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第62話 最高の酒を求めて

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 おそらくただ飲みたかっただけのドワーフと別れ、レイは山から町へと向かった。町にはいくつか酒造工場があり、それぞれで別種の酒を作っている。

 レイはその中から水を使う酒造工場に向かった。

「こんにちわ」
「あっ! レイさんじゃないですか! 出迎えもできずにすみません」
「いえいえ。あの、もしかして手造りなんですか?」
「へい」

 酒造工場は素材さえ入れれば一瞬で酒が完成する機能がある。だが訪れた先ではオーナー自らエプロンをし樽を掻き回している。

「いやね、簡単なのも良いんですが……やっぱり手間暇と愛情を注ぐのが職人っす。最近はどこの工場も市販品以外は手造りなんすよ」
「へぇ~。皆さん本腰入れて酒造りを?」
「はい。平和なもんでできる事っすよ。そうだ!」
「ん?」

 オーナーが一度離れ一本の瓶を手にして戻ってきた。

「これは?」
「いつかレイさんに会えたら渡そうと保管していたウチ一番の酒です。これ米から作ったんすよ」
「へぇ~」
「ルーベルの爺さんから聞いたんですがね。これ東の島国が本場らしいんす」
「ルーベルの……あ、シーサーペントの! 何でそんな詳しいのかな」
「そこまでは。で、爺さんいわく、これ……本場のより美味いらしいんですわ」
「本場より!? 凄いですね!」

 褒められたオーナーは照れながら頭を掻いた。

「東の島国も安全とは程遠いらしく、本腰入れて酒造るわけにはいかないらしいんで。毎日酒の米からばかり考えて試行錯誤できるからこそ到達した味っす」
「平和って尊いですね」
「はい。あ、今試飲用のグラスと瓶持ってきやすね。客間に行きましょうか」
「悪いね」

 そして場所を客間に移しオーナー直々に酒を注いでもらった。

「凄い……。濁りが全くない!」
「ここはおそろしく水が綺麗な上に魔力が豊富なもんで」

 注がれた酒は不純物一つなく完全な透明に近く、ほのかに香る米の香りが早く飲めと誘ってくる。

「ちなみにこれ何て酒ですか?」
「純米大吟醸【信長】と名付けました。東の島国で一番強いと謳われた英雄の名でさぁ。あ、めちゃくちゃ強いので少しずつ飲んで下さい」
「わ、わかりました」

 飲む前に注意が入るなどドワーフの火酒くらいだと思っていたレイは緊張した面持ちでグラスを手にし、軽く一口口に含んだ。

「っ!?」

 オーナーの顔に笑みが浮かぶ。レイはゆっくりとグラスから口を離し酒を胃の中へと流し込んでいった。

「ふぅ……。強い……でもこの香りが鼻から抜ける感じ……凄く良い酒ですね!」
「でしょう? 他の職人もこれには勝てないって言ってくれて……。最高に誇らしいんすよ」
「……これだ」
「え?」

 レイはオーナーに断りを入れ、アクアドラゴンの話を告げた。

「なるほど。俺の酒でアクアドラゴンを仲間に……」
「構わないかな? 僕にってもらった酒だけど」

 するとオーナーはレイの頼みを快く受け入れ言った。

「何言ってるんっすか。こんなのまだまだ通過点すよ。これから必ずもっと美味い酒を作るっす。それに俺の酒をアクアドラゴンが認めるなんて箔がつくじゃないっすか! あ、でもまだ不安すね。ちょっと待っててもらえますか?」
「はい」

 それからしばらくすると客間に他の職人達が瓶を抱えてやってきた。

「レイさん! ぜひとも俺の酒もアクアドラゴンに!」
「え!?」
「俺のもお願いします! あいつだけズルいっすよ」
「ワシのも頼むっ! アクアドラゴンの好みなどわからぬじゃろ!? 米酒が失敗したら困るじゃろ」
「だから他にも持っていって下さい。どれも量産じゃなく一から手造りです。俺らの力をレイさんのために使って下さいっ!」
「み、皆さん……!」

 レイは職人達の心意気にいたく感動していた。

「ありがとうございますっ! この酒で必ずアクアドラゴンを仲間にしてみせます!」
「「「「頼みますっ!」」」」

 レイは様々な種類の酒を手にしドワーフの待つ山に向かった。

「……ここは見なかった事にしよう」

 ドワーフ達は全員酔い潰れ床に転がっていた。そしてテーブルにメモ書きで一言。

《すまん。ワシらは飲む専門だ。理想の酒はあるが辿り着けんかったわい。後は任せた》

 こうなるだろうと予想していたレイはそっと山を後にし、箱庭から出た。そして転移石を使いアクアヒルに転移する。

「湖に浮かぶ浮島か。確か人は近寄れないんだったっけ。無断で向かうのもなぁ。ちょっと町長に断りを入れにいこう」

 空を飛べるレイなら無断でこっそり浮島に行く事はできる。だがそれは道理に反すると考えアクアヒルの町長に断りを入れる事にした。

 そうしてレイは町長と面会し、浮島に行く許可をもらうのだが、許可は簡単に出た。

「え? 良いんですか?」
「ええ。構いませんよ。近寄る事を禁止していた理由はアクアドラゴン様の怒りに触れないようにするためでしたしな。我が家には代々伝わっておるのですよ。安易にアクアドラゴン様を起こすべからず……とね。レイ様が向かうという事は大事な理由なのでしょう?」
「レイ……様?」

 町長は豪快に笑った。

「レイ様の活躍を知らん者はアクアヒルにはおりませんよ。なにせ黒い鴉……いや、国家転覆を企んでいた逆賊を討伐したのですからな。そのレイ様が望まれるのですから応えるのです。ささ、舟を貸しますので陽が暮れる前に」
「あ、ありがとうございます」

 そうしてレイは夕暮れ前、町長から借りた舟で浮島にある祠へと向かったのだった。 
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