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第30話 謁見へ

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 約束の日の朝、宿の前に立派な馬車が一台停まった。その馬車から騎士が一人現れ宿に入る。

「失礼します! 自分は王城からレイ殿、リリー殿を迎えにあがりました騎士であります! こちらにお二方はいらっしゃられますでしょうか」
「あ、はい。僕がレイです」
「リリーなのっ」

 騎士の男が胸に拳を当て口上を続ける。

「はっ! これより王城へと案内させて頂きます! すぐに出立しても構わないでありますか?」
「はい。あ、謁見が終わったらまたここまで送ってもらえます?」
「もちろんです。自分が責任を持って送迎いたします。では表の馬車へ」
「はい」

 レイは女将とリリアを見る。

「では行ってきますね」
「はい。戻るまでに荷物はまとめておきますので。どうかお気を付けて」
「はいっ」

 女将達に見送られアクアヒルを出立する。

「最近の騎士は御者もされるんですね」
「はい、自分は騎馬隊の所属でして。馬の扱いに長けているものですから」
「へぇ~。騎馬隊……」

 そこでエスタを素通りしエルドニアに向かっていた時の事を思い出す。

「あの、エスタはどうなりましたか?」
「エスタ……ですか。あ──もしやレイ殿はあの時団長と会話していた方では?」
「団長? あ、もしかしてあの先頭にいた人?」
「はい。自分もあの隊におりまして」
「そうなんですか。貴方がここにいるという事は奪還作戦は上手くいったのですね」

 レイはそう思ったが騎士の表情は優れない。不思議に思い首を傾げていると騎士が重い口を開いた。

「奪還作戦は失敗に終わりました」
「え? し、失敗ですか!?」
「はい……」

 エスタの住民は全て脱出し、あとは兵糧攻めをするだけの簡単な作戦だ。それが失敗する事などありえない。

「何故失敗に終わったのですか?」
「……反乱軍に増援が来ました」
「増援……まさか挟撃されたのですか?」

 騎士は黙ったまま頷いた。

「大臣ですか」
「はい。我々が入り口を固めた翌日、王都方面寄り大量の物資と兵を引き連れ大臣が現れました。自分らは逃げるしかありませんでした」
「そうでしたか。……となると、エスタは今反乱軍……いや、テロリストらの拠点になっていると」
「はい。それで今王は国中から兵を集めておられます」

 レイは騎士の言葉を耳にし疑問を抱いた。

「そんな中謁見などしていて大丈夫なのですか?」
「はい。陛下は義に厚い御方です。どの様な時でも受けた恩に報いる方なのです。貴方様はテロリストの一角であった黒い鴉を討伐されたのですからいくら礼を尽くしても足りませんよ」
「頭目には逃げられましたが」
「それでもです。陛下は貴方様の勇気ある行動に心打たれたようです」
「そうですか。あの……」

 レイが倒した黒い鴉は王国軍からしたら少数に過ぎない。それでも謁見するというのだから何か裏があるとレイは勘繰った。

「まさかこれ招集じゃないですよね? さすがにこれ以上は力を貸せませんよ?」
「はははっ、もちろん違います。国の事は国で解決します。今回の謁見は本当に礼を述べるだけですよ」
「それなら良いのですが」

 それから騎士と話しエルドニア国王について色々と情報を仕入れた。

 まず農業国家エルドニア国王の名は【ヴェルデ・ウル・エルドニア】という。数年前に即位した若干二十五歳の新王だ。ヴェルデは父である先代国王の政策を踏襲し、平和で争いのない国を維持していく道を選んでいた。だが折れない所は折れず、ただ民のために力を振るう善王だ。

「真面目な方なのですね」
「ははっ、良き王ですよ。ただ……若干熱苦しい所もありますが」
「熱苦しいですか?」
「はい。あ、これは自分が言ったと内職でお願いしますよ? 陛下は……熱血バカです」
「ぷっ。ははははっ。良いのかな? 一国の王だよ?」
「バレたら丸一日模擬戦やらされます。なので内密にお願いしますよ?」

 この移動中でだいぶ騎士と仲良くなった。

「もうそろそろ到着します。馬車はこのまま王城まで進みますので降りる準備だけお願いします」
「わかりました。リリー、起きろ~」
「ん~……? 着いたなの?」

 リリーは移動中ずっと寝ていた。夜中リリアと遊んでいたらしい。

 そうして馬車は外壁を超え町の中を真っ直ぐ進み、中央にある城問門を通過する。そこからゆっくりと進み入り口の前で停まった。

「アクアヒルよりレイ殿、そしてリリー殿を連れて参りました!」
「ご苦労。そのまま中へ。待機室で待っていただいてくれ」
「はっ! ではお二方、自分に続いて下さい」
「はい」

 城の中に入ると兵や文官らしき者達が慌ただしく走り回っていた。どうやら早急に戦の支度を整えているようだ。

「着きました。お二方はこちらの室内でお待ち下さい。後ほど別の者が迎えに上がりますので」
「はい。色々とありがとうございました。それでは帰りにまた」
「はっ!」

 騎士の男といったん別れ室内で声が掛かるのを待つ。

「さすが王城だね。少々質素だけど良い品ばかりだ」
「わかるなの?」
「まぁ……一応元貴族の子息だからね」

 室内を眺めながら待つ事半刻、扉がノックされ文官らしき者が入室してきた。

「失礼します! 謁見の準備が整いましたのでお迎えにあがりました」
「はい。行こうかリリー」
「は~いなの」

 二人は迎えにきた文官の案内で謁見の間に向かった。城内を歩き最上階に到着すると立派な扉の前で止まった。

「ではこれより陛下と謁見して頂きます。失礼します!!」

 文官が扉を開き中へと進む。その後ろに続いて歩き、段の前で跪いた。

「ヴェルデ陛下が入られます!」

 二人は頭を下げたまま国王が玉座に座り声を発するまで待つ。すると足音が鳴り、玉座の前で止まった。

「あ~、堅苦しいのはナシだ。頭を上げてくれ」
「「はっ」」

 国王の声で二人は頭を上げた。玉座には筋肉の鎧に身を包んだ上半身裸の男が座っていた。それを玉座の隣にいた男が頭を抱え震えていた。

「陛下……服はどうなされたのですか」
「あん? ああ服か……。鍛錬で汗だくになっちまったから部屋に置いてきたわ。ははは」
「ははは──ではありませんっ! 謁見だから服くらい着ろとあれだけ言ったろうが!?」
「だぁ~、うっせうっせ。威厳で飯が食えっかよ。食えんなら見た目でも何でも気ぃ使ってやるっつーの」
「こ、このバカ国王は……」
「あ? 今国王にバカって言った? よーしよし、殴り合うか」
「頭が痛い……」

 そのやり取りを二人は唖然としながら眺めるのだった。
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