謎スキルを与えられた貴族の英雄譚

夜夢

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第一章 始まりの章

17 エレナの頼み

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 オウルは側近の二人に両腕を抱えられ亜人国代表の待つ部屋へと引きずられていった。

「エレナ様、ネメア入ります。魔族国からの客人オウル様を確保して参りました」
「か、確保?」
「入ってちょうだい」

 入室の許可が降りた所で再び引きずられ室内に入る。

「……あなた達、オウル君に近すぎじゃないかしら?」
「「逃走防止のためです」」
「逃げないよ!?」

 室内は薄暗く窓には木の板が打ち付けられている。室内を照らすのは数本の蝋燭のみだ。その奥にある机にエレナが腰掛けていた。

「まあ良いわ。二人とも下がって良いわよ」
「何を。警護を下がらせるなどありえませんよ」
「あのねぇ、吸血姫である私がなにかされるとでも?」
「エレナ様は隙が多いので」
「舐めてんの!?」

 二人は側近というより仲良しの友達のように見えた。

「わかったからとにかく彼から離れなさい。話が進まないわ」
「「ちっ」」
「なんなの!?」

 オウルはようやく二人から解放され両腕が自由になった。ぐるぐると肩を回しているとエレナがオウルに話し掛けた。

「さて、始めましてよね。私が亜人達の代表を務める吸血姫エレナ・ブラッドよ。好きな物はマナトマト! よろしくね、オウル君」
「始めまして。魔王様の下で働いております人族でオウルと申します。突然の訪問失礼いたしました」

 そう言ってオウルは深々と頭を下げた。

「頭を上げて。確かに急な訪問ですし、いつまで待っても来ないし魔族国から週一でまだ着かないのかと確認が入るしで大変でしたが?」
「も、申し訳ありませんでしたぁぁっ!」

 エレナは腕組みをし笑みを浮かべてはいるがこめかみに血管が浮かび上がっていた。

「それで? 亜人国へは何用で来られたのかしら?」
「は、はい。実は──」

 オウルはエレナに魔大陸へと追放された人族の扱いついて話した。オウルの話を聞いたエレナから発せられた言葉はとても冷めたものだった。

「話はわかるしオウル君の言いたい事もわかったわ」
「そ、そうですか!」
「けど何か勘違いしてないかしら?」
「え?」

 エレナの視線が鋭いものに変わる。

「追放された人に罪はない? なら私達はどうなるの? 私達は人族の手によってこの不毛の大地に無理矢理押し込められたのよ」
「うぅ……」
「しかも監視されてね。そんな人族が追放されてきたから救いたい? 悪いけど私達亜人、獣人は全く救う気なんてないわ」

 冷めた視線と強い言葉にオウルは何も言えなくなった。オウルはただ自分と同じ境遇にある者を救いたい一心で動いたが、エレナの話を聞いてもっともだと考えを改めさせられた。

「け、けど俺も人族です。恨む対象にはならないのですか?」
「オウル君は別よ。オウル君は魔王様が自ら後継者にと望んだ人物ですもの。それにオウル君がいなければ食糧難すら解決できなかったわ」
「それは……え? あのっ」

 エレナが机から降りオウルに身を寄せる。オウルは突然の事に戸惑いながらエレナの柔らかさを感じた。

「オウル君には感謝してるわ。けどそれだけで人族を許せるほど私達は甘くないわ」
「……はい」
「それでもどうしても人族を救いたいというなら方法はあるわ」
「え? そ、その方法とは!?」

 オウルはエレナの肩を掴んだ。

「魔大陸には三つ国があるわよね」
「は、はい!」
「魔族の国から見て南西、私達の国から見て西はまだ未開の地になってるわ。そこを開拓して人族の地にすれば良いのよ」
「な、なるほど!」

 エレナはさらに身を寄せていく。

「もし、オウル君が亜人の国にマナトマト畑を作ってくれるなら少しだけ協力してあげても良いわよ?」
「き、協力とは?」
「そうね。私達の国側の海にも稀に追放されてくる人族はいるわ。その人族を保護しておいてあげる」
「ほ、本当ですか!?」
「えぇ。それと、マナトマト畑以外にも娯楽だったかしら? この国にオウル君が貢献してくれるごとに開拓も進めてあげるわ。どう? 良い取引じゃない?」

 オウルはエレナを思っていたより話がわかる人だと感じていた。そして人族を救いたいがために魔王シリルに相談もせずエレナの提案を受け入れた。

「わかりました。ただ一人では難しいのでせめて錬金に必要な素材を集めてくれる方を募ってもよろしいでしょうか?」
「それならネメアとサリアを貸してあげるわ」
「あの二人を? エレナ様の護衛では?」

 エレナはくすりと笑った。

「私は魔王と違ってレベル制限はないのよ? 本来護衛なんて必要ないの」
「あ、そうか! シリル様は呪いで……」
「決まりで良いかしら? 良いならオウル君が寝泊まりする場所を確保するけど」
「……お願いします。やっぱり俺は追放されてくる人族を救いたい。その中に悪人がいた場合は俺が対処します」
「悪人かどうかわかるの?」
「はい。スキル【審判】を使います。ルールはこの魔大陸のものに照らし合わせて裁きます」
「そう。それなら問題ないわね。ところで……」
「はい?」

 今度はエレナの顔が目の前まで迫ってきた。

「あ、あのっ」
「自分でいうのもアレだけど私って美人じゃない?」
「は、ははははいっ」
「そんな美人な私に迫られてるのに何も感じてくれないのかしら?」
「そ、それはっ! た、立場が違いますし」
「そんなの関係ないわよ。少し遊んでいかない?」
「え?」

 それから少しばかり時が流れ部屋の入口では。

「喰われてるねサリア」
「そうね、ネメア」
「私達にも回ってくるかな」
「わからないわ。でも回ってきたとしてもこの布は決して外せないのはわかってるわね?」
「うん。石化させちゃうから」
「新しい仮面でもつくろうかしら」
「賛成。それにしても……長い」

 二人は奥から聞こえるエレナの喜ぶ声を聞きながら警護を続けるのだった。
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