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枸櫞の香り
第十八話
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「巴、起きてる?」
俺はふたりの部屋を繋ぐバルコニーから巴の部屋の掃き出し窓を覗いた。
冷えた身体を無理やり風呂に入れさせたのは二時間くらい前。二人ずぶ濡れで帰宅したのを見た母親は驚いていたが、俺は一目散に巴を風呂場に押し込んだ。
母親は麻里が何も言わないで出ていったことを心配そうに俺に伝えてきたが、「別れたから」と返すとそれ以上何も言わなかった。
「制服が濡れちゃってもう……明日どうするのよ」
とタオルで制服の上から俺の身体を拭き始める。
「ねぇ、ママ」
「ん?」
「巴のお父さんのどこが好き?」
「な、なによ急に」
「人を好きになるって、どんな時かなって」
「そういうのは友達と話しなさい!」
母親は恥ずかしいのか頬をほんのり赤くするとタオルを押し付けキッチンへ逃げていった。
巴の部屋の中からはなんの返答もない。窓は開いていて網戸だけが閉められている。俺は中に入ることにした。
巴はベッドで背を丸くして寝ていた。掛ふとんの上に寝ていることから、うたた寝してしまったのが伺える。
「巴 」
声をかけても返答はなく、壁を向いてスヤスヤと寝息が聞こえるだけ。俺はその寝息に吸い寄せられるようにその背中に寄り添うように横になった。
巴の温かな体温、ちゃんと風呂で温まったことが分かる。そして巴の項を鼻先でくんくんすれば甘い柑橘の香りがする。目を瞑り、息を殺して巴を抱きしめた。
「……なんでそんな熱いのおまえ」
しばらくして巴の声がした。
「多分、巴のことが好きだからじゃない?」
巴が身をよじり俺を見る。
「彼女は?」
「別れた。……というより世間的に言う恋人ではないから」
「おまえの片思いとか?」
「はは、違うよ。身体だけの関係ってこと」
そうだな、軽蔑するかな。でも仕方がない。それが俺だったしお互いさまなところもあった。
「ずっとセックスしてたし、他にもいた訳じゃない。だから付き合ってたわけじゃなくとも情みたいなもんはあったと思う。だから別れたいって言った。そしたらビンタされた」
俺をビンタして麻里の自尊心が保たれたんなら安いもんだとも思った。巴はちゃんと身をこちらに返して俺の目をじっと見てる。
「ビンタされたんならいい」
「え……」
「……なんでもない」
眉を寄せて不器用に巴は笑って見せた。
「……巴」
巴の頬を包むように触れると巴に口づける。そしてそのまま巴の顔を胸に抱きしめた。
しばらくして巴の腕が伸ばされ俺の背中に回されて、お互い身体をくっつけて、ずっとそのまま抱き合った。
「巴、寝ちゃう?」
「……ん」
巴のサラサラとした髪を撫でていると俺の腕枕で瞬きがゆっくりとなる巴。
「あのさ、高校卒業したら、ふたりで暮らさね?」
「え……?」
「この家を出よう?」
一気に眠気が飛んだらしい巴は上体を起こして俺を見た。
「どっか遠い大学受けて、ふたりで暮らそう」
そう続けると、巴の目が赤くなりそこからポロポロと涙がこぼれてくる。巴は次々に溢れる涙を手で拭うと俺に抱きついた。
俺はふたりの部屋を繋ぐバルコニーから巴の部屋の掃き出し窓を覗いた。
冷えた身体を無理やり風呂に入れさせたのは二時間くらい前。二人ずぶ濡れで帰宅したのを見た母親は驚いていたが、俺は一目散に巴を風呂場に押し込んだ。
母親は麻里が何も言わないで出ていったことを心配そうに俺に伝えてきたが、「別れたから」と返すとそれ以上何も言わなかった。
「制服が濡れちゃってもう……明日どうするのよ」
とタオルで制服の上から俺の身体を拭き始める。
「ねぇ、ママ」
「ん?」
「巴のお父さんのどこが好き?」
「な、なによ急に」
「人を好きになるって、どんな時かなって」
「そういうのは友達と話しなさい!」
母親は恥ずかしいのか頬をほんのり赤くするとタオルを押し付けキッチンへ逃げていった。
巴の部屋の中からはなんの返答もない。窓は開いていて網戸だけが閉められている。俺は中に入ることにした。
巴はベッドで背を丸くして寝ていた。掛ふとんの上に寝ていることから、うたた寝してしまったのが伺える。
「巴 」
声をかけても返答はなく、壁を向いてスヤスヤと寝息が聞こえるだけ。俺はその寝息に吸い寄せられるようにその背中に寄り添うように横になった。
巴の温かな体温、ちゃんと風呂で温まったことが分かる。そして巴の項を鼻先でくんくんすれば甘い柑橘の香りがする。目を瞑り、息を殺して巴を抱きしめた。
「……なんでそんな熱いのおまえ」
しばらくして巴の声がした。
「多分、巴のことが好きだからじゃない?」
巴が身をよじり俺を見る。
「彼女は?」
「別れた。……というより世間的に言う恋人ではないから」
「おまえの片思いとか?」
「はは、違うよ。身体だけの関係ってこと」
そうだな、軽蔑するかな。でも仕方がない。それが俺だったしお互いさまなところもあった。
「ずっとセックスしてたし、他にもいた訳じゃない。だから付き合ってたわけじゃなくとも情みたいなもんはあったと思う。だから別れたいって言った。そしたらビンタされた」
俺をビンタして麻里の自尊心が保たれたんなら安いもんだとも思った。巴はちゃんと身をこちらに返して俺の目をじっと見てる。
「ビンタされたんならいい」
「え……」
「……なんでもない」
眉を寄せて不器用に巴は笑って見せた。
「……巴」
巴の頬を包むように触れると巴に口づける。そしてそのまま巴の顔を胸に抱きしめた。
しばらくして巴の腕が伸ばされ俺の背中に回されて、お互い身体をくっつけて、ずっとそのまま抱き合った。
「巴、寝ちゃう?」
「……ん」
巴のサラサラとした髪を撫でていると俺の腕枕で瞬きがゆっくりとなる巴。
「あのさ、高校卒業したら、ふたりで暮らさね?」
「え……?」
「この家を出よう?」
一気に眠気が飛んだらしい巴は上体を起こして俺を見た。
「どっか遠い大学受けて、ふたりで暮らそう」
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