あぁ」

 こうして争いは沈静化した。この件は瞬く間に町に広まり、争いを起こすとレベル1にされ追放されると人間達は恐怖した。

 そしてその日の夜、カインが酒瓶を持って執務室に向かった。

「よ、まだ働いてんのか?」
「カインか。くだらない争いのせいで仕事が山積みだよ」
「まぁ、あいつらも追放されてやさぐれてたんだよ」
「だからといって甘やかしてばかりもいられないだろ。争いなんて起きたら魔族達に笑われてしまうからな」

 二人でグラスを傾け酒をあおる。

「ならさ、合法的に争わせてみたらどうだ?」
「合法的に争わせる? なにを言って……」
「武闘大会だよ。中央大陸にコロッセオがあるだろ? あれば序列を決めるバトルだがよ、ルールを変えて勝った奴には褒美与えるとかさ。娯楽だよ娯楽」
「なるほど。あえて戦わせて鬱憤を晴らさせるのか。さすが娯楽も関して右に出るものはいないな」
「定期的に開催して賭けとかアリにしたら盛り上がるし、なんなら魔族達も参加させちまえば良いだろ。拳を交えて仲を深めるってのはお前も獣王とやっただろ?」
「まぁ確かにな。少し考えてみるよ」
「ああ」

 オウルは娯楽王カインの助言を受けバトルコロッセオについて考えるのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

性転換マッサージ2

廣瀬純一
ファンタジー
性転換マッサージに通う夫婦の話

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?

みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。 なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。 身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。 一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。 ……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ? ※他サイトでも掲載しています。 ※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。

金貨1,000万枚貯まったので勇者辞めてハーレム作ってスローライフ送ります!!

夕凪五月雨影法師
ファンタジー
AIイラストあり! 追放された世界最強の勇者が、ハーレムの女の子たちと自由気ままなスローライフを送る、ちょっとエッチでハートフルな異世界ラブコメディ!! 国内最強の勇者パーティを率いる勇者ユーリが、突然の引退を宣言した。 幼い頃に神託を受けて勇者に選ばれて以来、寝る間も惜しんで人々を助け続けてきたユーリ。 彼はもう限界だったのだ。 「これからは好きな時に寝て、好きな時に食べて、好きな時に好きな子とエッチしてやる!! ハーレム作ってやるーーーー!!」 そんな発言に愛想を尽かし、パーティメンバーは彼の元から去っていくが……。 その引退の裏には、世界をも巻き込む大規模な陰謀が隠されていた。 その陰謀によって、ユーリは勇者引退を余儀なくされ、全てを失った……。 かのように思われた。 「はい、じゃあ僕もう勇者じゃないから、こっからは好きにやらせて貰うね」 勇者としての条約や規約に縛られていた彼は、力をセーブしたまま活動を強いられていたのだ。 本来の力を取り戻した彼は、その強大な魔力と、金貨1,000万枚にものを言わせ、好き勝手に人々を救い、気ままに高難度ダンジョンを攻略し、そして自身をざまぁした巨大な陰謀に立ち向かっていく!! 基本的には、金持ちで最強の勇者が、ハーレムの女の子たちとまったりするだけのスローライフコメディです。 異世界版の光源氏のようなストーリーです! ……やっぱりちょっと違います笑 また、AIイラストは初心者ですので、あくまでも小説のおまけ程度に考えていただければ……(震え声)

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

性奴隷を飼ったのに

お小遣い月3万
ファンタジー
10年前に俺は日本から異世界に転移して来た。 異世界に転移して来たばかりの頃、辿り着いた冒険者ギルドで勇者認定されて、魔王を討伐したら家族の元に帰れるのかな、っと思って必死になって魔王を討伐したけど、日本には帰れなかった。 異世界に来てから10年の月日が流れてしまった。俺は魔王討伐の報酬として特別公爵になっていた。ちなみに領地も貰っている。 自分の領地では奴隷は禁止していた。 奴隷を売買している商人がいるというタレコミがあって、俺は出向いた。 そして1人の奴隷少女と出会った。 彼女は、お風呂にも入れられていなくて、道路に落ちている軍手のように汚かった。 彼女は幼いエルフだった。 それに魔力が使えないように処理されていた。 そんな彼女を故郷に帰すためにエルフの村へ連れて行った。 でもエルフの村は魔力が使えない少女を引き取ってくれなかった。それどころか魔力が無いエルフは処分する掟になっているらしい。 俺の所有物であるなら彼女は処分しない、と村長が言うから俺はエルフの女の子を飼うことになった。 孤児になった魔力も無いエルフの女の子。年齢は14歳。 エルフの女の子を見捨てるなんて出来なかった。だから、この世界で彼女が生きていけるように育成することに決めた。 ※エルフの少女以外にもヒロインは登場する予定でございます。 ※帰る場所を無くした女の子が、美しくて強い女性に成長する物語です。

男女比1:10。男子の立場が弱い学園で美少女たちをわからせるためにヒロインと手を組んで攻略を始めてみたんだけど…チョロいんなのはどうして?

ファンタジー
貞操逆転世界に転生してきた日浦大晴(ひうらたいせい)の通う学園には"独特の校風"がある。 それは——男子は女子より立場が弱い 学園で一番立場が上なのは女子5人のメンバーからなる生徒会。 拾ってくれた九空鹿波(くそらかなみ)と手を組み、まずは生徒会を攻略しようとするが……。 「既に攻略済みの女の子をさらに落とすなんて……面白いじゃない」 協力者の鹿波だけは知っている。 大晴が既に女の子を"攻略済み"だと。 勝利200%ラブコメ!? 既に攻略済みの美少女を本気で''分からせ"たら……さて、どうなるんでしょうねぇ?

処理中です...