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第14話 小さな幸せ

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 数日かけて集めた魔獣達が目の前にある魔獣牧場でのんびり暮らしていた。

「オークって自分で家建てるんだなぁ」
「うん、びっくりなの」

 住人の総数が百に到達した時、発展ボーナスを得られたのだが、驚いた事に二つ選択できたのである。そこで前から希望があった【特別家屋タイプ増加】と景色に彩りを加える【地形操作】の両方を取得した。

 オー達には獣舎があったのだが、何故か作った森林から木を切り出し牧場施設内に自前の家を建てていたのだ。そしてハイオークがまるで現場監督のようにオーク達に指示を出していた。

《そこ! まだ木が乾燥してねぇから触るな!》
《す、すんません親分!》
《いいから土台造りはしっかりやれっ! 家の全ては土台で決まるんだ! 手抜くんじゃねぇぞ!》


 その光景を見ていたリリーがレイに問い掛ける。

「何か話してるみたいなの」
「うん。ハイオークが部下のオーク達に指示を飛ばしてるみたい。今は土台の造り方を指導してるよ」
「レイ、オークの言葉わかるなの!?」
「うん。なんかそうみたいだ。自分でもびっくりだよ」

 レイは最初自分の頭を疑った。住人の総数が百に達した日の夜、牧場に向かうとオーク達が悩み事を話し合っていたのだ。しかもその会話が人間言語として聞こえたのである。

「あれを見てさ、僕考え方が変わったんだよね。魔獣にも生きるちゃんと意思がある。人間の勝手で狩っても良いのかなってさ」
「魔獣は人間を襲うなの。オークだって人間を襲う。この世界は狩るか狩られるかなの。一々気にしてたら人間なんか滅んじゃうなの」

 リリーの言う事ももっともだ。魔獣にも意思があると知った所で甘さを見せたら自分の身が危ない。それは攫われていたハロルドの仲間であるマリアが証明している。

「あまり深く考えない方が楽なの。あれは喋る素材。その程度にしておくなの」
「リリーはクールだね」
「それより!」

 リリーがグイッと身を寄せてきた。

「ハイオークの素材! もう溜まったなの! 肉出すなの!」
「いきなりハイオークかよ。オークからいかないと。贅沢は敵だよ?」
「とにかく肉を出すなのっ! ハイオーク肉とか貴族でもなかなか食べられない高級品なのっ!」

 ハイオークの肉は希少だ。そもそも集落を形成する前にオークは全て討伐されているため、なかなかハイオークと遭遇する事はないのである。事情侯爵家で暮らしてきたレイは未だに食べた事はない。

「ハイオークの肉ってどうやって食べるのが一般的なの?」
「串焼きか鉄板焼なの!」
「オークは?」
「薄切りにして野菜と炒めたり串焼きなの」
「そっか。なら……」

 レイは新たに発展ボーナスで作った酒場を指差して言った。

「酒場に皆を集めてパーティーでもしよっか。人間は五十人程度だけど箱庭に百人集まった記念に」
「それは名案なのっ! 無料で食べ放題なのっ!」
「もちろん。リリーは皆に声を掛けてくれる? 僕は肉を運ぶからさ」
「わかったなのっ!」

 酒場に肉を運び入れていると続々と住人達が酒場に集まってきた。

「聞いたか? 今日は肉祭りらしいぞ!」
「食い放題だろ? 楽しみだよな!」
「お肉とかいつぶりかしら……」

 集まった住人達は今か今かと肉の登場を待ち侘びていた。そんな中でレイは調理担当の男に肉を渡していった。

「皆待ち侘びてますね」
「当たり前だろっ! 肉だぞ肉! これまで野菜しかなかったんだ。人間はな、肉を食わなきゃ生きていけねぇ生き物なんだよ」
「お酒もでしょ?」
「贅沢は敵だがよぉ……、何せ毎日手に入るんだ。少しくらいハメ外させてくれよな~」

 新しく【特別家屋タイプ増加】で作った酒造工場だが、材料さえあれば一瞬で酒が完成してしまうとんでもない施設だった。酒造工場が完成してから住人は酒造りを仕事にし、どんどん酒を量産していった。

「そういや葡萄畑欲しいって言ってたぞ?」
「次はワインかな。皆燃えてるよね」
「スラムにいたら酒なんか飲めなかっただろうからなぁ。まあ集落でもなかなか飲めなかったんだけどな。皆ここにきて生きる楽しみを探してんのさ」
「救いになってますかね」
「もちろんだとも。誰もが感謝してるさ。俺達はあんたに救われた。ありがとよ、主殿」

 それからどんどん料理が運ばれ準備が整った。酒場には全ての住人同士集まり、グラスを片手にレイの言葉を待っていた。

「今日は集まってくれてありがとうございます!」
「「「「主殿~!」」」」
「魔獣牧場と酒造工場が完成し、皆さんの協力のお陰で酒場が完成しました。まだ箱庭の中に経済の流れはありません。今日出される食事や飲料などは全て皆さんの頑張りから得られた物です。今日のパーティーは皆さんの力なくしては到れませんでした」

 レイは集まった住人達をゆっくりと見回す。そこにスラムで意気消沈していた姿はもう見て取れなかった。

「商店ができたのでこれからは経済を回していきましょう。与えられるだけで満足する事なく、この箱庭で人間らしい生活を送ってくれたら嬉しいです。これからも皆さんを頼りにさせてもらいます。乾杯!」
「「「「かんぱぁぁぁぁぁいっ」」」」

 レイの話が終わると住人達は一気に酒をあおり料理を口に運んだ。

「肉……エール! スラムで死んだように生きてた時は一生味わえないもんだとばかり──っ! うっうっ」
「美味ぇ……、美味ぇよぉぉっ! 本当にここに来て良かった! 生きてる内にこんな幸せは味わえないと諦めてたっ!」
「この暮らしを維持するためなら何でもするぜ俺ぁよ」
「俺もだ。皆で力を合わせてもっと盛り上げて行こうぜ!」

 リリーを見ると一心不乱にハイオークのステーキ肉にかぶりついていた。テーブルには鉄板が山積みになっている。

「リリー? 食い過ぎじゃ……」
「初めて食べるハイオーク美味すぎるなのっ! 口に入った瞬間肉が消えるなのっ! いくらでも食べられるなの~っ!」
「食べ過ぎには注意してね?」
「約束はできそうにないなのっ!」

 レイは目の前に広がる光景を見て思った。

「外では不遇スキル持ち扱いされてる皆だけど……ははっ、これを見たら平和な世界に戦うスキルは必要ないって思えてくるな。もしかするとこの光景は平和になった未来の姿なのかも」

 箱庭の中では誰もがスキルを気にせず争いのない日々を過ごしていた。

「これが僕の目指す世界の縮図なのかな。……うん、悪くない。皆を幸せにするためにこれからも頑張っていこう!」

 レイは幸せを噛みしめる住人達を見ながら改めて自分の生き様を確認したのだった。
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