上 下
29 / 37
第ニ章 魔大陸の章

04 真の支配者

しおりを挟む
 この地上世界は人種が支配している。だが世界は地上世界だけではない。

 ここは天界。人種にスキルを与えし神々が住まう世界だ。より強いスキルを与えられる神は崇拝され力を得る。神々もタダでスキルを与えているわけではない。

 そして神々が天界で何をしているか。神々は地上世界を眺めながら談笑していた。

「人は相変わらず愚かだねぇ。そう思わないかい?」
「はい、創造神様」

 少年のような見た目の神が盃を傾け中身を飲み干す。空いた盃に美の女神が酒を注ぐ。

「僕達に踊らされ見世物にされてるなんて思ってもいないだろうね」
「はい」
「見なよあの神達をさ」

 美の女神は地上を眺める神々に視線を向ける。

「よ~し、俺が与えたスキルの勝ちだな」
「なんでだよ~。もっと上手く使えよ~。あのスキルで負けるとかありえないし!」
「がはははっ。次はワシのと勝負だな」

 神々はとある大陸にあるコロッセオで戦う人間を眺め宴三昧の日々を送っていた。しかしそんな輪の中に入らず一人違う場所覗く神がいた。

 その神は黒いフードを被り表情を隠しながらこっそりと一人地上を眺めていた。

「どうやら上手くいきそうね……。これで私の子達も自由になれる。頑張って……オウル」
「ん? 【ルシェル】、それどこだ?」
「っ!?」

 神は突然背後から聞こえた声に慌て、映像を消しおそるおそる振り返った。

「あ、あなたでしたか【ハデス】」
「ああ。それで今どこ見てたんだ? また魔族?」
「はい。虐げられている我が子達が不憫で」

 女神の名はルシェル。魔を司る神である。そして男の名は【ハデス】。ハデスは闇を司る神だ。

 ルシェルはフードを外し長い黒髪をなびかせる。ハデスは漆黒の鎧をまとい、眼帯をしている。

「そっか。俺達は人間じゃなく魔族達に力を与える神だからなぁ。でも最近になって変わってきたな。儀式を受ける者が増えただろ?」
「はい。それに今の魔大陸は以前と様子が変わってきています」
「ルシェルが力を与えた人間が上手く立ち回ってるとか?」
「はい。あの大陸で農業が始まりました」
「あそこで? それはまた凄いな。どうりで最近俺の力も増してきたはずだ」
「……あちらに勝てそうですか?」

 ハデスはルシェルの問い掛けに首を横に振った。

「まだまだ勝ち目なんかないさ。ルシェルもそれは分かっているだろう? アレらは人に力を与え争う姿を見て楽しんでいるだけのクズだ。その筆頭に一番性質の悪い創造神がいる。もっと仲間を増やさないと消されて終わりだ」
「そう……ですね」
「なに、今はまだ耐える時だ。我が子らが人間の大陸を奪還していけばアレらの力も減る。加えて彼のスキルは特別だ。人間のスキルを奪い魔族達に付与する事で俺達の力になるんだから」

 オウルの持つコピペはルシェルが与えし力だ。人間のスキルをコピーして魔族達に付与したとしても人間に力を貸している神の力にはならない。オウルはルシェルの切り札となっていた。

「我が子らを不当に苦しめた報いは必ず受けてもらいます。もう少し魔大陸が安定したら神託を下します」
「待ち遠しいな。ならそれまでにもう諦めちまってる獣神とか亜神達のやる気でも取り戻しておくか」
「バレないようにお願いしますよ。今はまだ覚られるわけにはいきませんので」
「ああ」

 神々にも派閥がある。日々宴を開いている神々は人間に味方をする快楽主義派だ。快楽主義派は面白ければそれで良しとする者達の集まりである。その筆頭に全ての神の頂点に立つ創造神がいる。

 対してルシェルやハデスらが率いるは魔獣や魔族、獣人や亜人の味方をする穏健派だ。当時は人間と同じくらい数がいたが人魔大戦により個体数が激減したため発言力や神力も軒並み下がり、今では変わり者の集まりとされていた。

 そしてもう一つの派閥が竜達の神ただ一柱がいる均衡派だ。竜の神は単独で誰とも組まず誰の命令も聞かない。創造神すら竜の神と関わる事を拒否している。それだけ竜の神の力は強大だ。その力は歪んだ世界を正すためにあるのだが、永き時の中で地上にいる竜達はその役割を忘れ去っていた。そのため、今の竜神はただ静かに眠りに就いている。

