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第23話 悪党は許さない

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 レイは娘を背中に庇い黙って様子を窺う。

「も、もう少し待っていただく事は──」
「無理ですねぇ。そもそもこれは利息分の取り立て。来月にはまた取り立てるのですよ? 今月待った所で来月はどうせまた払わないのでしょう? いい加減ここを手放しては?」
「そ、それだけはっ! ここは両親が残してくれた──」

 黒ずくめの男が声を荒ら椅子を蹴り飛ばす。

「おうっ! 優しくしてる内に腹キメろやっ!」
「ひっ」
「借りたモンは返す、当たり前の事やろがいっ! それとも何か? ワシらがタダで金くれてやったと思ってんのか! おぉん!?」
「そ、そんなつもりは……。けどっ、借金したのは別れた夫で……」
「そらそっちの事情やろがい。見ろや証文を!」

 黒ずくめの男は懐から紙切れを取り出し母親に見せる。

「借り主は旦那や。その下の連帯保証人の欄にあんたの名前が書かれとるやろが」
「うっ……はい」
「旦那が借りて逃げようが連帯保証人がいる以上あんたが支払わなきゃならんのじゃい」

 レイは背中にいる娘に問い掛ける。

「ねぇ、お父さんってどんな人?」
「……最低な男です。お酒、煙草、ギャンブル……さらにお母さん以外の人と──」

 娘の手に力が籠もる。

「あ、あんな男お父さんじゃないですっ!」
「借りてるのはあれだけ?」
「た、多分……」
「わかった」

 レイは荒ぶる男に声を掛けた。

「ちょっと良いですか?」
「あん? なんじゃおどれは」
「一応ここの客なんですがね。そろそろお腹空いたなぁと」

 すると黒ずくめの男がぷるぷると震え出した。

「あぁぁん!? 見てわからんのかっ、取り込み中じゃ! 邪魔すんじゃねぇボケッ!!」
「邪魔なのはあんた達だろ。借り主は旦那だろ。そっちを探して返して貰えば?」
「探したわいっ! どこにもおらんからここに来とるんやろがっ!」
「探し方が甘いんじゃないの? 楽に取れるとこから取ろうとしてるようにしか見えないよ」
「てめぇ……舐めてんのか? ヤルぞ?」

 後ろにいた強面二人が手の骨を鳴らし肩を回し始める。

「何でも暴力で解決は良くないよ。でもそうだな、もし僕が後ろの二人に勝ったら諦めてくれる?」
「てめぇ、冒険者か。ランクは?」
「銅級」
「はっ、ははははっ! 銅級だ? それでゴンズとジャミに勝つ? 表出ろや。関わった事後悔させてやらぁっ!」
「はいはい」

 レイが外に向かおうとすると娘が強く服を引っ張った。

「だ、だめだよお客さんっ! あんなのに勝てるわけないよっ! 怪我しちゃうよっ!」

 そう叫ぶ娘の頭を優しく撫でて笑顔を向ける。

「大丈夫、僕に任せてよ。とりあえず叩きのめして色々交渉してあげるよ」
「お客さん……あ……」

 レイは入り口からリリーに声を掛ける。

「リリー、二人を頼むよ」
「任せてなのっ」

 そうして外に出ると何故か人だかりができており、男二人が上着を脱いでいた。

「何この騒ぎ?」
「はっ、見せしめだ。ウチから金借りて逃げようとする奴がどうなるか教えてやるんだよ」
「まあ良いけど。じゃあやる前に勝ち負けの後について決めようか。そっちが負けたらどうするの?」

 男は証文を取り出した。

「負けたらこれはお前にくれてやるよ」
「ふ~ん。で、僕が負けたら?」
「そうだなぁ……。てめぇらは奴隷落ち、証文には丸が一個増えるかもなぁ?」
「そ、そんなっ!」

