謎スキルを与えられた貴族の英雄譚

夜夢

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第一章 始まりの章

19 迷宮前の戦い

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 回復薬で傷を癒やした亜人にエレナが問い掛ける。

「それで? 一体何があったの?」
「はい。自分は斥候として先に迷宮までの安全を確認しに向かったのですが、迷宮の入口に怪物がいたんです」
「怪物って?」
「わかりません。初めて見る魔獣でした。慌てた俺は仲間たちが近付かないよう緊急信号を出したのですが、怪物に気付かれてしまいあの有り様です」

 瀕死の状態で戻ってきた亜人は腕や足に噛み傷、背中や胸には深い爪痕と火傷の跡が刻み込まれていた。この傷跡からエレナが怪物を想像する。

「そうね、多分あなたが見たのはキマイラじゃないかしら」
「キマ……イラ?」
「そ。ライオンの頭に山羊の胴体、尻尾は蛇じゃなかった?」
「確かにそんな気も……しかし全身が黒かったので正確にはちょっと」
「黒い? 新種かしら。でも尻尾で噛まれなかったのは幸運ね。もし噛まれていたら即死だったわよ。それで、その怪物は?」
「はい。必死で逃げていたら追ってこなくなりました」
「そう」

 エレナは腕組みをしながら思案していく。

「おそらく迷宮周辺を縄張りにしたのね。わかったわ、よく無事に戻ってきてくれたわね。ゆっくり疲れを癒やしなさい」
「はっ!」

 ネメアとサリアが斥候を室外に運んでいった。

「エレナ、どうする?」
「倒すわ。倒さないと迷宮に入れないでしょう? あの土地はあなたに渡すって約束したんだもの。今夜カタをつけに行くわ」
「一人でか?」
「吸血姫の真価は夜に発揮されるのよ。心配はいらないわ。私はあなたより強いって忘れてないかしら?」

 オウルはまだエレナからスキルをコピーできないでいた。少しずつ近くの森で魔獣狩りをしているがまだエレナには届かない。

「戦ってる姿が見たい」
「どうしても?」
「ああ。もしその怪物が迷宮から出てきたなら遅かれ早かれ土地をもらった俺が対処しなければならなくなるしね」
「わかったわ。けど……」
「ん?」

 エレナはオウルを見ながら身をよじった。

「戦ってる姿を見ても引かないでね?」
「それは約束できないなぁ~」
「もうっ! 笑い事じゃないのっ!」

 そうして謎の黒いキマイラとの戦いに赴いた二人だが、オウルはエレナの戦いを目の当たりにし腰が引けていた。

「ほらほら、せっかく生やした翼がお留守よっ!」
《ガァァァァァァッ!!》

 それは戦いとは呼べない強者による一方的な蹂躙だった。エレナは背中に漆黒の翼を生やし長く鋭い爪で機動力を生かした攻撃で黒い怪物を切り刻んでいった。

 黒いキマイラは一度後退し、今度はエレナを真似たのか背中に翼を生やし戻ってきた。だが急な変化に対応しきれていないのか、地面にはエレナに切り落とされた尻尾や翼が散乱している。

「しつっこいわね。キマイラは再生力だけはヒュドラ並みだものね」
《グルル……グゥゥゥッ!》

 黒いキマイラは学習したのか無闇に飛び掛かってこなくなった。少しの時間お互い硬直したが、エレナが黒いキマイラに真っ直ぐ指を伸ばした瞬間決着がついた。

「脳みそまでは再生できないでしょ? 爆ぜろ【ブラッドバースト】」
《ギッ──ガッ──!?》

 黒いキマイラの額に深くエレナの爪が突き刺さった瞬間、黒いキマイラの頭が数倍に膨れ上がり爆発した。爆発したキマイラはそのまま肉片を撒き散らし、最後は宝箱を残して消えた。

「宝箱ね。やっぱり迷宮から出てきた魔獣だったか……」
「エレナ!」

 戦いが終わるとオウルが宝箱の前に立つエレナに駆け寄った。

「どうだった? 私強いでしょ」
「強いっていうか……あんな倒し方俺には無理だよ。最後の技は?」
「あれは吸血姫の固有能力よ。突き刺した爪から相手の血流を操って脳を爆破したのよ。人間だって脳が詰まれば死ぬでしょ?」
「……詰まっても爆発はしないんだけど」
「頭が膨らんだのは全身の血が頭に集まったから。爆発したように見えたのは活性化した行き場のない血が血管を突き破り一気に溢れ出したからよ」

 なんとも酷い有り様だった。救いは死体が消えた事だろう。死体と共に血溜まりも消えた。

「それで? この箱は?」
「え? 知らないの?」
「え?」

 迷宮に潜った事がないオウルは知らなかった。

「迷宮の魔獣を倒すと宝箱が出るのよ」
「へぇ~」
「しかも迷宮の魔獣は時間が経過すれば再び復活するわ。復活時間は個体によってまちまちね。多分だけどさっきの黒いキマイラはフロアボスね。長い間放置されていた迷宮から飛び出してきたみたい」
「スタンピードが起きる?」
「それはわからないわ。でも多分スタンピードは起きないわ。あのキマイラちょっと強かったし、多分出てくるまでに他の魔獣を食い散らかしながら上がってきたはず。それより問題はこれよ」

 エレナは宝箱を指さした。

「宝箱が問題?」
「そう。魔獣が宝箱に変わるのは迷宮の中だけなの。つまり、今いるこの場所も迷宮になっちゃってる可能性があるわ」
「な、なんだって!?」

 言われて周りをみると迷宮の入り口付近だけ切り開かれた様に木々が消えている。

「定期的に魔獣を減らさないと迷宮は成長するのよね。オウル、今から中に入るわよ」
「今から? 二人で!?」
「浅い階層なら平気でしょ。それに調査は必須よ」
「わ、わかった。行くよ」
「じゃあ行きましょっ。っと、その前に」
「あ」

 エレナが宝箱を開いた。

「これは……黒い……剣かしら? 私には使えないわね。これはオウルにあげるわ」
「えぇぇ、黒い剣とか呪われそうなんだけど」
「鑑定してみたら? はい」
「おっと」

 剣を取り出すと宝箱はいつの間にか消えていた。オウルは渡された黒い剣を鞘から抜かずに鑑定してみた。

「銘がある。これは【闇の魔剣】っていうらしい。効果は……」

 闇の魔剣を装備した者は闇魔法を使える様になる。この剣は斬った相手の血を吸収し成長する。成長する事で使える闇魔法が増えていく。加えて破壊不可が付与されていた。

「破格の性能じゃないか! 成長する上に破格不能だなんて!」
「良かったじゃない。魔剣なんてそうそう手に入らないわよ? 多分レア箱だったのね」
「レア箱?」
「えぇ。宝箱にはレア度があってそのレア度で中身が変わるのよ。今回のは当たりで次また黒キマイラを倒しても同じ物は出ないわ」
「迷宮って不思議なんだなぁ」
「それはそうでしょ。餌がなかったら誰も迷宮に行かないじゃない。迷宮は挑戦者の死体が欲しくて宝箱で挑戦者を釣るのよ」
「なるほど。冒険者達が血眼で挑戦するわけだ。命を対価にしても魔剣はお釣りがくる」

 オウルは腰のベルトに闇の魔剣をぶら下げた。

「さ、調査に向かうわよ。まずはあなたが先行ね。戦いぶりを見たいわ」
「わかった。行こう」

 オウルは闇の魔剣を握り締め迷宮へと潜るのだった。
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