謎スキルを与えられた貴族の英雄譚

夜夢

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第一章 始まりの章

11 会談

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 オウルが城下町でカインと再会していた頃、魔王城に獣人の代表団と亜人の代表団が到着していた。

「お前達はここで待て」
「「「はっ! 【オライオン】様!」」」
「あなた達もよ」
「「「はい、【ブラッド】様」」」

 獣人を率いる代表はライオン型獣人【シーザー・オライオン】。立派なたてがみを生やし大柄の体躯にライオンを型どった漆黒の鎧に身を包んでいる。

 そして亜人を率いる代表は吸血姫【エレナ・ブラッド】。体躯はオライオンの半分で胸元が開いた黒いドレスをまとい赤い目で護衛達を待たせる。

 二人は客室に護衛を待たせ魔王シリルが待つ会談の間へと向かった。

「失礼する」
「お邪魔しますわ」
「うむ、入るのじゃ」

 円卓の奥に魔王シリルが座し向かいあう形で二人も座した。

「シリル様、今回の要件は街道を通したいとの事だったか」
「うむ。その前に疲れたじゃろ? 今食事を運ばせる」
「飯が出るのか! いや、これは俺ではなく部下に回して欲しい」
「案ずるでない。部下達にも同じ物を出す」
「なんと!」
「ふふっ」

 エレナが微笑みながら魔王シリルに言った。

「空から見ましたわ。あの畑、食糧の生産に成功したと言うのは本当でしたのね」
「な、なにっ!? この大陸で食糧生産だと!?」
「そうじゃ。おっと、食事が運ばれてきたようじゃ」

 二人の前に野菜をふんだんに使った料理が並べられていく。

「こ、これが魔大陸で採れた野菜だと!? どんな技を使ったのだ!?」
「あぁっ、このマナトマト凄く美味しいですわっ」
「そうじゃろそうじゃろ。まだまだあるゆえ堪能していくがよいぞ」

 二人は夢中で料理に舌鼓を打ち腹を満たしていった。

「いや、実に美味かった。久しぶりに満ちたわ」
「マナトマト持ち帰りたいですわねぇ」
「うむ。土産に持たせよう。それでは話し合いといこうか」

 魔王シリルは街道を通す理由と食糧生産が可能となった理由を二人に告げた。

「なるほど。ではその人間が錬金術で食糧を生産したという事か」
「人間……じゅるり」
「エレナ。オウルは妾のじゃからな。血は吸わせんぞ」
「す、少しだけっ! 先っちょだけで良いからっ!」
「どこの先っちょじゃ全く……」

 魔王シリルは身もだえるエレナを一喝した。吸血姫にとって人間の血は極上のワインに匹敵する。永らく人間の血を吸っていないエレナはオウルの血が欲しくて仕方ない。

「それよりだ。街道は通して良いのだな?」
「異論ない。食糧を回してくれるのだ、断る理由などない」
「私も異論はありませんわ。それともう一つお願いが」
「なんじゃ?」
「食糧と一緒に栄養剤も回して頂きたく。私の国にも畑を作りたいのですが」
「ふむ。構わぬよ。渡す前に何人か農業研修させ使い方を学ばせてはどうじゃ?」
「俺の国にも欲しいな。構わんか?」
「構わぬよ。では二国から研修生を派遣してもらい農業を修めたら帰りに持たせるとする。街道が通り次第派遣してもらおうか」

 二人は諸手を上げ魔王シリルの提案に乗った。続けて魔王シリルは二人にオウルの話をする。

「これらは全てオウルあっての事じゃ。そこで二国に頼みがある」
「頼み?」
「うむ。魔大陸において敵対する意思のない人間は襲わないでもらいたい。ここにはすでに何人かの人間を集めておる。人間の大陸において不要とされたスキルを持ち迫害された人間達じゃ」

 これにシーザーが頷く。

「人間に恨みはあるが魔大陸の発展に尽くしてくれる人間は襲わないと誓おう」

 ブラッドはよだれを我慢しながら言った。

「わ、私も吸血衝動を抑え襲わないと誓いますわ」
「すでに我慢できていないようじゃが……まあ許そう。それでは改めて、妾の国から二国に街道を通す事、魔大陸において敵対する意思の持たない人間を襲わない事に異論ないな?」
「ない」
「ありませんわ」
「うむ! ではこれからも魔大陸の発展のために力を合わせていこう」

 こうして会談は問題なく終わり、セヴァンスはこの時から部下百名を引き連れほぼ不眠不休で街道を整備していった。

 そして無事に会談を終えた魔王シリルは城下町に迎えを出した。

 数日ぶりに魔王シリルと対面したオウルは自分の目で城下町の見て感じた事を話した。

「娯楽……娯楽のう。確かに足りんとは思うがな。そもそも食う事に難儀していたのじゃ。娯楽までは考えが至らんかった」
「そこで城下町にいた級友カインと再会しましていくつか案をまとめてみたんです」
「ふむ」

 オウルは二人で考えたカードゲーム、チェス、リバーシの他、食堂以外の飲食店について話した。

「息抜きは必要か。チェスは戦略性を身に付けるには十分じゃからな。兵士の間で使わせよう。カードも身を滅ばさん程度での遊びなら許可する」
「はっ!」
「それとリバーシか。これは素晴らしいな。誰でも遊べるゆえ力なき者でも勝てそうじゃ。大会を開き優勝者に褒美を与える考えもまた素晴らしい。元となる物を商会に渡せ。大量生産し全ての民に行き渡るよう手配しておこう」
「ありがとうございます!」
「次にカフェか。女は甘い物が好きじゃからの。城にいる料理人らのスキルをコピーして良いぞ。町に住むお主が選んだ者にスキルを与える事も許可しよう」
「かしこまりました。街道完成までに間に合うよう動きます」
「うむ。ではそのように取り計らうのじゃ」

 そして夜、久しぶりに魔王シリルと並びベッドに入った。

「オウルよ、お主がきてから魔大陸はどんどん良き方へと向かっておる。お主には感謝しかないぞ」
「ありがとうございます。俺も自分を拾ってくれたシリル様には感謝しかありませんよ」
「……お主は魔大陸に暮らす者達の希望じゃ。これからも妾達のために力になってくれ」
「はい、シリル様」

 この翌日からオウルはカインと組み娯楽を広めていく行動に移るのだった。
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