上 下
8 / 37
第一章 始まりの章

08 初めての外出

しおりを挟む
 食糧難が解決に向かい手が空いたオウルに魔王シリルから褒美が渡された。

「これはお金ですか?」
「うむ。それは魔大陸でのみ流通している通貨シリルじゃ。こたびの褒賞としてお主に百万シリルやろう」

 いきなり金を渡されても価値がわからないオウルは首を傾げた。

「あの、百万シリルとは六大陸の金貨に置き換えたとしてどれほどの価値があるのでしょうか」
「同じじゃ」

 まとめるとこうだ。

・銅貨=10シリル
・銀貨=100シリル
・金貨=1,000シリル
・黒金貨=10,000シリル
・白金貨=100,000シリル
・虹金貨=1,000,000シリル

 普通の食事一回が金貨一枚でお釣りがくる。宿の素泊まりが金貨三枚、りんご一個が銀貨一枚だ。

「そ、そんなに貰えませんって!?」
「良い。金は使うためにあるのじゃからの。お主がその金を使う事で経済が回るのじゃ。それにそろそろ町に出てみたいじゃろ?」
「そうですね。ここにきてだいぶ経ちますが白いから一步も出てないですし」
「お主が食糧難の解決に尽力した事はすでに町に住む魔族全てが知っておる。お主の働きで民がどれだけ喜んでおるかその目が見てくるが良い」
「わかりました。ではありがたく頂戴いたします」

 黒金貨百枚が入った皮袋を渡しながら魔王シリルが言った。

「うむ。ああそうじゃ、今は特に急ぎでやる事もない。数日くらい町で宿を借り暮らしても良いぞ」
「町で? 戻らなくても良いのですか?」
「うむ。というかだな、もうすぐ街道が通り獣人と亜人の国から使節団が来る。奴らは人間を恨んでおるからの。今はまだ会わせたくないのじゃよ。妾から奴らにお主の功績を伝え認めさせる。余計な争いを防ぐためじゃ」
「わかりました。俺も争いは避けたいし従いましょう」
「うむ。全てが済んだら迎えを出す。それまでは町で暮らしておくのじゃ」
「はっ」

 こうしてオウルは初めて城を出て城下町に向かった。

「お、おぉ~……なんか……言っちゃ悪いけどこれは……」

 魔大陸の町は人間の町に比べ少し程度が低かった。建物は木造で平屋が多く、魔族の服装も簡素なものだった。しかし食糧難が解決したおかげか、町には食べ物を売る屋台が出ていた。オウルは物珍しさから屋台へと向かった。

「すいませ~ん、これなんですか?」
「らっしゃい! って、あ、あんた、まさか……オウル様っすか!?」
「え? は、はぁ。オウルですが」
「う──うぉぉぉぉぉっ! マジか!」
「へ?」

 屋台の店主はいきなり叫び出したかと思いきや今度は泣き始めた。店主はなかなかいいガタイをしており、オウルは若干戸惑っている。

「オウル様のおかげで家の娘が助かったんっす」
「娘さんが?」
「えぇ。魔獣の肉しか食えず栄養が偏って病気になってたんす。けど野菜が採れるようになってみるみる内に元気になって……全部オウル様のおかげなんっす!」
「そ、それはまた……どうも」
「オウル様には感謝してもしきれませんっす。さあ、これ食べてくだせぇっ」
「これは?」

 店主は串に刺さったタレを塗り焼いてある野菜のような物を手渡してきた。野菜のような物と表現した理由は渡された物が明らかに人間の大陸で採れる野菜とは違ったからだ。

「上からマナキャベツ、マナトマト、マナネギ、マナイモっす。これらは家の畑で採れるようになった野菜なんすよ」
「そ、そうですか。これが魔大陸の野菜……」

 人間の大陸では普通のキャベツ、トマト、ネギ、ジャガイモだが魔大陸では野菜の名前にマナがつく。色もキャベツは紫、トマトは赤いが白い斑点があり、ネギは青、ジャガイモはオレンジ色だ。

「味はオイラが保証しまっせ。ささ、食べてくんなせぇっ」
「じ、じゃあ」

 オウルは勇気を振り絞り独特の色をした焼き野菜にかぶり付く。ちなみに魔王城では人間の国の野菜が出されていたため魔大陸の野菜はこれが初めてだった。

「あ、美味い!」
「あざまぁぁすっ! これも全部オウル様のおかげなんすよぉ~。オウル様のおかげで売れるほど野菜を作れるようになってみんな喜んでまさぁ」
「そっか……頑張ったかいがあったよ」
「オウル様、野菜を使った屋台は他にもあるんでゆっくり見てってくだせぇ」
「ありがとう。ゆっくり見ていくよ」
「また来てくだせぇ~」

 それからいくつか屋台を回り派手な色をした野菜を食べていった。どの野菜も見た目は派手だが味は良かった。

「これが魔大陸の固有種なのかな。色はアレだけど味は良いんだよなぁ。ん? あれは……」

 屋台通りを抜けると畑と果樹園が見えた。

「あ、オウル様だ!」
「なんだって? オウル様がこんなトコにいるわけ……って本当にいるぅぅぅっ!?」

 子どもがオウルに気付くと作業をしていた大人達に伝わり一斉に取り囲まれた。

「オウル様、わざわざ来てくれたんすか!?」
「え、えぇ。時間ができたもので」
「おぉ……それは良かった。ささ、遠慮なく見てって下さいな。これら全部がオウル様の作った薬剤で育つようになったんですよ」
「なるほどなるほど。あの木になってる実はなんですか?」
「あれはマナアップルですね。もう少ししたら実に色が入って収穫できます」
「あれは?」
「マナグレープですな。酒の原料になりますね」
「へぇ~」
「ここはフルーツ畑と果樹園なんですよ。フルーツなんて私らには贅沢品でしてね。こうして育つようになってもう感謝しかないですよ」

