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第04話 フロストン男爵領

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 フロストン男爵領に入り南下する事一日。レイはフロストン男爵領にある名もなき小さな集落で疲れた身体を休めていた。

《モォォォ~》
「ん……うわっ!?」

 いきなり顔を舐められたレイは驚き藁のベッドから飛び起きた。

「あ……そっか。お金なかったから牛舎で寝たんだっけ。ごめんよ」
《モォォォ~。もしゃもしゃ……》

 どうやら牛の食事を邪魔していたようだ。レイは近くにあった雨水を溜めておく桶から水を掬い顔を洗う。

「どうしよう。もう銀貨数枚と銅貨しかない。ミーレスまではあと二日かかる。どうにか金策を考えなきゃ。う~ん……」

 最終手段として剣を売る事もできる。だが残念な事にこの集落には店がない。集落の暮らしは自給自足で物々交換が主流だった。そのため、通常旅人はこの集落を素通りし、次の少し大きな村で一泊している。

「お? 兄ちゃん起きたか」
「あ。おはようございます。昨夜は牛舎をお貸し頂きありがとうございました」
「なぁに、良いって事よ。別に家の中でも良かったんだがよ?」
「いえ。そこまでお世話にはなれませんよ。僕は交換できる物も持ってませんし」

 すると麦わら帽子を被った恰幅のいい男が言った。

「いやな? 別に対価は物じゃなくても良いんだぞ?」
「はい?」
「物じゃなくてもよ、労働とかでも良いって事だ。例えば畑の草むしりだったり牛舎の掃除だったりな」
「な、なるほど! 労働でも大丈夫だったんですね」
「おう。兄ちゃんよ、路銀がないなら少し働いてくか? あまり出してやれないが三食寝床付き、一日銀貨三枚でどうだ?」

 貨幣の価値は国内でも領地により差がある。

「あの、僕隣の領地から来たのですが、貨幣の価値は同じくらいですか?」
「隣? ああ、イストリア侯爵領か。そうだな、だいたい同じくらいじゃないか? ここいらじゃ平均的な宿代が二食付きで銀貨三枚だ」
「そうなんですね。じゃあ同じくらいかも」
「どうする? 働いていくか?」
「はいっ! ぜひっ!」

 兵士に巻き上げられた金をいくらか取り戻すため、レイは数日この集落で働く事にした。

「いや~、兄ちゃん狩りの腕いいな! 肉なんて久しぶりだぜ」
「そうなんですか?」
「おお。この集落に狩人はいないからなぁ。肉はたまにくる行商人から買ったりしてんのさ」
「肉がないって物足りないですよね」
「そうなんだよ。だから……もう何日か狩りに出てもらえるか? 急ぎの旅なら断ってくれて構わないが」

 レイは宿泊させてもらっていた夫婦に頭を下げた。

「もちろん構いませんよ。急ぐ旅でもありませんし、お世話になりっぱなしなので」
「あ、ありがてぇ。集落の子どもらに沢山食べさせてやりたくてよ! 恩にきるっ!」
「じゃあ明日から森に入ってみます」
「おう。あ、一応危ないと思ったら逃げてくれよ? 今まで通り兎肉でも構わないからな?」
「はい」

 その日夜、レイはベッドに腰掛けながら考え事に耽っていた。

「肉なぁ……。確かに子ども達少し痩せてたよな。牛舎の牛は乳牛だろうし、野菜は美味いけどやっぱり肉も食いたいよな」

 狩りをする分には特に問題はない。問題があるのは狩った後だ。

 レイはステータスを確認する。

「箱庭……か。生活スキルの【収納】だったら狩った肉入れて簡単に持ち帰れるんだけど。う~ん……まだ寝るには時間もあるし、箱庭について検証してみようかな」

 これまで一度もスキルを確認していなかったレイは改めて不遇スキルと断定された箱庭がどんなスキルか調べる事にした。

「よし。スキル【箱庭】!」

 レイは手を突き出しスキルを使った。

「え? と、扉が出た!? なんだこれ……」

 現れたのはボロボロの扉だった。正面側には取手があり、後ろ側は何もない。

「正面から手前に引くのかな? よ、よし開けてみよう……」

 レイはごくりと唾を飲み、緊張した面持ちで取っ手を握る。そしてゆっくりと手前に引いた。

「あ、開くぞ!」

 扉を開くと中は夜の平原だった。

「え? 外? な、なにこれ??」

 平原の真ん中に木が一本あり、その木の横には黒い箱が一つ置かれていた。狭い空間には木と黒い箱。それ以外何もなかった。

「広さは……今いる集落の半分くらいかな? 真ん中に木と黒い箱か。よ、よし確かめてみよう」

 中に入り木に近付く。

「うん、普通の木だな。この黒い箱はなんだろ?」

 黒い箱にレイの手が触れた瞬間、箱の上にメニューが開いた。

「も、もしかしてこれ……! 【収納】じゃないか!? 何か入ってる。えっと……【説明書】……説明書!? もしかしてスキル箱庭の!?」

 レイは黒い箱箱から書物の装丁に似た形の説明書を取り出して開いた。

「やっぱりそうだ! これ、スキル【箱庭】の説明書だ! あ、黒い箱とか木の事も書いてるみたいだ」

 これで箱庭というスキルがどんなものかわかる。だが暗がりでよく見えない事に気付き、レイは黒い箱に説明書を戻した。

「焦る事はないさ。明日の狩りもあるし、それが終わったらまた来れば良いだけの事。戻って寝よう」

 そうして扉から元の部屋に戻り身体を休めた。

「じゃあ行ってきます」
「兄ちゃん、無理だけはすんなよ?」
「はい。任せて下さい」

 早朝、レイは集落の近くにある森に入った。

「さてと、集落には二十人くらいしかいなかったよね。全身が腹いっぱい食べられる量を狩ろう」

 運搬方法については考えてある。

「箱庭に入れて集落の近くで出せば簡単に運べる。これだけでも思ったより使えそうじゃないか。不遇スキルなんてとんでもない話だ」

 森に入り一時間。レイは最初の大型魔獣【フォレストボア】を狩り終えた。

「森でも真っ直ぐ突進しかしてこないなんて……。思ってたより簡単に狩れちゃったな」
《フゴォォォォォッ!》
「おっと、もう一体仲間の血に誘われて来たか! よし来いっ!」

 レイはフォレストボアの突進をひらりと躱し側面から首を斬り落とす。

「これで二体!」
《フゴォォォォォッ!!》
《フゴォォォォォッ!!》
「今度は二体同時!? ちょっ、集落近いんだぞ!? こんなに生息してたら畑が荒らされてしまうじゃないか!」

 レイは木を蹴り突進を躱す。

「農作物に被害が出たらあの人達が飢えてしまうっ! ……そうだ!」

 レイは地を蹴り突進態勢に入るフォレストボアの正面に立った。

「僕はここだぞ! 来るなら来いっ!」
《グルルルル……フゴォォォォォッ!》
「来たっ!」

 レイは突進してくるルート上に箱庭の扉を出した。そして当たる直前に扉を開き、フォレストボアを箱庭の中に生きたまま捕えてやった。

「よしっ! 成功だ!」

 上手く二体のフォレストボアを箱庭に収納し扉を消した瞬間、突如レイの頭の中で声が響いた。

《箱庭の住人に二人加わりました》
「え?」
《二人分の領地拡大と住居表示作成可能となりました》
「な、なんの声だ? え? え?」

 レイは突如響いた声に驚き固まるのだった。
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