僕の名前を

Gemini

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第二章 恋愛と友愛

第六話

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 長政が待ってる昇降口へ向かおうとしていたとき、カケルの後ろ姿が見えた。あれから一週間くらい会っていない。このまま無視して通り過ぎてもいいんだが、これまで僕と過ごしてくれたのはカケルだけだった、それは紛れもない事実なんだ。やはりこのままにしてはいけない。

「カケル」

 カケルの背中がビクっと跳ねる。ゆっくり僕を振り返るも目を合わそうとはしてくれない。でも僕はカケルに言わなくちゃならない。

「あの、この間はごめん」
「え? なんで巴が謝るの」
「怒りすぎた」
「ちがう、俺が……」
「これまで一緒にいてくれて感謝しなくちゃならなかったのに」
「……なんなのそれ」

 呆れているようで今にも泣きそうなカケルの表情にここからどう話していいのか声に詰まる。

「僕は人の気持ちに気づけないし、気づいても気遣ってやれない、どうしたらいいのか分からない、ごめん」

 カケルは黙って聞いてくれていた。そして髪をクシャクシャっと乱暴に掻くと僕に笑ってみせた。

「俺は、やっぱり巴と一緒にいられないや」
「……」
「やっぱりさ、巴は俺のこと友達と思ってなかったよね。空気とかそのへんのモノみたいな」

 カケルの言っていることはよく分かる。父親からみた僕なんだ、無機質でモノみたいな存在。自分が嫌だった父親と同じことをしていたのだ。

「ごめん」
「いいんだ、巴はみんなにもそういう態度だったから。……俺も巴のこと友達としては見てなかった」

 カケルは大きな瞳に涙を溜めながら笑った。

「だからもう巴と一緒にはいられない」
「……ごめん」
「巴のこと、巴の家のこと本当はあんな風に思ったことはない。なのにあんな風に言ってごめん」
「ううん」




 僕のせいで傷ついている人がいると知った。僕の無関心さが誰かを傷付けているだなんて思いもしなかった。誰も僕なんて認識していなくて、気にもかけていないと思っていたんだ。

 母親も僕を生んですぐ家を出たと聞いた。少しの間父親の妹が面倒を見てくれたらしい。しかし自身の婚約で面倒は見れなくなり、その後は保育園以外はベビーシッターを雇っていた。

 ついに小学校へ上がると誰も居ない家に帰る日々が始まった。担任も気にしていると言ってもそれは建前で、夕飯をどうしているかなんて聞いてきても、父親が与えていると言えば何をするわけでもなかった。

 昔は誰かに期待していたのかもしれない。

 でも誰かに期待することは間違っている。勝手に期待されるほうが迷惑なのだ。期待するから裏切られる。期待しなければ裏切られることはない。

 傷つかない、泣かない。

 冷めた弁当は温めない。

 これが自分の人生なんだと受け入れる。




 ……なのに。

 階段を降りて昇降口には、壁に凭れかかりくせ毛のブラウンヘアをかきあげてる男がいる。

「おっ、来たな」

 どうして長政なんだろう。長政の前では無機質で居られなくなる。自分が自分じゃないみたいに苦しくなる。

 ずっと一緒にいたいと思ってしまう。

 傷つくし、泣いてしまう。

 ハートが描かれたオムライス。

 これが恋なんだと気づく。









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