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夢と現実
第十四話
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巴の父親はいよいよ俺を呼んだ。
ダイニングに向かうと父親はすでに座っていて俺を向かいの椅子に座るよう笑顔で促す。巴には見せない表の顔。これが仮面だとすると巴の前で見せるあの顔が素顔なのだろうか。
もちろん巴の父親だし俺の母親の再婚相手だ。裏表を隠そうとしないのは逆に攻略しやすい。
「長政くん、進路はどのように考えている?」
「俺はK大に行こうと思います」
「なんだと?」
K大という名前を聞いて驚いている。というか戸惑いだろうか。母親に最低限でも大学は出させろと言っていた人だ、それは腰を抜かすほどだろうな。
「巴が行けるだろうと言ってくれたんで」
「……ふたりでそんな話をしているのか」
「巴も多分一緒に受けると思います」
父親は目を見開いて絶句している。父親は巴からK大へは行きたくないと聞いている、驚くのも仕方がない。
「ふたりともK大へ?」
「お父さんには負担かけますからもし巴が受かれば彼を優先してもらって構わないです」
「金のことは気にするな!君にもK大に入ってもらっていいんだから!あっはっは」
息子ふたりともK大に通わせられる甲斐性があるってそんなに嬉しいことなのか、さっき驚いていた顔はすっかりなくなり今度は椅子に寄りかかり満足気だ。
「……これからオンライン授業があるんで」
「あぁ、すまないね、手短かに済ますよ」
言いたかったことを思い出したのか、俺を引き止めるとひとつ深呼吸をする。
「いや、このマンション窮屈じゃないかと思ってね、やはりマンション住まいは無謀だったかなと」
「別に不満はありません」
俺は現状に満足している素振りをし淡々と話を進めることにした。
「そうか? ほら、風呂も順番があるし、トイレとか。それにもっと高校から近いところに引っ越してもいいかと思っていてね」
「なるほど、それは良いですね、しかしそれでは通勤がしづらいんじゃ?」
「あ、あぁ、そうだな、そうなんだよ、うん。それで、君と巴だけでも暮らせるマンションを借りるのはどうだろうか」
「ふたりで?」
俺はじっと父親を見た。
「どうだ、考えてみてくれ」
「高校卒業したらですか?」
「いや、今すぐにでもいいよ、私の友人が不動産会社をしていてね、良いのがあるらしい」
……随分と用意周到だ。
「巴にこの話はしましたか?」
「いや、あいつには聞かない、君次第だよ、君の良いようにしてくれて構わない」
「では巴と考えます」
巴に話す気がないだと?腹がたって仕方ないが俺はそれを隠して部屋に戻った。
数日前、俺は賭けに出た。
またも巴の風呂の時間にキッチンにいる母親を捕まえる。
「……え?」
片付けをしている母親の手が止まる。
「だから、いつも聞こえてたの」
「なにがよ、幽霊でもいるの?」
「新婚だから仕方ないと思って我慢してたんだけどさ」
「……?」
「ママ、後ろからされるのが好きだとはなぁ」
俺がニヤリと笑うと母親が顔を真っ赤にした。
「ちょっと、もう! あんたってば!」
「なに、想像してんの」
「もう! 揶揄わないでよ!」
俺の頭を叩く。
「仕方ないだろ、あんな大きな声で」
「やめなさい! もう!」
「巴に見つかるのも時間の問題、いやもう聞かれてるかもなぁ、巴のおやじさんの性欲の強さったら」
「やめて!!」
羞恥心に顔を赤らめていた母親がリビングに逃げた。俺は母親を追いかける。
「ママは夫とラブラブ新婚生活楽しめてるのかなって」
「そんなのあなたに関係ないわよ……」
「そうかな、巴のお父さんは多分欲求不満だと思うよ」
「……そんなの、知らない!」
「昨日も、あんなことされてたろ」
俺は低い声で母親に言うと母親はビクッと身構えた。
「正直、二人のそういうの聞きたくないんだけどね」
母親はだんだん真っ青になりソファに倒れるように座った。
俺は、俺らを追い出すよう仕向けた。
こう言えばおそらく父親は俺らふたりを排除しにくるだろうと。あの人が母親に夢中なのはこれで分かったし俺はそれでいい。ふたり幸せになってくれ。
俺、悪いよなぁ……
ママごめんね。
