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第一章 ブラウンヘアの男
第八話
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長政に誘われてマンションから近いスーパーに来た。土曜のスーパーは家族連れが多い。
引っ越してから未だ訪れたことのないスーパー。弁当を買う必要はなくなった。考えてみればお菓子も、ジュースも、洗剤ひとつ取ってもこの生活になってから買いに行かずに済んでる。
全ての家事から開放されて毎日学校だけ行けば良くなった。父親のいう「幸せに思え」は確かにそのとうりだ。
「巴?」
「あ、……なに」
「今夜何食いたい?」
名前、普通に呼ぶようになった。
おにーちゃんも嫌だけど、名前を呼ばれるのもまだ慣れない。
「お前が食べたいやつでいいよ」
「俺は巴の好きなの作りたいな」
「きもい」
「なんでよ」
カートを押して歩く長政の後ろを付いて回っていると、何度も長政が振り返る。
「迷子にならねぇよ、いちいち振り向くな」
「心配なんだよ、横に来てよ」
「僕は後ろがいいんだ」
その大きな背中を見てたいから。
は? なんで? 自分でびっくりする。
「ほら、また足止まってる、なんか考えてんの?」
「え?」
「あんま心配かけると手つなぐかんな」
「はぁ?!」
想像して顔が赤くなった。
「おにーちゃん、かわいい」
ほんとに、こいつ、ムカつく。
「自分で気づかない?」
「かわいいなんて要素はない」
「あるよ、たくさん、だから心配」
「どこをかわいいなんて思うんだよ、バカか」
わかってないね、と呆れた顔をされた。
「だから痴漢にも遇うんだろ」
「!!」
思い出してゾワッとした。
「あれは、ただの変態……だろ」
「俺はされたことないよ?」
「それは、お前はガタイがいいし…」
「でもソッチの方々からは人気あるよ」
は? 何言ってんの。
「俺、ウケから人気あるみたい。バイトしてたときよく誘われた」
ウケ……とは……こいつ、スーパーでなんてことを……
「だから余計心配なんじゃん?」
「なにがだよ」
長政が僕の腰に手を回した。
「離せよっ」
そのままグイッと引き寄せられて顔が近づいて思わず目を瞑ってしまった。
「!!」
そのまま頬にキスされた。
「……ほんと、危なっかしい」
あっさり手を離し両手を上げて降参ポーズをして笑ってる。
やっぱり、ムカつく。
こいつのペースにされてしまう。
「……だから、腰を触るな」
「どこだったらいいの?」
「そういうことじゃねぇ」
「そういうことじゃん、どこは良いの、教えて」
夕飯を終えて作ってもらったお礼というか、役割としてキッチンで食器を洗っている僕の腰に手を回してくる。
夕飯は何がいいかしつこく聞かれ振り絞ったのはカレー。長政は「お安い御用だけど、今夜だと煮込みが足りないから食べるのは明日ね、それで今日は何が食べたい?」って結局振り出しに戻って、野菜炒めと言った。
長政は僕の背中にぴったり張り付いている。
熱い、長政の体温。
僕は長政を振り払わなかった。
だって、手が泡だらけだし……言い訳だ。
少ししたらお尻に硬いものが当たって、トクトクと鼓動は早くなった。
そして急に背中から熱が離れて、
「俺も、洗う」
長政が隣にきて一緒に洗った。
夜中、いつものように冷蔵庫からペットボトルを出す。いつもいる他人の気配がなくシーンとしてる部屋がとても懐かしくて落ち着く。
しかし奥の部屋には長政がいる。
あいつの気配というのは不思議と安心する。
痴漢から助けてもらったからだろうか。
一緒にうどんを食べたからだろうか。
いちいち生意気で腹が立つのに。
キッチンで考え込んでいると、後ろに気配を感じた。
「こうやっていつもこっそり水取りに来るよね」
長政が後ろから僕の腰に手を置いた。
その手首を掴み引き剥がそうとするが全く剥がれてくれず、その手は今度は腹に回って引き寄せられる。Tシャツ越しに背中にじんわりと長政の体温が移る。
僕は振り払うのをやめた。
馬鹿力で藻掻いても無駄だし、むしろ悪化するし、
何よりもう背中に感じる温度にひどく安心してしまっているから。
そして、ドキドキもするから。
「んっ!」
いきなり僕の項にくすぐったいような感覚がした。顔だけ振り返ると長政の顔が近づいて首に吸い付いている。
長政の頭を押して首から剥がそうとするがさらに迫ってきた大きな体とシンクの間に挟まれてしまった。
長政の鼻息が耳元にかかって熱い。
「反応よすぎ」
ぐっとお尻に硬いものが当てられる。
「おまえ……」
耳たぶを甘噛みされ鳥肌が立つ。
「……やめろっ」
