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第07話 道中

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 集落の住人を箱庭に招きレイは新たなスキルを手にしていた。だが住人達も不遇スキルに分類されるスキルしか持たないため、戦闘能力が向上したわけではない。

「スキル【子守歌】」


 レイは街道に出たファングウルフを集落の人が持っていたスキルで眠らせた。

「すご……。これ、赤ちゃんを寝かしつけるスキルなんかじゃないよなぁ。睡眠魔法より使えるぞ」

 魔法は魔力を使うがスキルは魔力を使わない。そしてスキル【子守歌】は精神耐性が低い相手には必ず効果が出る。

「よいしょっと」

 レイは眠らせたファングウルフを担ぎ箱庭に入る。

「おお、主殿。おや、ファングウルフですか」
「はい。あ、檻に入れますね」
「魔獣が増えてきたのう」

 箱庭に入った魔獣は何故か温厚になり人を襲わなくなる。今回得た子守歌は安全に箱庭の中へと運ぶためにはうってつけのスキルだった。

「ふぅ、ん? おっと」
《キュルン!》
《プルルルッ》

 檻に入りファングウルフを寝床に置くと角ウサギとスライムが擦り寄ってきた。

「ははっ、どうしたの? 甘えたいのか?」
《キュッ!》
《プル~》
「よしよし」

 レイは藁の上に座り魔獣達を撫でてやった。

「スキル【テイム】がないから言葉はわからないけど……喜んでるのはわかるよ。可愛いな~」

 角ウサギとスライムを撫でていると眠らせていたファングウルフが目を覚ました。

《グル? アォ~ン!》
「お? 目を覚ましたか。おいで」
《オンッ!》

 目を覚ましたファングウルフは尻尾を振りながらレイの背中によじ登ってきた。

「ははっ、よしよし」
《オンオンッ!》

 あれだけ敵意剥き出しだったファングウルフだが今は飼い犬のようだ。そして背中に背負い気付く。

「軽いなぁ。もしかして満足に食べられてなかったの?」


 悲しい鳴き声で全て察した。

「そっか。とりあえず身体を洗ってご飯食べような。ここに君達の敵はいない。ご飯も沢山あるから安心して良いよ」


 敵意がない事を理解させたレイはファングウルフを連れ井戸に向かった。

「お? 兄ちゃんどうした?」
「あはは。ファングウルフを洗いたくて」
「なんだ、それなら俺の牧場に連れてきな。道具も揃ってるからよっ」
「ありがとうございます! フォレストボアはどうですか?」
「元気そのものだな。あ、いや……多分メスの方は身籠ったな」
「えっ?」

 牧場に向かうと一体のフォレストボアが凄い勢いで野菜を食べていた。

「あれがメスなんだがよ、最近やたら飯を食っててな。多分腹に子どもがいるんだろうよ」
「魔獣も子どもを産むんですね……」
「おお。俺も初めて知ったぜ。てっきり自然にわいて出るとばっかり思ってたわ」
「僕もそう思ってました」

 この光景を見て魔獣の新たな一面を知る事ができた。

「魔獣ってなんなんですかね。こうして見ると普通の獣と変わらないんじゃ……」
「だな。もしかすると魔獣は何かに操られて人を襲ってんじゃねぇか?」
「なるほど……。魔王の意思ですかね」
「おそらくな。多分だが、この中までは魔王の意思が届かないんじゃないか? だから魔獣も大人しくなるんだと思うぜ」

 この世界には魔王と畏れられる者が存在している。魔王は魔族の長であり、人間や亜人達と敵対している。その魔王が魔獣を操り敵を減らしていると考えられていた。

「なんで魔王は人類を敵視してるんでしょうね」
「さあな~。同じ人類同士でも争いが絶えないしな。魔王の事まで考えてらんねぇよ」
「それもそうですね」
《アオンッ!》
「おっと」

 牧場で話し込んでいるとファングウルフが鼻で突ついてきた。

「ごめんごめん。さ、綺麗にしような」
「よっしゃ、俺も手伝うぜ」

 レイと男の二人で汚れていたファングウルフを綺麗に洗っていく。最初は水が泥水だったが数回洗うと毛玉も解れ、ごわごわしていた毛並みはふわふわでサラサラ、灰色から真っ白な毛並みに変わった。

「ファングウルフって白かったんだなぁ。初めて知ったぜ」
「僕もですよ。こうやって関わる事なんてなかったですし」
「ここに来てから毎日驚きの連続だ。楽しくて仕方ねえや」
「ははっ、僕もです」

 そこに追放され絶望していた姿はなかった。レイは心から笑顔を見せ、住人達の優しさに癒されていた。

「今どの辺りだ?」
「あ、はい。明日にはミーレスに着く予定です」
「……そうか。兄ちゃん、話がある。こいつらを戻したら俺んとこに来てくれ」
「はい? わかりました」

 レイは真面目なトーンで話す男に何かを察知し、ファングウルフ達を檻に戻し牧場に戻った。

「戻りました」
「おう。ちょっと大事な話があってよ。長くなるから茶でも飲みながら話そう」
「はい」

 男の家で茶をすすりながら話を聞く。

「スラム……? ミーレスにはスラムがあるんですか!?」
「ああ。実はな、俺達もそのスラム出身なんだ」
「そう……だったんですね」
「ああ。俺達はスラムでの生活から抜け出すためにあの場所に移って暮らしてたんだ」

 ミーレスは城塞都市だ。壁の中にいれば魔物に襲われる心配はない。だが不遇スキル持ちとなれば満足に仕事もできず、食べ物も満足に得られない。

「教会からの配給も微々たるものでよ。そんな暮らしが嫌でミーレスを出たんだ。最初は五十人くらいいたんだがな。狩りも満足できなくて二十人にまで減っちまったんだ。だがよ、それでもスラムよりはマシだ。危険だが毎日飯が食えるんだからよ」
「……はい」
「ミーレスには知り合いもいる。そこで提案なんだがよ……」

 レイは神妙な面持ちで言葉を選ぶ男を見て全てを察した。

「はい、大丈夫です」
「は?」
「スラムの住人を箱庭に移住させましょう!」
「あ、兄ちゃん? 良いのか!? もっと考えた方が……」

 するとレイは笑顔でこう答えた。

「だって困ってるんでしょう? 満足に食べられないのにスラムにいる。つまり戦う力がなく外で暮らせない人達なのでしょう。その人達も出られるなら出たいと思っているはず。だから……勧誘は任せましたよ?」
「は……ははっ! 兄ちゃんは底無しの善人だなっ。本当はよ、集落の暮らしが軌道に乗ったら迎えに行くつもりだったんだ。だが思っていたより外での暮らしは大変でな……」
「防壁もないですしね」
「すまんなぁ。じゃあミーレスに着いたら俺達を外に出してくれ。スラムの住人丸ごと仲間に引き入れてみせるからよ!」
「よろしくお願いします。あ、ですがあまり大っぴらにしないで下さい」

 そう告げると男は首を傾げた。

「ん? 何故だ?」
「まだこの力を貴族達に知られたくないんです。この力を知ったら戦に利用されそうで」
「なるほどな。使い方次第でいくらでも利用できそうだしな」
「はい。なので僕はまずミーレスで冒険者登録をしてから隣国に出ます。この国は信用できません」
「なるほど! エルドレアか。あの国なら戦はしてないし安心できるな」
「はい。そこまでこの力は内密にしておきたいのです」
「わかった。皆にもこっそり動くように含めておくよ」
「助かります」

 こうして一同はミーレスで暮らすスラムの住人を救うため、団結していくのだった。
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