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第01話 はじまり

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 ──スキル─

 それはこの世界で生きる全ての命に世界を管理する神々により平等に与えられる特別な力。

 この世界は魔物が跋扈し、人々は魔物と戦いながら日々を過ごしている。そんな世界【ガイアス】を管理しているのは【創造神ガイアス】だ。その下に様々な神々が連なり、星の民に自らの力の一部をスキルとして与えている。

 スキルは誕生と共に与えられ、成人と共に発現する。

 しかしスキルは平等に与えられるが、内容は平等ではない。争いの絶えないこの世界では戦いに有用なスキルこそが至上という考えが民を支配していた。そしてそれ以外のスキルは役立たずとされている。

 そんな世界でこの物語の主人公である【レイ・イストリア】は今日成人を迎える。

 レイの暮らす国【フォールガーデン】もまた例に漏れずスキル至上主義国家であり、戦えないスキルが発現した者は迫害されている。

 レイはイストリア侯爵家の長男で幼い頃から何でもできた。スキルが未発現の状態ながらも家の騎士達に勝ち、初級ながら全属性の魔法も使えていた。さらに頭の回転も早く、見た目も整っている。だがそれを鼻にかける事もなく領地の民に寄り添う姿勢を見せ、民からは神童と讃えられていた。

 そして成人の儀式に向かう朝、レイは正装に身を包み、屋敷の前で父を待つ。

「いよいよ僕のスキルが何かわかるんだな」
「坊ちゃま」

 緊張しているレイにイストリア侯爵家の執事長が声を掛ける。

「どうしたの?」
「さすがの坊ちゃまでも今日ばかりは緊張しておられますなぁ」
「そりゃあね。もしハズレスキルだったらと思うと気が気じゃなくてさ」
「ほっほ。神童と讃えられる坊ちゃまですからな。きっと良いスキルが授かるでしょう」
「待たせたなレイ」
「父上」

 執事と会話していた所にレイの父親であるイストリア侯爵が姿を見せる。父親は威厳に満ち、国内で五指に入るほどの強者だ。その鍛え上げられた体躯は有無をいわさず周囲を圧倒する。執事との会話で幾分和んでいた緊張が再びレイを包む。

 そんな父親だがレイには期待していた。といえいのもレイには一つ歳の離れた弟がおり、その弟は才能はあるがレイと比べるとかなり劣っている。

「レイよ。お前には期待している。私の跡を継ぐのはお前だ、レイ」
「はっ!」

 そうした期待は半日後、儀式を受けた教会であっさりと霧散した。

「なん──だと……? もう一度言ってみろ!」
「は、ははははいっ! 御子息様のスキルは『箱庭』というスキルですっ! どう考えても戦闘には不向きな……不遇スキルでございますっ!」

 儀式を執り行った司祭は侯爵の威圧に声を震わせていた。そして結果を知った侯爵の威圧がレイに向けられる。

「……この出来損ないが」
「え? わっ!?」

 侯爵はレイに皮袋を投げ付けた。その皮袋から数枚金貨が溢れ落ちる。

「ち、父上?」
「それは手切れ金だ」
「え?」

 侯爵はレイの横を視線も合わせず通り過ぎ入り口に向かう。

「貴様はもはや息子でも何でもないっ! 二度と私を父と呼ぶな」
「な、なぜ……!」
「侯爵家に出来損ないは必要ない。貴様は今よりただのレイだ。二度とイストリア性を名乗るな。屋敷に近付く事も許さぬ。早々に私の街から立ち去れいっ!!」
「そん──な……っ!」

 レイに発現したスキルは不遇スキルに分類されるものだった。しかしレイは諦めきれず司祭にすがった。

「し、司祭様! 僕のスキル箱庭とはどのようなスキルなのですか!」
「え、え~……と。それがですね、箱庭などというスキルは初めて見たものでして」
「な、何でそれで不遇スキルだってわかるのさ!」
「え、え~……はい。それについてはわかります。まず、スキルには──」

