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第一章 始まりの章

02 主人公

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 ここは拳王の治めている東南大陸。その最南端にある国【グローリア王国】。目を凝らせば魔族の棲む南大陸が見える距離にある人種族の国で最も魔大陸に近い国である。そのグローリア王国の一貴族、【マインズ男爵家】の三男として【オウル・マインズ】はこの世に生を受けた。

 男爵家、それも三男ともなれば余程の事でもなければ爵位継承には関われないのだが、マインズ男爵家長男、次男共に人種至上主義よろしく貴族以外を人と認めないような愚者だった。加えて長男は強さこそ全ての東南大陸でも一二を争う強スキル【双魔剣士】を授かり、次男はスキル【超速詠唱】を授かっていた。

 双魔剣士は双剣に違う属性の魔法を付与し、訓練次第では付与属性を超速スイッチしながら戦う事ができる戦闘スタイルだが、長男はそこまでには至っていない。

 そして次男の超速詠唱は他者より数倍速く詠唱を完成させ魔法を放つスキルであるが、こちらもスキルにあぐらをかいたせいか、修行が嫌いな性根のせいか全く使いこなせてすらいない。せいぜいが人より二倍速いくらいだ。

 二人はスキルに溺れ、他者を陥れ愉悦に浸る事にのみ心血を注いでいた。

 そんな状況の中、親も親戚も長男次男ではなく三男であるオウルに爵位を継がせるべきという流れになった。マインズ男爵はオウルの儀式を期に正式に後継者とするつもりでいたが、その期待は脆くも崩れ去った。

 今日はオウル十五歳の誕生日。この世界では十五歳になると誰しもが神からスキルを授かる事ができる。だが教会に行けぬ者はスキルを授かる事ができない。

 ここまで告げればわかるだろう。人種至上主義は儀式を受けられる者を厳しく管理しており、人、それも貴族以外の者は一切儀式を受ける事ができない。これは魔王を除く六人の王が定めた絶対ルールであり、世界のルールとなっている。

 スキルを持つ者に持たない者は勝てない。スキル次第では勝てる者もいるが、支配者たる階層には間違っても勝てないのである。このルールこそが人種が支配者たる所以なのである。

 当然このルールに不満を持つ者もいる。それが亜人や獣人、そして一部の魔族達だ。それ以外にも儀式を受ける事ができない人種の中にも不満を持つ者はいる。その誰もがこのルールを破壊してくれる者の誕生を祈っていた。

 ここはマインズ男爵領にある小さな海辺の教会。その教会に十五歳となったオウルが父に連れられ儀式を受けに来ていた。

 白髪を後ろに流し口髭を蓄えたマインズ男爵が白く輝く正装に身を包み艶のある黒髪を肩まで伸ばした美青年オウルに語り掛けた。

「オウルよ。そなたの兄二人は優秀なスキルを授かったがあの体たらくでは爵位を継がせられぬ。そなたには期待しておるぞオウル」
「はいっ、父上!」

 オウルは胸に拳を当て礼をする。これまではっきりと期待された事がなかったオウルは初めて父の愛情を受けた気がしていた。

 話が終わると二人並び司祭の待つ祭壇の前へと歩み出る。オウルがさらに一歩司祭の前へと進み床に膝をつくと儀式が始まった。

 白髪の老司祭が経典を片手に宣言する。

「神よ。今日この日、新たな命が儀式を受けるまで健やかに成長しました。どうかこの若者に神の祝福を」

 祝辞が終わると祈るオウルに天井から光の柱が降り注いだ。全ての光がオウルの中に消えると老司祭が手にしていた経典を開いた。

「こ、これは──!」

 思わず男爵が声を上げた。

「ど、どうしたのだ! まさか王のスキルか!?」

 しかし老司祭は首を横に振った。

「ち、違うか」
「はい。しかしこれは……」
「どうしたというのだ」

 老司祭は経典に浮き上がったオウルのスキルを目にし首を傾げていた。

「御子息が授かったスキルは……」
「ええい、早くいわぬか!」
「は、はい。スキルは……コ、【コピペ】です」
「「は??」」

 首を傾げる老司祭の言葉に男爵とオウルも思わず声を上げた。

「な、なんだコピペとは?」
「それがですな、これまでこのスキルを発現した者がおらず効果は不明でして。しかも聞いた事すらない言葉でして何ができるか全くの不明でして……」
「ならば貴様の鑑定で見ればよかろう!」
「それが……説明文が知らない言語……いや記号の羅列? と、とにかくわからないのです」

