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第03話 旅立ち

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 父であるイストリア侯爵に追放を命じられた翌日、正装を売却し冒険者に適した服を購入し身形を整えた。

「お似合いですよお客様」
「ありがとう。でも良いの? こんな大金」

 冒険者らしい服を買った上でなお正装を売却した金額の方が高かった。

「もちろんですとも。こちらは生地も良く新品そのものですからね。逆にありがとうございました」
「いえ」

 レイが選んだ服は軽装だ。布の服に皮の胸当て。皮のブーツに移動用のローブを羽織り腰に剣を下げる。

 こうして身形を整えたレイは十五年暮らした町を離れた。

「リリーはもう出発したのかな。いつかまた会えたらお礼しよっ。よ~し、僕も出発だ!」

 町を出たレイはひとまず街道を南下し、リリーが向かう町であるフロストン男爵領ミーレスに向かう事にした。ここに向かうと決めた理由はリリーが向かったからではない。

「最近北の国が怪しい動きを見せてるって聞くし。向かうなら南の【農業国家エルドレア】だよね。あの国は長閑で平和な国だし、魔物もこの国より弱くて少ない。不遇スキルの僕が暮らす国として適してるよね」

 レイはまずミーレスで冒険者登録をしてから隣国エルドレアに向かうと決めた。戦えるといっても戦闘スキル持ちに比べたら劣るレイは少しでも安全な土地を目指す事にした。

「男爵領との境までは歩いて三日だっけ。なるべく節約しながら向かおう。お金は大事だ」

 そうして町を出たレイは徒歩で南下していき、最初の宿場町を目指した。その道中、冒険者が魔物と戦っている場面に遭遇した。

「あっ! 魔物と戦ってる人達がいる!」

 戦っている冒険者は三人パーティーのようだ。魔物は初心者が相手にする事で有名な角ウサギだ。

「は、速すぎる! 剣が当たらないっ!」
「ま、魔法も狙いが定まりませんっ!」
「俺が引きつけるからそこを狙うんだ!」

 剣士、盾役、魔法使いと比較的バランスの良いパーティーだが三人は初心者のようだ。

「だ、大丈夫かなあれ……」

 助けるべきか迷っていると盾役の戦士が持つ縦に角ウサギの角が突き刺さり、そこにようやく剣士の剣が当たった。

「とったどぉぉぉっ!」
「よっし! よくやった! 俺達の勝利だ!」
「か、勝ったぁ~」

 どうにか無事に戦闘が終わり、三人は安堵したのも束の間、すぐに解体に取り掛かっていた。

「なぁ、提出部位は角だっけ?」
「ああ。とりあえず頭落として血抜くぞ。肉が臭くなるからな」
「うっぷ……」

 レイは三人を素通りし、考えながら先に進んだ。

「そっか、冒険者になったら解体も覚えなきゃならないのかぁ。大型の魔物とか一人じゃ難しいよなぁ。せめて【マジックバッグ】でもあれば良かったんだけど」

 この世界には魔導具といわれる不思議な道具がある。マジックバッグもその一つで、見た目は小さな鞄ながらも見た目以上に物が入ったり、良い物になると時間停止機能が付与されていたりもする。

「だいたいが軍で買い取ってるんだよな。一般にはまず出回らないし、一般人が買える値段でもないし。あれば便利なんだよなぁ」

 マジックバッグは人の手で作れない。入手方法は迷宮と限られているため、もし時間停止機能付きを手に入れようものなら一生遊んで暮らせるとまで言われている。

「っと、『ファイアアロー』」
《ギュピィィィッ!》
《キュウゥゥゥッ!》

 考えながらも向かってくる角ウサギに火の矢を放ち燃やしていく。まだ冒険者ではないレイは素材やら討伐部位を知らないため、とにかく燃やしていた。その光景を三人の冒険者が口を開けて見ていた。

「な、なんだあいつ!?」
「魔物を見もしないで正確に燃やしてる!?」
「す、凄い! 詠唱してないなんて!」

 冒険者達三人が唖然としているのも知らず、レイは考え事をしながら先へと進んでいくのだった。

「うん、街道に出るような魔物なら問題ないかな。魔力ももったいないし、ここからは剣で倒していこう」

 街道とは整備された道の事を指す。整備されているという事は人が多く往来する。魔物も頭が悪いわけではない。頭の良い魔物は自信がない限り街道には近付かないのだ。

 そうしてレイは小型の魔物を倒しつつ南下していき、三日後にイストリア侯爵領とフロストン男爵領の境に到着した。

「次の者!」
「はい」

 レイは関所を潜る列に並び順番を待っていた。そしていよいよ自分の番になったのだが、ここで問題が発生した。イストリア側の兵士がレイに気付いてしまった。

「あ、あなたはイストリア侯爵の! なぜこのような場所にお一人で!?」
「あ、あの……。実は家を追放されまして」
「つ、追放ですか!? あなたを? いやいや、スキルなしでも騎士団と渡り合えるのにですか!?」
「……はい。僕は不遇スキルを授かってしまいまして」
「そ、そうでしたか。不遇スキル……」

 兵士の視線が蔑みを帯びる。

「それで? 行き先は男爵領ですか?」
「え? あ、はい。そこで冒険者登録をと」
「なるほど。では今は身分証はお持ち──いや、持ってないと」
「え?」

 兵士が右手を出しこう言った。

「身分証のない者は通行税を払ってもらう決まりだ。金貨五枚、さあ払ってもらおうか」
「き、金貨五枚だって!? いくらなんでも高過ぎる! 前の人は銀貨五枚だったじゃないか!」
「悪いな。今この瞬間から値上がりしたんだ。あんたには昔訓練で痛い目に合わされたからなぁ~?」
「くっ!」

 どうやら目の前にいる兵士は昔騎士団での訓練で立ち合った人物らしい。訓練で負けた事を根に持っているようだ。

「お~い、早くしてくれないか。夜になっちまうよ」
「宿場町まで着けなくなるじゃない!」

 後ろから急かす声が上がる。兵士はニヤニヤと笑いながらレイに言った。

「通行税が払えねぇなら引き返すんだな。っと、もう戻れないんだったか? 気の毒になぁ~?」
「……払うよ。払えば良いんだろ!」

 レイは兵士の手に金貨五枚を置いた。

「これで良いだろ。通してくれ」
「あ? あ~、これじゃ足りねぇなぁ」
「なっ!? ふざけるなっ!」

 兵士は隣にいる兵士に親指を向けた。

「あっちの分も払ってもらおうか。払えねぇなら通すわけにはいかねぇよ」
「ふざけてる……!」
「金がねぇなら腰にぶら下げてる剣でも置いていきな。不遇スキルのお前じゃ剣なんて使えねぇだろ」
「払えば良いんだろっ!」

 そうして金貨十枚を失う事でレイは関所を通過した。

「服を売った金がもうちょっとしかない……。イストリア侯爵領の兵士があんなに腐っていただなんて! ……決めた。何があってももう二度とイストリア侯爵領には戻らない!」

 レイは二度と領地に戻らないと心に決め、フロストン男爵領をミーレスに向けて突き進むのだった。
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