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第13話 魔獣の森へ

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 ギルドを出て歩く二人に背後から声が掛かった。

「ま、待ってくれ!」
「ん?」

 振り返ると先ほど受付で泣き崩れていた冒険者が息を切らして立っていた。

「何か?」
「お、俺の勘違いだったら謝る! も、もしかしたらあんた達魔獣の森に行ってくれるんじゃ……」

 二人は顔を見合わせ頷いた。レイが冒険者に告げる。

「確かに向かうつもりだよ。あんな話を聞かされて黙っていられないしね」
「……ギルドから報酬はでないんだぞっ。それでも行ってくれるの……か?」
「報酬の過多でやる事を決めたりしないんだよ僕がは。それに元々魔獣の話がには行くつもりだったんだ」
「そうか……っ。なら頼むっ! 俺とオークの集落に来てくれ!」
「わかった。案内してもらえる?」
「あ、ああっ! 恩に着るっ! こっちだ!」

 袖で目元を拭い先導する冒険者に続いて町を出る。

「あ、すまない。自己紹介がまだだったな。俺は【鉄級冒険者】のハロルドだ」
「僕は【銅級冒険者】になったばかりのレイです」
「ど、銅級?」
「私は【鋼級冒険者】のリリーなの」
「メタル級か! 男の方はともかく……お嬢ちゃんの方は頼りになりそうだ」

 するとリリーは前を歩くハロルドに飛び蹴りを御見舞した。

「どわっ!? な、なにすんだよっ」
「失礼なのっ! 私は誰より年上なのっ! ドワーフ舐めるななのっ!」
「ド、ドワーフだったのか。すまないっ」
「それに! レイは冒険者登録したばかりだから銅級だけど! 実力なら私より上なのっ!」
「マ、マジか!?」
「そうなのっ!」

 レイは怒るリリーをなだめた。

「級とかどうでも良いじゃないか。僕は身分証が欲しかっただけだし」
「悔しくないなのっ!?」
「別に悔しくないよ。そもそもランクが強さを示すわけじゃないし。色々抜け道があるんじゃない? ランクを上げる方法にはさ」
「うっ」

 ハロルドには思い当たる節があるようだ。

「確かにある。けどそりゃ貴族様だったり金持ち専用の抜け道だ。俺達はちゃんと銅級からコツコツ上がってきたんだよ」

 ここで冒険者のランクについて説明しておく。冒険者にはランクがあり、最初は誰もが【銅級】からスタートし、次に【青銅級】、【鉄級】、【鋼級】、【銀級】、【金級】、そして最後に【白金級】となる。白金級は英雄とも言われ、国が違えば国王より権力を持つ事もある。

 ハロルドが尻に付いた土を払いながら立ち上がり口を開く。

「でだ、森に入る前に確認しておくが……二人は何ができる? 俺は斥候だ」

 斥候とは周囲を警戒しつつ、罠を解除したり近くにいる魔獣の気配を察知したりするスキル持ちの事である。

 ハロルドの問い掛けにレイが答えた。

「僕は剣と魔法が使える。ただしスキルはないけど」
「そうか……」
「私はハンマーで叩き潰したり素早い動きで撹乱したりするなのっ」
「お、おお。デカいハンマーだな」

 リリーの武器は巨大なハンマーだ。いかにもドワーフらしいといった武器だ。リリーはそのハンマーを枝を振るように簡単に扱っている。余程力が強い証拠だ。

「メタル級のドワーフか。ならリリーさんが前衛でレイが中衛って感じか?」
「まあそんな所かな。場面によるけど」
「良いパーティーだな。欲を言えばヒーラーも入れたらもっと良いパーティーになりそうだが」
「僕は真面目に冒険者する気はないからね。不遇スキル持ちだから」
「不遇スキルだって? いやいや、それなのに剣と魔法を使うのか!?」

