謎スキルを与えられた貴族の英雄譚

夜夢

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第一章 始まりの章

13 面接からのカフェオープン

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 朝、完成した建物の中にある飲食スペースにて面接が行われる事なった。建物はガラス張りになっているため面接の様子はオープンだ。飲食スペースを面接の場にしたのはオウルがどんな相手でもしっかりと話を聞くという姿勢を示すという表れでもある。

「それでは面接を始めます。まず志望動機からお聞きしますが、何故就職を?」
「スイーツ食べ放題だと思って!」
「……え?」

 これに絶句したオウルにカインが耳打ちする。

「酒場とか食堂だと余った料理食っても良いんだわ」
「そうなの!? 衛生的にダメでしょ!?」
「ほら、最近まで食糧難だったろ? 酒場とか食堂は優先的に食料回してもらってたんだ。だから働けば食えるって思ってるっぽい」
「な、なるほど」

 オウルはそれを踏まえ就職希望者に言った。

「申し訳ありませんが、当カフェでは食べ放題システムはありません」
「な、ないの!? それじゃ余ったスイーツはどうなるの!?」
「余さないように作りますね。食材は時間停止機能がある保管ボックスに入れます。それからここでは作り置きせず注文が入ってから作りますね」
「それだと焼き菓子とか時間かかるじゃないですか」
「そこは皆さんに料理スキルと調理スキルを付与しますので」
「え?」
「私のスキルは自分が持つスキルを他者に付与するスキルなので。もちろん辞めたからと言ってスキルは消したりしません。ここで得た知識を使い自分でお店を出しても良いでしょうしね。そう考えると食べ放題って変だと思いませんか?」

 就職希望者はオウルに諭され肩を落とした。

「そうね……。自分でお店を出すって考えたらとんでもなく赤字になりそうだし」
「わかっていただけましたか。ああ、でも全くゼロというわけでもありません。例えばメニュー試行錯誤中で作ったスイーツは食べて構いませんし、自分で作りたいスイーツがあれば申請を出してもらえれば研究費も出します」
「じ、自分で作るんだ」
「同僚と組んでお互いスイーツの道を極めるのも良いでしょう。そして独立も大歓迎です。この町を盛り上げる力は多ければ多い方がありがたいてすからね。では改めてもう一度。なぜ就職したいのてすか?」

 すると就職希望者はしっかりと前を向き答えた。

「わ、私の作るスイーツで皆を笑顔にしたいからです! そしてゆくゆくは自分のお店を出してみたいと思いました!」
「はい、ありがとうございます。その心を忘れないで下さいね。合否は後ほど手紙で送ります。本日はありがとうございました」
「よろしくお願いしますっ!」

 二人目、三人目も最初の就職希望者同様に余ったスイーツは好きに食べて良いものだとばかり思っていたようだ。中には食べ放題がないと聞いた瞬間に帰った者もいる。

 そうして朝から夕方まで面接していきようやく最後の希望者と対面した。その希望者を見たオウルとカインは顔を見合わせた。

「せ、先輩? 【クレア・リーズベルト】先輩ですか?」
「……私を知って……き、君はまさかオウル・マインズ? 一つ下の学年首席の? 隣は……すまない、わからない」
「カインですよ! カイン・ガラハッド! 昔学院で声掛けた事ありましたよね!?」
「……記憶にない。私は……君達より先にここにいる。昔の事はもう思い出したくもない」

 彼女はリーズベルト公爵家の長女だ。世間には学院卒業と同時に病気で亡くなったと報じられていた。

「病気じゃなかったんですね。では先輩も儀式で?」
「も……? では君達も追放を?」
「はい。俺は誰も知らないスキルでカインは調理でした。先輩は?」
「私は……言えない。人に言うようなスキルじゃないのだ」
「そ、そうですか」

 クレアはオウルの一つ上の学年首席で第一王子の婚約者だった。その第一王子は人類至上主義者の上浮気癖があり浪費癖もある。一般的にクズといわれる人間だ。

「では詮索はしないでおきます。それで……ここで働きますか? 嫌なら構いませんが」
「……働かなければ食べていけない事は身を持って知ったよ。成績や淑女としては優秀だったが私は箱入りだったからね。ここに送られるまで働いた事がなかったんだ。毎日風呂にも入れず食事は一日一回……何度か死のうと思ったくるいだ」
「そ、そんな……」
「だが死ねなくてな。こうして今も惨めに生きながらえているのさ」

 そこにカインが突っ込んだ。

「先輩は剣も魔法も使えたでしょ。町の外にいる魔獣を狩って売れば良かったじゃないっすか」
「戦えたらな。今の私はスキルのせいで戦えないんだ」
「た、戦えなくなるスキル? そんなの……って詮索になるか」
「すまない。だが……ここなら今の私でも働けそうだし、ゲームも問題なくできる」
「「おぉ!」」
「申し訳ないが詮索はナシで雇ってもらいたい。雇ってもらえたら何でもする。そして願わくばいつか私のスキルを消せる者を探して欲しいのだ」

 世の中には他者スキルを消すスキルがいくつか存在する。

「スキルを消すスキルってぇと……【スキルイーター】【デリート】【スキル改竄】【スキル改編】か?」
「俺もパッと思いついたのはそれくらいかな。しかもそのスキル持ちとは今の所会った事もない」
「俺もだ。わりぃ、先輩」
「気にしてないよ。私も昔この町で何人にも声を掛けて探したがいなかったからな。ここで探す事は諦めたよ」
 
 オウルは話を聞きながら考えていた。

「そっか(死のうと思っても死ねなく、戦闘系じゃないスキルか。不死なら先輩程の力量があればむしろ喜ばれる。死なないのではなく【死ねない】か)」

 そこでオウルはクレアのスキルに気付いた。

「そうか、そういう事か!」
「ん? どうしたオウル?」
「……」

 その言葉でクレアはオウルが自分のスキルに気付いた事を確信した。

「邪魔をした。やはりここては働けない」
「ま、待ってくださいクレア先輩!」
「な、なにをっ!」

 オウルは立ち去ろうとしたクレアの腕を掴み止めるのだった。
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