 そうして今の天界は【快楽主義派】が幅をきかせ、【穏健派】が静かに力を蓄え、【均衡派】は我関せずと現状この三つの派閥に分かれている。

 一人になったルシェルは再び魔大陸の様子を窺う。

「あら、スキル【簒奪】なんて覚えたのね。敵から力を奪い取るだなんてやるわね。さすが私のオウルね。貴方には期待してるから頑張ってねオウル」

 一方そんな神に期待されているとも知らずにオウルは日々送られてくる人間を選別しつつ人間のための町を作り上げていた。

「いくらなんでも人間が送られ過ぎじゃない?」
「ああ、確かにな。しかもグローリア王国以外からもきてるな」
「何かの前触れかな。カイン、少し皆から話を聞いてきてもらえる?」
「ああ、任せなっ。それよりお前さ、最近シリル様と会ったりしてるか?」
「いや、セヴァンスさんとだけかな。あっちも忙しいみたい」
「おいおい~、新婚がそんな事で良いのか~?」
「仕方ないだろ。仕事は山積みだ。はいはい、働こうな~」
「仕事バカめ……」

 オウルは日々増えていく人間を気に留めつつ仕事に明け暮れるのだった。 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?

みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。 なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。 身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。 一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。 ……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ? ※他サイトでも掲載しています。 ※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。

金貨1,000万枚貯まったので勇者辞めてハーレム作ってスローライフ送ります!!

夕凪五月雨影法師
ファンタジー
AIイラストあり! 追放された世界最強の勇者が、ハーレムの女の子たちと自由気ままなスローライフを送る、ちょっとエッチでハートフルな異世界ラブコメディ!! 国内最強の勇者パーティを率いる勇者ユーリが、突然の引退を宣言した。 幼い頃に神託を受けて勇者に選ばれて以来、寝る間も惜しんで人々を助け続けてきたユーリ。 彼はもう限界だったのだ。 「これからは好きな時に寝て、好きな時に食べて、好きな時に好きな子とエッチしてやる!! ハーレム作ってやるーーーー!!」 そんな発言に愛想を尽かし、パーティメンバーは彼の元から去っていくが……。 その引退の裏には、世界をも巻き込む大規模な陰謀が隠されていた。 その陰謀によって、ユーリは勇者引退を余儀なくされ、全てを失った……。 かのように思われた。 「はい、じゃあ僕もう勇者じゃないから、こっからは好きにやらせて貰うね」 勇者としての条約や規約に縛られていた彼は、力をセーブしたまま活動を強いられていたのだ。 本来の力を取り戻した彼は、その強大な魔力と、金貨1,000万枚にものを言わせ、好き勝手に人々を救い、気ままに高難度ダンジョンを攻略し、そして自身をざまぁした巨大な陰謀に立ち向かっていく!! 基本的には、金持ちで最強の勇者が、ハーレムの女の子たちとまったりするだけのスローライフコメディです。 異世界版の光源氏のようなストーリーです! ……やっぱりちょっと違います笑 また、AIイラストは初心者ですので、あくまでも小説のおまけ程度に考えていただければ……(震え声)

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

性奴隷を飼ったのに

お小遣い月3万
ファンタジー
10年前に俺は日本から異世界に転移して来た。 異世界に転移して来たばかりの頃、辿り着いた冒険者ギルドで勇者認定されて、魔王を討伐したら家族の元に帰れるのかな、っと思って必死になって魔王を討伐したけど、日本には帰れなかった。 異世界に来てから10年の月日が流れてしまった。俺は魔王討伐の報酬として特別公爵になっていた。ちなみに領地も貰っている。 自分の領地では奴隷は禁止していた。 奴隷を売買している商人がいるというタレコミがあって、俺は出向いた。 そして1人の奴隷少女と出会った。 彼女は、お風呂にも入れられていなくて、道路に落ちている軍手のように汚かった。 彼女は幼いエルフだった。 それに魔力が使えないように処理されていた。 そんな彼女を故郷に帰すためにエルフの村へ連れて行った。 でもエルフの村は魔力が使えない少女を引き取ってくれなかった。それどころか魔力が無いエルフは処分する掟になっているらしい。 俺の所有物であるなら彼女は処分しない、と村長が言うから俺はエルフの女の子を飼うことになった。 孤児になった魔力も無いエルフの女の子。年齢は14歳。 エルフの女の子を見捨てるなんて出来なかった。だから、この世界で彼女が生きていけるように育成することに決めた。 ※エルフの少女以外にもヒロインは登場する予定でございます。 ※帰る場所を無くした女の子が、美しくて強い女性に成長する物語です。

貞操観念が逆転した世界で、冒険者の少年が犯されるだけのお話

みずがめ
恋愛
ノイッシュは冒険者として索敵、罠外し、荷物運び、鑑定などあらゆるサポートをしていた。だが彼がパーティーに求められることは他にもあったのであった……。男一人に美女二人パーティーの非道な日常のお話。 ※貞操観念逆転世界で気弱な男が肉食系の女に食べられちゃうお話です。逆レイプが苦手な方は引き返すなら今ですよ(注意書き)

冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい

一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。 しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。 家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。 そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。 そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。 ……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──

処理中です...