スキル『箱庭』を手にした男ののんびり救世冒険譚〜ハズレスキル? とんでもないアタリスキルでした〜

夜夢

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第29話 女将を誘ってみた

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 宿に戻り女将とリリアを部屋に招く。

「何が始まるのかしら?」
「レイ、良いなの?」

 スキルの事を知っているリリーはこれから何が始まるか予想がついていた。

「うん。ちょっと思う所があってね。この宿さ、経営厳しいみたいなんだ」
「見たらわかるなの。私達以外お客さんいないし」
「リリーちゃんひど~い!」

 リリーの言葉に女将はもう心を痛める事もない。

「あいつらが来るようになるまではそれなりに回ってたのよ。小さい宿だけど料理を気に入ってくれたお客さんがリピートしてくれてたし……」
「お母さん……」

 リリアが女将に駆け寄った。女将はリリアを抱えながらレイに尋ねた。

「それで、私に見せたいものって何でしょう?」
「はい。今から二人に僕のスキルを見せます」
「スキル?」
「はい。驚かないで下さいね」

 レイは部屋の扉に触れスキルを起動させる。扉が一瞬光り、レイは扉を開きながら二人に言った。

「これが僕のスキル箱庭です」
「え? なんで外に繋がってるの??」
「お兄さんっ! なにこれ!? 入って良いの?」
「どうぞ」

 リリアが女将から離れ箱庭に入っていく。レイはリリーに視線を向け、リリアの面倒を頼る。リリーは視線で察したのかすぐにリリアを追いかけていった。

「リリアったら。あの、これは何なんですか?」
「スキル箱庭です。この中は僕のスキルで作られた世界なんですよ」
「つ、作られた世界? そんなスキルがあるの?」
「はい。さ、中を案内しますよ」
「え、えぇ」

 時刻は夜、町はだいぶ静かだが一区画だけ賑やかな場所があった。

「リリーちゃん! あの光ってる通りなに!?」
「ふふん、あれは屋台村なのっ!」
「屋台村??」

 通り全部が屋台になっている飲食区域。それが屋台村だ。屋台では箱庭の住人達が酒を片手に盛り上がっていた。

「こ、これは夢? 幻?」
「全て現実ですよ。彼らは僕がアクアヒルに来るまでに助けてきた人達です」
「助けて……きた?」

 すると屋台で飲んでいた一人がレイに気付いた。

「おぉ! みんな! レイ様がいらっしゃったぞ!」
「「「「レイ様が!?」」」」

 レイに気付くと皆が酒や串焼肉を片手に群がってきた。

「レイ様! 魚は手に入りそうですか!?」
「あのっ、果実畑増やせませんか!? 果実酒のバリエーション増やしたいのでっ!」
「レイ様っ、家の野菜箱に入れときやしたぜ!」
「そのお金でお酒飲んでるじゃないあんた」
「なはは。だってよぉ~、無限に収獲できるし金に変わるからさぁ。飲むしかないだろ!?」
「「「「違いない」」」」

 住人達は幸せそうに笑い合っていた。

「皆が快適に暮らせてるなら僕も嬉しいよ。果樹園は明日にでも増やすよ。それと、明後日から王都に向かうからしばらく来られないんだ」
「王都ですかい。また何やらかしたんすか?」
「やらかしてないっての。ちょっと黒い鴉を退治しただけだよ」
「「「「黒い鴉!?」」」」

 黒い鴉と耳にした元エスタの住人達が一気にざわついた。

「レイ様! 黒い鴉に手を出しちまったんですか!?」
「あの人達は危険よっ。レイ様が危ないわっ」
「ど、どうするよ? 金積んで許してもらうか? 全員で何日か働いたらそれなりの額になるだろうし」
「そ、そうね!」