でも、ママがあの人を好きなように、俺も巴が好きなんだ。そばにいたいんだ。
ダイニングに向かうと父親はすでに座っていて俺を向かいの椅子に座るよう笑顔で促す。巴には見せない表の顔。これが仮面だとすると巴の前で見せるあの顔が素顔なのだろうか。
もちろん巴の父親だし俺の母親の再婚相手だ。裏表を隠そうとしないのは逆に攻略しやすい。
「長政くん、進路はどのように考えている?」
「俺はK大に行こうと思います」
「なんだと?」
K大という名前を聞いて驚いている。というか戸惑いだろうか。母親に最低限でも大学は出させろと言っていた人だ、それは腰を抜かすほどだろうな。
「巴が行けるだろうと言ってくれたんで」
「……ふたりでそんな話をしているのか」
「巴も多分一緒に受けると思います」
父親は目を見開いて絶句している。父親は巴からK大へは行きたくないと聞いている、驚くのも仕方がない。
「ふたりともK大へ?」
「お父さんには負担かけますからもし巴が受かれば彼を優先してもらって構わないです」
「金のことは気にするな!君にもK大に入ってもらっていいんだから!あっはっは」
息子ふたりともK大に通わせられる甲斐性があるってそんなに嬉しいことなのか、さっき驚いていた顔はすっかりなくなり今度は椅子に寄りかかり満足気だ。
「……これからオンライン授業があるんで」
「あぁ、すまないね、手短かに済ますよ」
言いたかったことを思い出したのか、俺を引き止めるとひとつ深呼吸をする。
「いや、このマンション窮屈じゃないかと思ってね、やはりマンション住まいは無謀だったかなと」
「別に不満はありません」
俺は現状に満足している素振りをし淡々と話を進めることにした。
「そうか? ほら、風呂も順番があるし、トイレとか。それにもっと高校から近いところに引っ越してもいいかと思っていてね」
「なるほど、それは良いですね、しかしそれでは通勤がしづらいんじゃ?」
「あ、あぁ、そうだな、そうなんだよ、うん。それで、君と巴だけでも暮らせるマンションを借りるのはどうだろうか」
「ふたりで?」
俺はじっと父親を見た。
「どうだ、考えてみてくれ」
「高校卒業したらですか?」
「いや、今すぐにでもいいよ、私の友人が不動産会社をしていてね、良いのがあるらしい」
……随分と用意周到だ。
「巴にこの話はしましたか?」
「いや、あいつには聞かない、君次第だよ、君の良いようにしてくれて構わない」
「では巴と考えます」
巴に話す気がないだと?腹がたって仕方ないが俺はそれを隠して部屋に戻った。
数日前、俺は賭けに出た。
またも巴の風呂の時間にキッチンにいる母親を捕まえる。
「……え?」
片付けをしている母親の手が止まる。
「だから、いつも聞こえてたの」
「なにがよ、幽霊でもいるの?」
「新婚だから仕方ないと思って我慢してたんだけどさ」
「……?」
「ママ、後ろからされるのが好きだとはなぁ」
俺がニヤリと笑うと母親が顔を真っ赤にした。
「ちょっと、もう! あんたってば!」
「なに、想像してんの」
「もう! 揶揄わないでよ!」
俺の頭を叩く。
「仕方ないだろ、あんな大きな声で」
「やめなさい! もう!」
「巴に見つかるのも時間の問題、いやもう聞かれてるかもなぁ、巴のおやじさんの性欲の強さったら」
「やめて!!」
羞恥心に顔を赤らめていた母親がリビングに逃げた。俺は母親を追いかける。
「ママは夫とラブラブ新婚生活楽しめてるのかなって」
「そんなのあなたに関係ないわよ……」
「そうかな、巴のお父さんは多分欲求不満だと思うよ」
「……そんなの、知らない!」
「昨日も、あんなことされてたろ」
俺は低い声で母親に言うと母親はビクッと身構えた。
「正直、二人のそういうの聞きたくないんだけどね」
母親はだんだん真っ青になりソファに倒れるように座った。
俺は、俺らを追い出すよう仕向けた。
こう言えばおそらく父親は俺らふたりを排除しにくるだろうと。あの人が母親に夢中なのはこれで分かったし俺はそれでいい。ふたり幸せになってくれ。
俺、悪いよなぁ……
ママごめんね。
でも、ママがあの人を好きなように、俺も巴が好きなんだ。そばにいたいんだ。
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