 司祭いわく、スキルは発現した際、水晶に文字で表示される。その表示が赤なら戦闘系スキル、青なら支援スキル、黄色は生活スキルと分類されるそうだ。

「僕の色は?」
「黄色……でした。あ、いや、少し青も入っていたような……」
「黄色に……青? なんですかそれ」
「支援よりのメインが生活スキル……なのでしょう。スキルは星の数ほどあります。中には確実に分類できないものもあり、あなたのスキルは支援スキルに少し寄った生活スキルと判別されたのです」

 レイはがっくりと膝をついた。

「どうして僕が不遇スキルなんだっ! これまで必死に努力してきたのにっ!」
「スキルは神が与え給うもの。全ては神の御意思です。さあ、次の方がお待ちです。そろそろお引取り願います」
「……はい」

 レイはゆっくりと立ち上がりフラフラと教会を出て行った。

「不遇スキル……僕が……っ!?」
「いってぇな気を付けろ!!」
「ぶつぶつ……」
「な、なんだこいつ……気持ち悪い奴だな」

 レイはフラフラと歩き続け街の中央にある噴水の縁に座り込んだ。

「全部……なくなった。僕はこれからどうしたら……」

 手元には父親に投げ付けられた手切れ金。そして正装と腰に下げた剣一本がレイの全てだ。二度と家に帰れず、住む場所もない。

 そう頭を抱えて悩むレイに頭上から声が掛かった。

「大丈夫? 頭痛いの?」
「……え?」

 頭を上げたレイは目を丸くして絶句した。

 目の前には小さな体型ながら身の丈の倍はあろうかという大剣を背負い、高価な防具を装備した女の子がいた。

「ん? 大丈夫?」
「あ……う、うん。大丈夫じゃないけど大丈夫……かな」
「そ。もうすぐ陽が落ちるからお屋敷に戻った方が良いよ? その格好、君貴族様でしょ?」
「う……」
「違うの?」

 レイは悪気なく尋ねてきた女の子に身の上話をした。

「あちゃー、ハズレスキル引いちゃったのか~」
「……うん」
「それで家族に捨てられちゃったんだね」
「……うん」
「そっかそっか~。私と同じだねっ」
「え?」

 女の子はニパッと笑顔を見せ名乗った。

「私は【リリー】、ドワーフ族のリリーだよっ」
「ドワーフ……ドワーフ族!?」
「うんっ」

 ドワーフ族は手先が器用で鍛冶を生業としている種族だ。ドワーフの造る武器や防具は魔物と戦う際にかなり重宝されている。

「何故ドワーフがこんな所に……?」
「それは私がハズレスキル持ちで里から追放されたからだよ」
「追放!?」
「うん。今冒険者やっててクエストで近くまで来たから寄っただけなのっ」
「冒険者……か」

 冒険者とは住む場所を持たず世界を股にかけ依頼をこなし金を稼ぐ者達の事だ。戦える力を持つ者で国の掟を嫌い自由を求めて動く事から貴族や国家騎士団とはすこぶる仲が悪い事で有名だ。

「え? いや、待ってくれ。君、ハズレスキルなんだよね?」
「うん」
「スキルなしで魔物と戦えるの?」
「もちろんだよっ。ドワーフは小さいけど力持ちなんだよっ」
「な、なるほど」

 ドワーフは成人しても小柄な種族だ。だがその見た目からは想像もつかないほど腕力がある。鍜冶に腕力は必須だからだ。

「あ~! 陽が落ちちゃう! 私宿に行くから君もそんなとこ座ってないで宿に行きなよっ! じゃあねっ」

 レイはそう言って走り去ろうとするリリーを慌てて呼び止めた。

「ま、待って!」
「ん? なに?」

 立ち上がったレイはリリーに向かい頭を下げた。

「へ?」
「頼むっ! もう少し話が聞きたいっ! 君の宿についていっても構わないかな?」
「ん~……良いよっ」
「本当か!?」
「うん。ただし……晩御飯奢ってねっ」
「あ、ああ。そのくらいなら」
「決まりだねっ。行こっ」

 この後、レイは奢ると言った言葉を物凄く後悔するのだった。
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