 そこでレイが住人達に言った。

「いやいや、ちゃんと聞いてよ。今僕退治したって──」

 すると住人の男がレイの言葉を遮るように言葉を発した。

「違うんすよ、レイ様」
「ん?」
「黒い鴉なんてまだ小さい方なんす。あいつらの正体はいくつもの組織が集まってるテロリストなんすよ」

 この話はすでに逃げた頭目のネストから耳にしている。

「うん、ネストから聞いたかな」
「ネストって!? や、やっちまったんすか?」
「いや、逃げられたよ。他は全員倒したけど」
「そりゃヤバいぜ旦那」
「え?」

 青ざめた男の隣に体格の良い男が並ぶ。

「ヤバいって?」
「さっきこいつが言った通り、黒い鴉はテロリストだ。そのテロリストをまとめてるって噂されてんのがこの国の大臣【ハロルド・ダレンティン】様なんだわ」
「え? はあっ!? だ、大臣がテロリストの頭だって!?」

 今度はレイが驚いた。

「ああ、噂に過ぎないがな。ちなみにエスタを襲撃した副大臣のドーレは奴の腹心だ」
「大臣に副大臣まで……。この国どうなってんの? 平和は嘘なの?」

 困惑しているレイに酒を手にした女が言った。

「平和ですよ? ただ、その平和に飽き飽きしてる一派がいるだけで」
「平和に飽きる? そんな事があるの?」
「戦は国を強くするでしょう? そうですね、フォールガーデンを狼に例えたら私達なんて家畜同然ですよ。戦う力を持たないのですから」
「だから戦う力をつけるために国家転覆させようと? 平和の何が悪いんだ……。間違ってるよそんなの!」

 レイはテロリスト集団に憤る。

「その通りじゃ。間違っておるのは大臣に副大臣、そして憎きテロリスト共じゃ。レイ殿、どうか陛下に力を貸して欲しいのじゃ」
「お爺さん……」
「ワシらはここで改めて平和のありがたみを感じておりますじゃ。確かに長く続く平和は国を弱くするが、平和でなければ人は豊かになれぬ。戦いしか頭にないボンクラ共に鉄槌を下して下されっ!」

 そこで男が爺さんの背中に手を置いた。

「この爺さんはよ、子どもと孫を大臣に殺られてんだよ」
「え?」
「爺さんの子どもは騎士をしていてな。ある日大臣の企みに気付いたのさ。それであらぬ罪を着せられ晒し首にな」
「ひ、酷い……」
「ワシはテロリスト共が憎いっ! レイ殿っ、どうか……っ、どうか仇をっ! うっうっ……」

 レイは爺さんに必ず仇を討つと約束し、女将達と屋台村を離れた。

「レイさん……」
「大丈夫。どうするか考えて……ってごめん。変なとこ見せたかな」
「いえ。あの方々はエスタの人達だったのですね。確か町を占拠されたと……」
「うん。僕がこのスキルで助け出したんだよ。アクアヒルで解放してあげようとしたら断られてさ。ここの住人になっちゃったんだよ」

 女将は先程の光景を思い浮かべた。

「皆さん楽しそうでしたね。毎日お祭りみたいです」
「ははっ、そうだね。皆の生活を豊かにするのがここに皆を招いた僕の役目なんだ」
「どうして私達にここを見せたのですか?」

 レイは女将に言った。

「世話になった人が不幸になるのは忍びなくてね。宿を閉めて田舎に移るって言ってたよね」
「はい」
「母娘二人で生きていくのは厳しい。どうせ移るなら田舎にじゃなくてここにしない?」
「よろしいのですか? 私達は何も返せませんが」
「見返りは求めてないよ。僕は皆を笑顔にしたいだけだから」

 女将はクスリと笑みを浮かべた。

「わかりました。私達ここで暮らしますわ。ですが少しだけ待って下さい。色々と片付けがありますので」
「うん。謁見から戻ったらまた」
「はいっ。レイさん……ありがとうございます」

 その後、果樹園と母娘の家を整えた二日後、宿に王宮からの迎えがやってきたのだった。
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