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第63話 アクアドラゴン

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 小舟を操り浮島へと向かう。途中引き返す釣り人達に何故か応援された。

「お! あんたがレイさんか」
「え? はい」
「いやぁ~、俺達がこうしてのんびり釣りしてられんのはあんたのおかげだなっ。何するかわからんが頑張れなっ」
「あ、ありがとうございます?」

 反乱軍鎮圧の影響は思っていたよりも大きく、レイはエルドニアに住む国民の大半が知る所となっていた。

「な、なんか気恥ずかしいな。って照れてる場合じゃない。陽が落ちる前に着かないと」

 器用にオールを操り紅く染まりかける湖面を進む。レイは浮島に近付くにつれ何か圧を感じ取っていた。

「まさか……向こうに気付かれてる? い、いきなり戦闘とかないよなぁ……」

 もし戦いになった場合のためにレイは空中で戦う用意をしている。だが圧はあるものの小舟は無事に浮島に着岸した。

 レイは杭にロープで小舟をくくり浮島の中心に向かった。

「祠だ。何か書いてあるな。なになに……」

 祠の前に立て札があり、そこにはこう記されていた。

『力なき者、祠に触れるべからず。悪しき者、祠に近寄るべからず。正しく強き者、時が訪れるまで祠に触れるべからず。時が来たりし時、正しく強き者にのみ求める道は開かれよう』

 レイは立て札を読みながら考察した。

「弱い者と悪人が触ると何か危ない事が起きるみたいだな。アースドラゴンの話ぶりからして多分この正しく強き者は箱庭を持っている者の事かな。でも時が来たりし時ってなんだろ? もしかして時が来ないと何も起きないとか?」

 レイはしばらく悩み意を決した。

「何も起きないなら今はその時じゃないって事になる。よし、触れてみよう」

 祠の前に立ちゆっくりと手を伸ばす。

「うっ! ゆ、揺れがっ!」

 祠に触れた途端、浮島が揺れ始め触れていた祠が左右に別れた。そして祠があった場所に地下へと続く階段が現れた。

「……道ができた。つまり時は来たって事? うっ、さっきより凄い圧を感じる。な、なんか嫌な予感がするな」

 開いた入り口から湖面を進んでいた時よりもはるかに強い圧を感じ二の足を踏む。

「迷っていても仕方ないっ。よし、進むぞっ!」

 ここまで来て引き返す気はないレイは、人一人がどうにか進める幅の階段を下っていった。

「地下なのに明るい? それに下るたびに幅が広くなっていく」

 階段は螺旋状になり地下へと続いていた。幅が広くなるにつれ光が増していく。

「光の正体は光り苔か。それにしても……どこまで続いてるんだこれ」

 ゆっくりとだが階段を下り続けて一時間が経過した。ある程度まで幅が広くなった階段はまだ終わりは見えない。だが下るごとに放たれる圧は増していた。

「近い……のかな。アースドラゴンより強い圧を感じる」

 途中に分かれ道はなく、魔獣が現れる事もない。そうして歩いていく内にだんだんと時間の感覚が薄れてきた。

「外は夜になったかな。いや、待てよ……」

 レイはもう一度立て札の内容を思い出す。

「正しく強き者のみに求める道が開かれる……。求める道が……そういう事か!」

 レイは立ち止まり目を瞑った。

「僕が求めるのはアクアドラゴンがいる場所に続く道! これは僕が求める道じゃないっ!」

 そう叫ぶと階段全体が光輝き一瞬レイの平衡感覚を奪った。レイはたまらず壁に手をつき光が収まるまで待ち目を開いた。

「やっぱり幻だったか」

 目を開くと地下へと続いていた階段が消え、目の前に小部屋とさらに先へと続くだろう扉があった。

「圧が凄いっ! これは確実にいるし……覚醒してるか……っ」

 覚悟を決め扉を開こうと手を伸ばしたレイは扉に刻まれている文字に気付いた。

「あれ? 何か書かれてるな。なになに……」

 扉にはこう記されていた。

『中に入ろうとする者へ告ぐ。まずは汝の人となりを示せ。扉は結界が張っており開かぬ。それでも入りたいのならば貢物を扉に触れさせよ。我が満足したら結界は解け扉は開かれるだろう』

 レイは扉に伸ばした手を引っ込めた。

「貢物? あ、あぁはいはい。ここで必要になるのか。っていうか満足しなきゃ会えもしないの? セキュリティ多すぎだよ」

 そう呟きレイは収納からまずはエールを取り出し樽を扉に触れさせた。すると樽は扉に触れた瞬間消え、中から放たれていた圧が少し減り、歓喜の声が響いた。

《な、なにこれうっっま!? いや~、エール舐めてたわ~。そりゃ千年ぶりだも……って違うっ! まだ満足なんかしてないんだからね! 次寄越しなさいよ次っ!》
「……えぇぇ」

 レイは唖然とした。

「いやいや、今の確実に満足してたよね? なんか違う意味で危険を感じるんだけど」
《あ、あとツマミも出しなさいよ! 空きっ腹に酒は身体に悪いからねっ》
「リクエストまでするの!? な、なんなんだアクアドラゴンって!?」

 それからレイは箱庭に入り料理屋からツマミを仕入れ酒と共に延々貢いでいった。

《ふ~ん、オークキングのなにこれ?》
「すき焼きって料理らしいです」
《へぇ~。あ、東方の郷土料理じゃない! ならこれに合うお酒も持ってるでしょ? 早く出しなさいよ》
「……もう面倒くさいんで扉開けてもらっても良いですかね。じゃないと帰りますよ」

 すると物凄い勢いで結界が弾け飛び扉が開け放たれた。そして中からシーサーペントに似た蛇型の竜が空中を泳いで飛んできた。

《ちょっと! 帰るってなによ帰るって! 帰る前にあるだけ全部置いていきなさいよっ》
「ちょっ、酒臭いっ!? は!?」

 扉の中を見ると貢いだ酒の樽が全て空になり地面に転がっていた。

「ま、まさか全部一気したのか!?」
《樽がちっちゃいのよ。ドラゴンの大きさ舐めんな。ほら、まだあるんでしょ。早く出しなさいよ》
「な、なんだこいつ……!?」

 レイは瞳を充血させながら樽を鷲掴みにする竜を見て引くのだった。
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