スキル『箱庭』を手にした男ののんびり救世冒険譚〜ハズレスキル? とんでもないアタリスキルでした〜

夜夢

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第72話 到着

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 レイは使者の転移でエイジアン王国の王都に転移した。

「レイ殿、ここがエイジアン王国王都【ザカーオ】になります」
「ここがエイジアン王国か。あ、結界張ってるね」

 遥か上空に結界が見える。空を飛ぶ魔獣が体当たりをしていたが王都に侵入できていない。

「まずは転移石をお返しします」
「はい」

 レイは使者から転移石を受け取り収納した。

「それで僕はこれからどうしたら良いですか?」
「はい。まずは女王メディス様に会っていただきます。この時間ですとおそらく結界の外で敵を間引いておられるでしょう。我々はひとまず先に城に向かいましょうか」
「え? 助けに行かないんですか?」
「はっはっは。我々では逆に邪魔をしてしまいますからな。と言いますか、巻き込まれて死にたくないんです」
「は、はぁ」

 どうやらメディスの力は相当なもののようだ。

「あの、エイジアン王国の領土ってどの位なんですか?」
「はい。我がエイジアン王国はこの王都とわずかな土地しかありません」
「へ? そんな小さかったんですか!?」

 規模で言えば箱庭の町より小さい。

「総人口は約一万、大した産業もなく食糧はほぼ輸入しております」
「えっと……それだと現状かなりまずいのでは?」
「はい。蓄えていた食糧はもうほぼ空です。メディス様には何度も伝えておりますが……絶え間なく敵が押し寄せるため手が打てないのです」
「なるほど」

 そう話をしている内に城に到着した。使者が門番に帰還の報告をする。

「ただいまエルドニアからレイ殿を連れて戻った。メディス様は?」
「お、おぉっ! よくぞご無事で! にしては早くないですか?」
「レイ殿より転移石をお借りしてな。してメディス様は?」

 門番は溜め息を吐き使者に言った。

「いつものです。ちょっと敵を減らしてくると言われ北に」
「あのお転婆姫は自重を知らんのか全く……。まあ良い。とにかくレイ殿を連れて参った。中でメディス様を待ちたいのだが」
「はっ。では客間にてお待ち下さい」
「うむ。レイ殿、行きましょうか」
「あ、はい」

 レイは使者に続き城に入った。城といっても良いのかわからないが、エイジアン王国の城はかなり小さい。レイの実家より少し大きい程度だった。

「小さくて驚きましたでしょう?」
「え、いや……」
「ははは、我が国は小国です。フォールガーデン生まれのレイ殿からしたら驚くのも無理はありません」
「す、すみません」
「いえいえ。先代は慎ましやかな御方でしたから。国土を広げるより民の幸せを優先する立派な御方だったのです」
「善王だったのですね」
「はい。……メディス様にもその血は流れているはずなのですがねぇ。どうしてああもお転婆になられてしまったか」
「ははは」

 レイは愛想笑いしか返せなかった。

(まずい。メディスってどんな人だったっけ。学院時代僕に次ぐ優秀な生徒だったらしいけど……あの頃は自分磨きにしか興味なくて誰とも深く接してなかったんだよなぁ)

 そして客間に案内され、使者は自分の役目はここまでと言い去って行った。レイは一人客間でメディスを待つ。

「エイジアン王国か。王都なのに人影がなかったな。家の中に避難してるんだろうか。冒険者の姿も見えなかったし……あの時のエスタに似てるな」

 そうしてしばらく待っていると部屋の外が騒がしくなり、勢いよく扉が開け放たれた。

「レイ!」
「え? うわっ!? だ、誰!?」
「失礼ね、メディスよメディス・エイジアン!」
「えぇぇ……」

 呆れていると後ろから侍女達が息を切らせながら走ってきた。

「メディス様! 客人に会われる前に身形を整えて下さいっ!」
「そうですよ! 客人もドン引きしてます!」
「すみませんうちのメディス様がバカで……」
「ちょっと、誰がバカよ! レイ、ちょっと血を洗い流してくるから待っててねっ」
「は、はぁ」

 メディスは侍女に連行されていった。

「あ、あんな人いたっけ? まるで記憶にないんだけど」

 一時間後、鎧姿から軽装になったメディスが赤い髪を一本結いにし客間戻ってきた。

「お待たせ、待たせてごめんねレイ」
「あ、あの~……あなたがメディス様でよろしいですか?」
「え、何その話し方。学院にいた時みたいに砕けた感じで良いよ?」
「そんなわけには。僕は平民、あなたは一国の主です」
「私が良いって言ってるから良いのっ! ほら、敬語なんかいらないから普通に話してっ」
「は、はぁ」
「あ、とりあえず座ろっか」
「は、はい」

 レイがソファーに座るとメディスは対面に座ると思いきや隣に腰を下ろしてきた。

「あの、普通向かいに座りますよね?」
「良いじゃないっ。学院の教室でずっと隣に座ってたじゃない」
「そう……でした?」
「ま、まさか覚えてない……の?」
「えっと……」

 レイは必死に学院時代を思い浮かべようとしたが、誰一人として顔を思い浮かべられた人物はいなかった。それだけ自己研鑽のためだけに日々を費やしていた。

「すみません。あの頃は自分を磨く事にしか興味がなかったもので」
「そん……な……。じ、じゃあ私の猛アピールは!?」
「え? 何かされていたんですか?」
「は……ははっ」

 メディスは真っ白に燃え尽き黙るのだった。
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