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第50話 シーサーペント捕獲・中編

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 ボルゴと会った二日後、荒れていた波もようやく穏やかになり船が出られる環境が整った。そしてその日の朝、レイはアリスからシーサーペント捕獲に向かう許可をもらった。

「無理だと判断したらすぐにでも逃げて下さいね? 決して甘く見てはなりませんわっ」
「はい、お気遣いありがとうございます。でも心配無用です。ですが一つ質問良いですか?」
「はい、なんなりと」

 レイは疑問を投げ掛けた。

「誰が船を出してくれるんですか? そもそもシーサーペント二体が積めるような船が見当たらなかったんですけど」
「へ? いえいえっ! 岸に中型船がありませんでした?」
「え? 小型の漁船しか見当たりませんでしたよ?」
「そ、そんな!? コード5!」
「はっ!」

 床にあったアリスの影から黒装束に身を包んだ人が姿を見せた。

「中型船はまだありますよね?」
「……ありません」
「な、なぜ!?」
「最後の中型船は嵐で転覆いたしました」
「う、嘘でしょう!? それではシーサーペント討伐など無理ではないですか!?」
「はい。しかし素材を無視するならば小型船でも可能かと」
「シーサーペントの素材を諦めろですって!? 竜ですよ竜! しかも二体もっ!」
「船がない以上素材は諦めるしかありません。民の生活が最優先かと」

 竜の素材は捨てる所がないといわれるほど稀少なものだ。それを船がないために諦めるしかないのが現状だ。

 しかしアリスは気付いてしまった。

「そうですわ! レイ様は収納をお持ちではないですか!? なら倒したシーサーペントを収納して──」
「それは無理です」
「え?」

 レイは諭すように言った。

「小舟しかないなら戦う手段だって限られるでしょう。大型船なら倒したシーサーペントを引き上げて収納できますが、小舟だと倒したあと引き上げる暇もなく沈んでいきますよ。僕でもシーサーペントを二体即死させるなんて不可能ですって」
「そ、そんなぁ~」

 不可能ではない。そもそもレイは最初から討伐する気などない。向かってきたシーサーペントを箱庭に吸い込むだけの簡単な仕事だ。しかも毎日シーサーペントの素材が獲られる。レイには今の所得しかない。

 しかしアリスは諦めきれなかった。

「どうしても無理なのですか?」
「依頼は討伐でしたよね? まさか金のためにシーサーペントを欲しがってるんじゃ?」
「違いますっ!」

 アリスは机に手をつき立ち上がった。

「現状、畑は使えず次の収獲まで他領に頼るしかないのですっ! なのでせめてシーサーペントの素材を売って漁獲量を増やさず飢えを凌ごうとっ!」
「シーサーペント二体の素材だけで足りるものなの?」
「節約すれば何とか次の収獲まではっ」

 レイはまだ若いアリスの民を想う気持ちに心を動かされた。

「わかったよ」
「え?」
「さっきの小舟じゃ倒せないって言ったのは嘘です」
「う、嘘!? なぜそんな嘘を……」

 レイはアリスに箱庭の能力を明かした。そしてシーサーペントは生きたまま捕獲するつもりだった事も話した。

「な、なんですかそのスキルはっ! 毎日大量の食材が手に入って貴重な素材まで!? あ、だからシーサーペントを欲しがったんですか!?」
「そうなんですよ。僕がルーベルに来た理由は新鮮な魚介類を箱庭の中でも手に入れられたらなって思って来たんです」
「だから報酬が魚介類だったんですね」

 レイの力を知ったアリスは全てに納得した。

「ズルいです。一人だけ得する気だったんですねっ」
「ごめんごめん。とりあえず依頼通りシーサーペントは僕が捕獲するよ。その後の事は終わってからまた話そうか。あ、僕のスキルは内緒にしておいてくれたら助かる」
「帰ってきたらじっくりと話し合いましょうね、レイ様?」

 そうしてレイはルーベルの未来を救うべく港に向かった。

「あれ? 何か騒ぎが起きてるな」

 港に着くと以前会った漁師の顔役であるボンゴが小舟に乗り込もうと暴れている所を他の漁師達に止められていた。

「離せぇぇぇいっ! ワシがっ! ワシがシーサーペントごとき仕留めてくれるわいっ!」
「無茶だってボンゴ爺さんっ! アリス様がどうにかしてくれるまで待った方が良いって!」
「待っとれんわっ!! この海を知り尽くしておるワシらが動かんでなんとするかぁっ!」
「だ、誰か爺さんを止めてくれぇぇっ!」
「ボンゴさん!」
「むっ!?」

 レイは慌ててボンゴに駆け寄った。

「お主は……レイじゃったか。何をしておる」
「ちょっとアリス様に頼まれて沖までね」
「なに? ま、まさかお主がシーサーペントを倒しに行くのか!?」
「はい」
「バッ──……悪い事は言わん。止めておけ。お主、舟を操った経験は?」

 内陸育ちのレイに操舵の技術などあるわがない。

「ありません」
「そうじゃろうよ。波も読めん若造が海に出ても無駄に死ぬだけじゃ。命を粗末にするでないわ」
「ボンゴさんこそ。海に出たとしてどうやってシーサーペントは倒すの?」
「それは……」

 ボンゴは言葉を返せなかった。

「そこで提案なんだけど」
「なんじゃ」
「僕がシーサーペントをどうにかするからボンゴさんは舟を出してくれないかな?」
「な、なに言ってるんだあんた! 爺さん、無茶だって!」
「そうだっ! 無駄死にだよっ!」

 周りのガヤなど耳に届いていないかのごとくボンゴは真っ直ぐレイを見て尋ねた。

「できるのか?」
「じゃなきゃここにはいないよ」
「そうか……。よしわかった! 舟を出すぞっ! レイよ、ルーベルの運命はお主の双肩にかかっておる! しくじるなよっ」
「ボンゴさんこそ。潮を読み間違えないでよ?」
「ぬかせいっ。退けぇぇぇいっ! ワシらがシーサーペントを討伐してくれるわっ!」

 漁師達はあまりの気迫に退き二人に道を開けた。

 こうしてレイは足を手に入れ、いよいよシーサーペントの支配する海へと踏み出したのだった。
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