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第67話 国境にて

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 コード1が去った翌日、冒険者ギルドに向かうと受付の女性に奥の部屋へと連れて行かれた。

「国境警備にあたって欲しい……ですか」
「はい。オルス大臣よりレイ殿に指名がありまして」
「オルスさんから? なるほど、指名依頼ですか」
「それで報酬の件ですが、こちらが少しややこしくてですね」
「はぁ」

 受付の女性がオルスからの報酬が書かれた紙を提示する。レイは紙を手に取り確認した。

「避難民の扱いは貴殿に一任する。扱いに困る避難民がいたら国軍を待機させる予定の旧エスタに送ってくれたら良い。そして万が一魔族が現れた場合、できるなら殲滅を願う。報酬は危機が去ったあとで城に顔を出してくれたら話し合いで決めたい。これで納得してくれるなら今すぐにでも国境へと赴いてもらいたい……ですか」

 受付の女性がレイに尋ねる。

「どうしますか? これは国からの直接指名依頼なので本来は金級冒険者以上の依頼になっておりますが」

 レイは現在銀級冒険者だ。本来は指名依頼を受ける義務はない。

「受けなきゃエルドニアが争いに巻き込まれるんでしょ? フォールガーデンは助ける気はないけどエルドニアのためなら動きますよ」
「そ、そうですか! ありがとうございますっ!」
「向かうのは僕一人だけ?」
「いえ、すでに力のある冒険者はエスタがあった場所に駐留してもらっています。皆さんには緊急依頼で後ほど国から報酬が支払われます」

 つまりこの依頼はエルドニアの冒険者が箱庭に入れない者をエスタにて退避させるのでそれ以外はレイの裁量で好きにして良いというものだ。箱庭を知るオルスならではの作戦である。

「わかりました。オルスさんには向かうと伝えて下さい。あまり気乗りはしませんがね」
「あ、ありがとうございます!」

 冒険者ギルドを出たレイは箱庭に戻りリリーに国境に向かうと伝えた。

「なんで受けたなの?」
「本当は行きたくないんだけどね。嫌いなのはイストリア人だけだし。それ以外で助けを求める人なら救っても良いかなと」
「わかったなの。私も手伝うなの?」
「いや、今回は大丈夫だ。もし魔族が出たら手伝ってもらうよ」
「わかったなのっ」

 そうしてレイは一人転移石を使い国境に向かった。国境ではすでにフォールガーデンから避難してきたと思われる人達でごった返していた。

「頼むから入れてくれよっ!」
「魔族がっ! 魔族が暴れてるのよっ!」
「お、俺は冒険者だ! エルドニアで働くから入れてくれよっ!」
「す、少し待たれよっ! まだ王から許可がでておらぬっ!」
「いつ許可が出るんだよっ! 早くしろっ!」
「そうよっ! 田舎者の癖にっ!」

 レイは遠巻きに様子を窺っていた。

「あいつらは箱庭に相応しくないかな。助けを求める相手を罵倒するとかありえない。よし、直接話をして決めようかな」

 レイは混雑する国境に向かい兵士に声を掛けた。

「お疲れ様です」
「あっ! あなたはレイ様! 来ていただけましたか!」
「依頼は受けました。これから避難してきた人達と順番に話をして通すか決めます。調書室に通して下さい」
「調書室にですか?」
「はい。それで中から出てきた人はそのままエスタに隔離して下さい」
「わ、わかりました。すぐに対応します」

 それからレイは調書室に入り避難民と順番に面接をしていった。

「あんた何者だよ。まぁ何でも良いからエルドニアに入れてくれ。土地余ってんだろ?」
「なるほど。わかりました、では兵士とエスタに向かわせますのでエルドニア側の入り口でお待ち下さい」
「はっ、最初からそうしろってんだ。これだから田舎者はよ。とろ臭ぇんだよ」

 エスタに向かう。つまり箱庭には入れてもらえない価値のない人間だ。エスタではフォールガーデン人が町の外に出られないように兵士や冒険者達に監視され、自由の少ない環境で過ごす事になる。

「あの……私は入れなくても構いません。ですが妻と娘だけは助けて下さいっ!」
「あなたっ!」
「お父さん入れないの……?」

 レイは笑顔で家族に声を掛けた。

「大丈夫です。家族を想うご主人の言葉に感動しました。さあ、この扉から中へ。仮設の避難区画があります。そこで中が気に入ったらそのまま住人になっていただいて構いませんよ」
「「「え?」」」

 レイは箱庭の中に避難民のために仮の居住地を設置していた。そして面接に合格した者のみを調書室に設置した箱庭への扉から中に迎え入れる。

「なっ!? 国境にこんな大きな町が!?」
「こんな町あったかしら?」
「うわ~! お父さん、お母さん! 大きな町があるよ!」
「ここは僕が作った世界です。気に入ったら仮ではなく町の方に住んでもらいます」

 父親が手を組みレイに祈った。

「感謝いたしますっ! 親子バラバラにならずに済みましたっ!」
「大変でしたね。さあ、中でゆっくり休んで下さい」
「ありがとう……ありがとうっ!」

 それから順調に避難民の選別が行われ、国境に群がっていた避難民が片付いた。レイは調書室から出て兵士に声を掛ける。

「エスタにはもう向かいました?」
「はい。ご協力感謝いたしますレイ様!」
「いえ。多分まだ来ると思いますのでしばらくはここで待機しますね。来たらまた選別をします」
「助かります」

 こうしてレイは救われるべき者のみを迎え、その者らから魔族の情報を聞き出すのだった。
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