スキル『箱庭』を手にした男ののんびり救世冒険譚〜ハズレスキル? とんでもないアタリスキルでした〜

夜夢

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第56話 リーンウッド

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 陸の孤島と化していたリーンウッドの町に降り立ったレイは並ぶ住民達に食糧を配布した。

「肉が欲しいっ! しばらく畑の野菜しか食えてなくて」
「ありますよ。どうぞ、オーク肉です」
「うおぉぉぉっ! ありがとうっありがとうっ!」
「わ、私もお肉が欲しいわっ」
「ではロックバードなど如何ですか?」
「は、はいっ!」

 並んだ住民達の大半が肉を希望していた。

「あの、肉は確保できていないんですか?」
「ああ。ここの森にいる魔獣は強くてな。戦うスキルがない俺らじゃ狩れなくてさ」
「どんなのがいるんですか?」
「そうだな。【ホワイトタイガー】、【ビッグベア】、【ジャイアントスパイダー】ってところだな。あ、あと森の奥で【ミノタウロス】を見たって話も聞いたな」
「え? エルドニアにそんな危険な魔獣がいたんですか!?」
「ああ。ここは山に囲まれて数年前まで人の手が入ってなかったんだよ」

 町を見ると全て木造建築だが比較的新しく見える。

「よくこんな場所にいて無事でしたね」
「ああ。そりゃちょっと前まで領主の兵士がいたからさ。いなくなっちまってから誰も魔獣を倒せなくなっちまってさ。俺らはもう死を待つだけだったんだ。あんたが来てくれて助かったよ」
「なるほど」

 リーンウッドの住民は非戦闘員ばかりだった。領主が兵士と共に反乱軍に参加した事でここに取り残されてしまったようだ。

「あの、さっきシスターがいましたよね?」
「ああ、いるよ。シスターは領主に逆らってここに残ってくれたんだ」
「逆らって?」
「おうっ。領主の野郎……シスターを回復役にって無理矢理連れていこうとしやがってよ」

 レイは驚きの声をあげた。

「えっ!? でもシスターは教国から派遣されてるんですよね?」
「ああ、だがここのシスターはちょっと違ってな。ま、詳しくは本人から聞いてくれ。あんたになら会わせても良い」
「僕なら?」

 そう言って肉を抱えて行った男はしばらくしてから一人の女性を連れてきた。

「あの、何事ですか?」
「彼が俺達に肉を配ってくれた冒険者なんだよシスター」
「まぁっ」

 そこでレイとシスターの視線が交わる。シスターは白い修道服に首から十字架をさげ桃色の髪を腰まで伸ばしている。見た目は子どもに見える。

「あのっあなたは……」
「冒険者のレイです。国からの依頼で皆さんを助けに来ました」
「まぁっ、国からですか! ではトンネルは修復したのですか?」

 そこで男がシスターに言った。

「違うぜシスター。レイは空から降ってきたんだよ」
「空から? 飛行魔法ですか」
「はい」
「そうでしたか。あ、申し訳ありません。私はリーンウッドでシスターを任されていた【レティア】と申します」
「任されて……いた?」

 なぜ過去形か気になったが理由はレティアの口から語られる事になった。

「えっ!? 死んだ事になってる!?」
「……はい。私は領主の娘です。儀式で回復師のスキルを授かり修行先の修道院から戻ってきたのです」
「それでなぜ死んだ事に?」
「父に逆らったからです。私は国に反乱する気などありませんでしたし、皆さんの助けになる事が私の使命なのでここに残りました。それで怒った父は教国にシスターが死んだから代わりを派遣しろと手紙を送り、私は死んだ事にされてしまったのです」
「それは……酷いですね」

 レティアは首を横に振った。

「父は昔から自分の思い通りにならないと癇癪を起こす人でしたから。えっと、私の事情はこんな所です。あの、レイ様はなぜこの依頼を引き受けられたのでしょう?」
「なぜ……とは?」

 レティアはレイに疑いの目を向ける。

「難民の救助など冒険者ではないでしょう? 何級かは知りませんが国から直接依頼なんておかしくないですか? 本当の目的は何かあるのでは?」
「う~ん……じゃあ一から説明するよ。配給が終わったら時間もらえるかな?」
「はい」

 レティアは食糧を配るレイを近くで監視した。

「あれはアイテムボックスかな? 加えて飛行魔法の使い手なら魔導師? あ、でも腰に剣があるし……あ、怪しい……」

 レティアにそう疑われている事などお構いなしにレイは次々と住民達に希望する食糧を配っていった。そして最後にいた子連れの親子を呼び止める。

「ちょっと待って」
「なに~?」
「最後の君にプレゼントだよ。はい、甘いお菓子をどうぞ」
「わっ! ケーキだっ! も、もらっても良いの!?」
「うん。お母さんと食べたら良いよ」
「あ、ありがとうお兄ちゃんっ! ママ~、ケーキもらった!」
「あ、ありがとうございます!」
「いえいえ。ん?」

 気配を感じて振り向くと間近にレティアの顔があった。

「うわっ!? な、なにかな?」
「ケーキ……」
「え?」
「私もケーキが欲しいですっ!」
「へっ!?」

 レティアの様子がおかしい。先程までのしっかりとした様子とは違い、今は見た目相当な様子に激変していた。

「レイ様っ、もうケーキはないの!? ないなら焼き菓子でも良いですよ!」
「ち、近いっ。近いから!?」
「神の声が聞こえます! あなたはまだ持っていると!」
「わ、わかりましたからっ! 話をしながら出しますので!」
「っ! さあ今すぐ行きましょう! 教会はこっちです!」
「引っ張らないで!? うわっ!?」
「ケーキッ、ケーキ~~」

 レイは物凄い力で腕を引かれていくのだった。
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