 オウルは魔族達から感謝を言葉を次々掛けられ少し気恥ずかしくなりながらも笑顔を見る事ができて良かったと安堵していた。

「皆さん、食糧が育つようになったからと言ってもあまり無理しないで下さいね」
「もちろんですとも。無理のない程度で頑張りますとも」
「はいっ。あ、そうだ。町に宿はありますか? できたら食事もできる宿で」
「ありますともっ。家の倅に案内させましょう。お~い、オウル様を宿に案内してやってくれっ」
「うんっ!」

 最初にオウルに気付いた子どもがオウルの手を掴んだ。

「こっちだよっ。いこっ、オウル様っ」
「うん。では皆さんまた」
「「「「ごゆっくり~」」」」

 オウルは子どもに手を引かれ宿へと向かうのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?

みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。 なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。 身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。 一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。 ……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ? ※他サイトでも掲載しています。 ※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。

金貨1,000万枚貯まったので勇者辞めてハーレム作ってスローライフ送ります!!

夕凪五月雨影法師
ファンタジー
AIイラストあり! 追放された世界最強の勇者が、ハーレムの女の子たちと自由気ままなスローライフを送る、ちょっとエッチでハートフルな異世界ラブコメディ!! 国内最強の勇者パーティを率いる勇者ユーリが、突然の引退を宣言した。 幼い頃に神託を受けて勇者に選ばれて以来、寝る間も惜しんで人々を助け続けてきたユーリ。 彼はもう限界だったのだ。 「これからは好きな時に寝て、好きな時に食べて、好きな時に好きな子とエッチしてやる!! ハーレム作ってやるーーーー!!」 そんな発言に愛想を尽かし、パーティメンバーは彼の元から去っていくが……。 その引退の裏には、世界をも巻き込む大規模な陰謀が隠されていた。 その陰謀によって、ユーリは勇者引退を余儀なくされ、全てを失った……。 かのように思われた。 「はい、じゃあ僕もう勇者じゃないから、こっからは好きにやらせて貰うね」 勇者としての条約や規約に縛られていた彼は、力をセーブしたまま活動を強いられていたのだ。 本来の力を取り戻した彼は、その強大な魔力と、金貨1,000万枚にものを言わせ、好き勝手に人々を救い、気ままに高難度ダンジョンを攻略し、そして自身をざまぁした巨大な陰謀に立ち向かっていく!! 基本的には、金持ちで最強の勇者が、ハーレムの女の子たちとまったりするだけのスローライフコメディです。 異世界版の光源氏のようなストーリーです! ……やっぱりちょっと違います笑 また、AIイラストは初心者ですので、あくまでも小説のおまけ程度に考えていただければ……(震え声)

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

性奴隷を飼ったのに

お小遣い月3万
ファンタジー
10年前に俺は日本から異世界に転移して来た。 異世界に転移して来たばかりの頃、辿り着いた冒険者ギルドで勇者認定されて、魔王を討伐したら家族の元に帰れるのかな、っと思って必死になって魔王を討伐したけど、日本には帰れなかった。 異世界に来てから10年の月日が流れてしまった。俺は魔王討伐の報酬として特別公爵になっていた。ちなみに領地も貰っている。 自分の領地では奴隷は禁止していた。 奴隷を売買している商人がいるというタレコミがあって、俺は出向いた。 そして1人の奴隷少女と出会った。 彼女は、お風呂にも入れられていなくて、道路に落ちている軍手のように汚かった。 彼女は幼いエルフだった。 それに魔力が使えないように処理されていた。 そんな彼女を故郷に帰すためにエルフの村へ連れて行った。 でもエルフの村は魔力が使えない少女を引き取ってくれなかった。それどころか魔力が無いエルフは処分する掟になっているらしい。 俺の所有物であるなら彼女は処分しない、と村長が言うから俺はエルフの女の子を飼うことになった。 孤児になった魔力も無いエルフの女の子。年齢は14歳。 エルフの女の子を見捨てるなんて出来なかった。だから、この世界で彼女が生きていけるように育成することに決めた。 ※エルフの少女以外にもヒロインは登場する予定でございます。 ※帰る場所を無くした女の子が、美しくて強い女性に成長する物語です。

男女比1:10。男子の立場が弱い学園で美少女たちをわからせるためにヒロインと手を組んで攻略を始めてみたんだけど…チョロいんなのはどうして?

ファンタジー
貞操逆転世界に転生してきた日浦大晴(ひうらたいせい)の通う学園には"独特の校風"がある。 それは——男子は女子より立場が弱い 学園で一番立場が上なのは女子5人のメンバーからなる生徒会。 拾ってくれた九空鹿波(くそらかなみ)と手を組み、まずは生徒会を攻略しようとするが……。 「既に攻略済みの女の子をさらに落とすなんて……面白いじゃない」 協力者の鹿波だけは知っている。 大晴が既に女の子を"攻略済み"だと。 勝利200%ラブコメ!? 既に攻略済みの美少女を本気で''分からせ"たら……さて、どうなるんでしょうねぇ?

貞操観念が逆転した世界で、冒険者の少年が犯されるだけのお話

みずがめ
恋愛
ノイッシュは冒険者として索敵、罠外し、荷物運び、鑑定などあらゆるサポートをしていた。だが彼がパーティーに求められることは他にもあったのであった……。男一人に美女二人パーティーの非道な日常のお話。 ※貞操観念逆転世界で気弱な男が肉食系の女に食べられちゃうお話です。逆レイプが苦手な方は引き返すなら今ですよ(注意書き)

処理中です...