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第三章 ふたり暮らし
第二話
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「引越し屋さん帰ったよ~」
長政が玄関から入ってくる。
「お疲れ様」
「おぅ」
長政もリビングに座り、部屋を眺める。
「ふふ、今夜から一緒の部屋で寝るんだな」
「……」
なんと言っていいのか、ふたり暮らしという現実が妙に現実味帯びて、寝室を直視できない。
長政は余裕そうだな。
「巴、これから宜しくね」
「……こちらこそ」
長政はにこっと笑う。
そして、あ!っという顔をして寝室へ向かうとひとつ段ボールを開ける。
「ねぇこれ、見て」
手渡されたものは写真だった。
「巴と出会った頃、こんなんだった?」
「……」
そこに写るのは紛れもなく僕の記憶にあるライオンの鬣の少年だ。屈託のない笑顔でこちらを見ている。
「うん……これ、この子だ」
「そっか、じゃぁ俺達は再会ってことだね」
長政が写真のままの笑顔をくれた。
うぅ……、抱きしめたいくらいにかわいい。
……にしても写真の中の長政はもっと髪色がブラウンで明らかに外国の血が入っている外見をしている。今の長政はもっと落ち着いたダークブラウンで、髪も整ってるし、瞳も……
長政を見ると、長政もこちらを向いて目が合う。
とってもきれいな瞳だ。
「俺、巴に見惚れられてる」
頬杖をついてにんまりと笑う長政。
「あ……」
そうか、見つめてしまっていたんだ。
「でも、写真に妬けるからもうしまう」
「えぇ? もうしまうの?」
「だって、めっちゃデレてんだもん」
「そ、そう?!」
だって、かわいいじゃん。
僕から写真を取り上げるとそれを元あった段ボールにしまった。あとでこっそり取り出して写真立てに入れて飾ったら怒るかな。
「冷蔵庫とか来るから、そのあと買い物行こうな」
「あ、うん」
ありがたいことに巴の母親が小さい冷蔵庫とか電子レンジなど注文してくれていてそれが午後に届く予定になっている。
家を出たいと言っても、結局は親に払ってもらってる。すこしずつでも自分で生活できるようにしていかなくちゃと思った。すると長政に髪を撫でられる。
「これは子どもとしての権利だよ、巴。出してもらってるとか考えてない?俺ら高校生だぜ?大学生でも親から仕送りしてもらってる人もいるんだから」
長政には僕の思考はバレバレなんだ。
いつかの僕のセリフだなと思いながら僕は頷いた。
「うん。でも、バイトとかして少しでも」
「受験終わったらな?受からないとこの生活も危うくなる」
……たしかに。
「社会人になったら俺がいっぱい甘やかすから、それまでは待っててな」
「甘やかすって……」
「オムライス御殿を建ててやるから」
社会人になっても長政と一緒に居られる未来がある…?
長政はいたずらっぽく笑ってみせて立ち上がる。そしてベランダから空を見上げる。
「あのマンションみたいに見下ろせなくなったな」
「そうだね」
でも僕はこの三階からの景色のほうが気に入っている。見上げる空が小さいけれど、見下ろすより、ここでも生きてるよって顔をあげたくなるんだ。
「今夜は引越し蕎麦か?」
「そうだね」
振り向いた長政がまた笑う。
「それともオムライスにする?」
僕はいまとても胸がいっぱいだ。
これを幸せと呼ぶなら、僕は紛れもなく幸せだ。
この時間がたとえ限定的であっても、
僕はこの時間を大切に生きていけると思う。
長政が玄関から入ってくる。
「お疲れ様」
「おぅ」
長政もリビングに座り、部屋を眺める。
「ふふ、今夜から一緒の部屋で寝るんだな」
「……」
なんと言っていいのか、ふたり暮らしという現実が妙に現実味帯びて、寝室を直視できない。
長政は余裕そうだな。
「巴、これから宜しくね」
「……こちらこそ」
長政はにこっと笑う。
そして、あ!っという顔をして寝室へ向かうとひとつ段ボールを開ける。
「ねぇこれ、見て」
手渡されたものは写真だった。
「巴と出会った頃、こんなんだった?」
「……」
そこに写るのは紛れもなく僕の記憶にあるライオンの鬣の少年だ。屈託のない笑顔でこちらを見ている。
「うん……これ、この子だ」
「そっか、じゃぁ俺達は再会ってことだね」
長政が写真のままの笑顔をくれた。
うぅ……、抱きしめたいくらいにかわいい。
……にしても写真の中の長政はもっと髪色がブラウンで明らかに外国の血が入っている外見をしている。今の長政はもっと落ち着いたダークブラウンで、髪も整ってるし、瞳も……
長政を見ると、長政もこちらを向いて目が合う。
とってもきれいな瞳だ。
「俺、巴に見惚れられてる」
頬杖をついてにんまりと笑う長政。
「あ……」
そうか、見つめてしまっていたんだ。
「でも、写真に妬けるからもうしまう」
「えぇ? もうしまうの?」
「だって、めっちゃデレてんだもん」
「そ、そう?!」
だって、かわいいじゃん。
僕から写真を取り上げるとそれを元あった段ボールにしまった。あとでこっそり取り出して写真立てに入れて飾ったら怒るかな。
「冷蔵庫とか来るから、そのあと買い物行こうな」
「あ、うん」
ありがたいことに巴の母親が小さい冷蔵庫とか電子レンジなど注文してくれていてそれが午後に届く予定になっている。
家を出たいと言っても、結局は親に払ってもらってる。すこしずつでも自分で生活できるようにしていかなくちゃと思った。すると長政に髪を撫でられる。
「これは子どもとしての権利だよ、巴。出してもらってるとか考えてない?俺ら高校生だぜ?大学生でも親から仕送りしてもらってる人もいるんだから」
長政には僕の思考はバレバレなんだ。
いつかの僕のセリフだなと思いながら僕は頷いた。
「うん。でも、バイトとかして少しでも」
「受験終わったらな?受からないとこの生活も危うくなる」
……たしかに。
「社会人になったら俺がいっぱい甘やかすから、それまでは待っててな」
「甘やかすって……」
「オムライス御殿を建ててやるから」
社会人になっても長政と一緒に居られる未来がある…?
長政はいたずらっぽく笑ってみせて立ち上がる。そしてベランダから空を見上げる。
「あのマンションみたいに見下ろせなくなったな」
「そうだね」
でも僕はこの三階からの景色のほうが気に入っている。見上げる空が小さいけれど、見下ろすより、ここでも生きてるよって顔をあげたくなるんだ。
「今夜は引越し蕎麦か?」
「そうだね」
振り向いた長政がまた笑う。
「それともオムライスにする?」
僕はいまとても胸がいっぱいだ。
これを幸せと呼ぶなら、僕は紛れもなく幸せだ。
この時間がたとえ限定的であっても、
僕はこの時間を大切に生きていけると思う。
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