 ハロルドの言い分は最もだ。通常不遇スキル持ちは冒険者になったり進んで魔獣と戦ったりはしない。

「心得があるだけだよ。それより急がなくても良いの?」
「はっ! そ、そうだ! 急がなきゃマリアが! 急ごう!」

 そうして再び移動を開始し、三人は森の入り口に到着した。

「捕まってから半日か……。運が良けりゃまだ望みはある。マリア、今助けに行くからなっ! 行こう、こっちだ」
「わかった」

 森に入りハロルドの実力がわかった。ハロルドが選んだ道では魔獣と一切の接種がなく目的地付近まで到着した。

「二人とも見えるか」
「うん、見える。オークが数体いるね」
「……まだ小さい集落なの。多分あの奥にいるデカいオーク……ハイオークがボス」
「マリアは……い、いた!」

 ハロルドの視線の先には木に吊るされた女性の姿があった。オーク達は切り開いた森を拠点にし、焚き火を囲みながら女性の装備品を奪い合っていた。

「良かった、まだ何もされちゃいねぇな」
「あの、視線を向け辛いんだけど……」
「気にするな。命さえ助かるなら裸くらいなんだ。それよりお二人さん、行けそうか?」

 小声で相談し方針を決める。

「あのくらいなら問題ないなの。ハロルドはあの木の背後に移動してあの人を助けるなの。私とレイは正面から突っ込むなの」
「い、良いのか? 危険だが!」
「大丈夫。木に登ったら合図するなの。そしたら私達が突っ込む」
「わ、わかった。合図はあの焚き火に水袋を投げ込む」
「ん。じゃあやるなの」

 レイとリリーは気配を殺しながらハロルドの合図を待つ。少しして木の上にハロルドの姿が見えた。ハロルドは深呼吸し、手に持った水の入った袋を焚き火に投げ込んだ。

「レイ!」
「よっし、行くぞリリー!」
《《 》》

 二人が姿を見せたと同時にハロルドはナイフで吊るしていた縄を切りマリアを引き上げる。そして二人に向け叫んだ。

「っしゃあぁぁぁっ! 後は頼むっ!!」
「任せるなのっ! レイ、開くなの!」
「ああっ!」

 向かってくるオークの群れを前にレイは箱庭の入り口を開く。

「な、なんだありゃ!?」

「来いっ! 俺達はここだぞオーク共っ!」
《《》》

 箱庭の中に入りオークを軽く挑発してやるとオークの群れは簡単に釣れた。オークの群れは二人を襲うべく箱庭の中に入り、大人しくなった。

「大人しくなったなの」
「本当だ。改めてびっくりだ」
《ゴア? ゴゴゴ》
《ガァッ、ゴゴッ》

 箱庭に入ったオーク達はハイオークを先頭に、自らの足で魔獣牧場へと向かっていった。そこにマリアを抱えたハロルドが扉の外から声を掛けてきた。

「な、なんだよこれ……。いったいオークはどうしちまったんだ!? わ、わけがわからねぇっ」

 レイは困惑するハロルドに向け箱庭の入り口から声を掛けた。

「これが僕のスキルだ。報酬はこの件を黙ってる事。まあ、別に言い触らされても誰も信じないだろうけどね」
「これが……スキル……だと?」
「そう。詳しくは言えない。さあ、仲間も無事だったしそろそろお別れだ。早く町に運んであげなよ」
「そ、そうだマリア!」

 ハロルドは抱えていたマリアの顔に手を当てる。

「良かった、ちゃんと生きてる……っ! すまないっ、助かった! この事は絶対誰にも言わねぇし、墓場まで持っていく。これで良いんだな?」
「ああ。それで良い」
「ありがとよ、レイ、リリー! この借りはいつか必ず」
「期待せずに待ってるよ」

 最後に深々と頭を下げ、ハロルドはマリアを毛布にくるみ町まで運んでいった。

「さて、魔獣集めしよっか。リリー」
「今みたいにどんどん集めて行くなの~っ」

 それから二人は魔獣を見つけては箱庭に迎え入れる方法を繰り返していき、数日かけて箱庭の住人を百まで増やしたのだった。
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