 男爵が唾を飲み込み老司祭に尋ねる。

「つ、つまりオウルのスキルは……」
「詳細や効果はわかりませんが最高ランクが王と名のつくもの、それに次ぐスキルが剣や拳、魔を冠するスキルであり、その他は汎用スキルに分類されておりまして……つ、つまりその……」

 言い淀む老司祭を無視し、男爵は腰に下げていた剣を抜いた。

「こ、この出来損ないがぁぁぁぁっ! わずかでも貴様に期待した私が愚かであったわ!」
「ち、父上なにをっ!」

 剣を向けられたオウルは床に尻餅をつき後ずさる。

「廃嫡だ」
「……え? は、廃嫡?」
「貴様など私の息子でもなんでもないっ! 爵位は長男に継がせる! 有用なスキルならば補佐にしようと考えていたが汎用スキル持ちなど我が家に必要ないわっ!」

 そう言い放ち男爵は左手で腰に下げていた布袋をベルトから外しオウルに放り投げた。

「これは……」
「手切れ金だ。これで我が家と貴様の間には縁もゆかりも無い。その上で貴様に告げる。貴様を魔大陸への追放刑に処す!!」
「そ、そんな!」

 そこで老司祭が男爵に待ったをかけた。

「お待ち下さい男爵殿! 汎用スキルといえどオウル殿はスキル所持者であります! 人の手の届かぬ範囲に送り反乱でも企てられたら!」
「汎用スキル一つで反乱? はっはっは!」

 嘲笑う男爵はまるで虫けらでも見るような視線で床にへたり込むオウルに言い放った。

「できるならやってみてもらいたいものだ。反乱まで企てるようならば息子といえども殺さねばならんからな。本来ならば今すぐ殺してやりたいが今殺せば私が罪に問われてしまうだろう」
「し、しかし何も魔大陸に送らずとも……」
「魔大陸に棲む魔族どもは人に恨みを抱えているのだろう? ならば私どもが手を汚さずとも魔族がそやつを殺してくれるではないか」

 たかがスキル一つでこれまで男爵は爵位を継がせるとまで期待を向けていたオウルを見限った。

「ああ、追放刑では体裁が悪いな。よし、貴様には魔大陸の調査と魔族殲滅の任を与える。報告はいらん。二度と人の地を踏む事はないのだからな」
「あ、あぁぁ──っ! 父上っ!」
「ふん、私はもはや貴様の父ではない。軽々しく呼ばないでもらいたいな。司祭よ」
「は、はい」

 男爵は司祭に背を向け扉に手をかけ言った。

「確実にその者を魔大陸送りにしろ。教会が犯罪者を送るルートを持っているはずだ。知らんとは言わせんぞ」
「た、確かにありますが。本当によろしいのですか?」
「構わん。親の役に立てん者に価値などないのだからな」

 そう言い放ち男爵は教会をあとにした。司祭は捨てられ絶望するオウルに声を掛ける。

「オウル殿。男爵樣が仰った犯罪者を送るルートは確かに存在しております。ですがそのルートは魔大陸まで通じてはおりません」
「……え?」
「魔大陸には向かわず途中で荒れ狂う海へと投棄されるのですよ」
「そ、そんなっ!」

 司祭はさらなる絶望に落ちたオウルの肩に手を置いた。

「オウル殿のスキルは前列がありません。万が一汎用スキルではなく成長するスキルであれば失うのは人類に対する大いなる損失となりましょう」
「成長する……スキル?」
「はい。スキルの中には成長するモノがあるのです。今はまだ汎用スキルでも成長すれば唯一無二のスキルになる可能性もあります」

 司祭の言葉を聞いてもオウルはすでに諦め闇に落ちていた。

「だからどうしろと。俺の投棄はかわらないでしょう」
「いえ。オウル殿には教会の調査員として正式に魔大陸へと向かってもらいます」
「え?」

 オウルは突拍子もない事を口にした司祭を見上げるのだった。
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