 入り口から母親が叫ぶ。

「わかった、それで構わないよ。二対一かな?」
「当たり前よ。一方的にボゴして借金十倍、やれゴンズ、ジャミ!」
「「おぉぉぉっ!」」

 黒ずくめの男が下がり男二人が前に出てきた。

「約束は守れよ。来いっ!」
「「オラァァァァァッ!!」」

 二人同時にレイの顔面に鉄拳を放つ。

「はい、終わ──は? はぁぁぁっ!?」
「「ぐっ、くっ!」」
「軽い拳だね」
「「ぎあぁぁぁぁぁっ!?」」

 レイは素手で二人の拳を握り砕いていく。その上で手首の関節を極め二人に膝をつかせた。

「あ、あなた達何をしているのですか! 遊びもほどほどにしなさいっ!」
「こ、こいつ! ば、化け物だっ!」
「なんだこの力はぁっ!? 俺らは元鋼級だぞっ! それが何でこんな優男にぃっ!」
「よっと」
「「うぉぉぉっ!?」」

 レイは手首を極めたまま二人を同時に男の前に投げ飛ばした。

「まだやる? もう止めた方が良いんじゃない?」
「て、てめぇらっ! 高い金払ってんだ! あんなガキ一人に何してやがる! さっさと殺れ!!」
「「ぐっ、くぅぅっ!」」

 黒ずくめの言葉にまず左の男が立ち上がる。そして残った右腕を振りかぶり再びレイに殴りかかる。

「あ~、まだわからないか。なら仕方ないよね」
「があっ!? ぐおぉぉぉ……っ」

 レイは再び拳を受け止め同時に男の鳩尾に拳をめり込ませた。男は呼吸がてきなくなり、白目をむいて地面に落ちた。

「ゴンズ! この野郎っ!!」

 残った一人が腰から短剣を抜き構える。

「抜いたね? なら僕も遠慮しないよ?」
「殺ってやる……殺ってやらぁぁっ!」

 男は興奮し短剣を構える。レイはゆっくりと腰を落とし剣の柄を握る。

「負けは許しませんよっ! 早く殺りなさい!」
「お──らぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「フッ──」

 対して速くもない突進を受け、レイは一足飛びで男の脇を駆け抜け黒ずくめの男の前に立つ。

「ひいっ!?」
「が……っ、ぐふっ」

 背後で男が地面に倒れる。

「腹で打っただけだよ。大袈裟だな。さて」
「ひ、ひぃっ!」

 レイは剣を構え黒ずくめの男に言った。

「僕の勝ちだ。約束を果たしてもらおうか」
「や、約束だと!? ふざけんなっ! こっちは善意で金を貸してやったんだぞ! それを暴力で踏み倒そうってのか!」

 レイは呆れてものが言えなかった。

「先に暴力に訴えたのはお前達じゃないか。それによく見たら借りた金は金貨三枚。利息が金貨十枚? 国の定めた利息より随分多いじゃないか。お前達闇金でしょ? ならそもそも返す義務もない」
「そ、そりゃあいつの旦那がそれでも良いって借りたんだ!」
「まだ言い逃れする気? まとめて兵士に突き出そうか?」
「ち、ちくしょう!!」

 黒ずくめの男は証文を丸めてレイに投げ付けた。

「てめぇの面覚えたからなっ! 後で吠え面かかしてやらぁっ!」
「いつでもどうぞ。ほら、用が済んだら帰ってくれる? あの邪魔な二人も連れてってな」
「ぐぅぅぅっ! 起きろゴンズ、ジャミ!! いつまで寝てやがるっ!! この役立たずがっ!」

 男二人が痛む傷を擦りながらフラフラと立ち上がる。黒ずくめの男は去り際に捨て台詞を吐いた。

「てめぇは許さねぇ。俺らに関わった事を必ず後悔させてやる!!」
「はいはい。お疲れ様でした~」
「~~~っ! くたばれっ!!」

 そうして黒ずくめの男達はすごすごと立ち去り、周りにいたギャラリーから歓声があがったのだった。
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