また藻掻くと今度は両腕の上から抱きしめられてしまい、顕になった項への執拗な攻撃がはじまる。
長政の唇が耳元から耳裏を舐め項にまたキスをするとその唇で甘噛みを繰り返した。
ビリビリと背筋から脳に電気が走っているような快感がする。
必死に耐えているとついに項を下から上に舐め上げられてしまい、同じように快感が上りつめそうになり思わず声が漏れてしまう。
「ん…………っ」
すると噛みつかれたのかと思うくらい強く吸われて全身がビクリと跳ねた。
「へへ、おにーちゃん、感じた?」
いきなり快感から解放され、シンクの縁に手をついて息を整える。前髪の隙間から余裕そうな長政を睨んだ。
「お前、なにがしたいんだよ……こんなこと」
みっともないくらい足はガクガクしている。
「さぁ」
「さぁって」
「ただ……」
ギシっと小さく床が鳴った。
「この身長差ってキスするのにちょうどいいよね」
「揶揄うのも……っ」いい加減にしろ……
にじり寄ってくるブラウンヘアに僕の言葉は飲み込まれてしまった。強引な唇を離したくとも両頬を鷲掴みにされて逃げられない。
長政の大きな身体を押して、抵抗する。
「んんっ……!」
口端からどちらのものか分からない唾液が溢れてくる。
長政の荒々しく熱い鼻息が僕の頬をかすめたとき、押していた手を止めた。
すると自然と長政の手も緩み、それまでとは違う包み込むような温かさへと温度を変えた。
優しく何度も何度も唇を吸い取られる。
僕が手首に手を添えると長政はようやく唇を離した。
僕はこの隙に目一杯空気を取り込んだ。
擦り合わされるおでこの間で挟まった前髪がザリザリと音を立てる。
「なんて色っぽい顔してんの、……かわい」
あっという間に耳の縁まで血が巡る。
一瞬でもこの男の唇を受け入れてしまった恥ずかしさに、その大きな胸を突き飛ばして部屋に逃げた。
初めてのキス。
父親の再婚相手の息子と。
揶揄われたくない。
その後で余裕な顔をされるのも、
熱を当てつけてくるのも、
その熱に煽られてる自分も。
長政の荒い鼻息が何度も頬をかすめたとき、長政が興奮しているんだと頭が理解したら体は長政を受け入れてしまっていた。
欲に溺れた。
誰とも付き合ったことがなく、童貞の僕にとって刺激が強く立ってるのもやっとだった。手慣れていそうな長政、余裕なのが悔しい……
荒々しく奪われた唇を指でなぞっていた。
引っ越してから未だ訪れたことのないスーパー。弁当を買う必要はなくなった。考えてみればお菓子も、ジュースも、洗剤ひとつ取ってもこの生活になってから買いに行かずに済んでる。
全ての家事から開放されて毎日学校だけ行けば良くなった。父親のいう「幸せに思え」は確かにそのとうりだ。
「巴?」
「あ、……なに」
「今夜何食いたい?」
名前、普通に呼ぶようになった。
おにーちゃんも嫌だけど、名前を呼ばれるのもまだ慣れない。
「お前が食べたいやつでいいよ」
「俺は巴の好きなの作りたいな」
「きもい」
「なんでよ」
カートを押して歩く長政の後ろを付いて回っていると、何度も長政が振り返る。
「迷子にならねぇよ、いちいち振り向くな」
「心配なんだよ、横に来てよ」
「僕は後ろがいいんだ」
その大きな背中を見てたいから。
は? なんで? 自分でびっくりする。
「ほら、また足止まってる、なんか考えてんの?」
「え?」
「あんま心配かけると手つなぐかんな」
「はぁ?!」
想像して顔が赤くなった。
「おにーちゃん、かわいい」
ほんとに、こいつ、ムカつく。
「自分で気づかない?」
「かわいいなんて要素はない」
「あるよ、たくさん、だから心配」
「どこをかわいいなんて思うんだよ、バカか」
わかってないね、と呆れた顔をされた。
「だから痴漢にも遇うんだろ」
「!!」
思い出してゾワッとした。
「あれは、ただの変態……だろ」
「俺はされたことないよ?」
「それは、お前はガタイがいいし…」
「でもソッチの方々からは人気あるよ」
は? 何言ってんの。
「俺、ウケから人気あるみたい。バイトしてたときよく誘われた」
ウケ……とは……こいつ、スーパーでなんてことを……
「だから余計心配なんじゃん?」
「なにがだよ」
長政が僕の腰に手を回した。
「離せよっ」
そのままグイッと引き寄せられて顔が近づいて思わず目を瞑ってしまった。
「!!」
そのまま頬にキスされた。
「……ほんと、危なっかしい」
あっさり手を離し両手を上げて降参ポーズをして笑ってる。
やっぱり、ムカつく。
こいつのペースにされてしまう。
「……だから、腰を触るな」
「どこだったらいいの?」
「そういうことじゃねぇ」
「そういうことじゃん、どこは良いの、教えて」
夕飯を終えて作ってもらったお礼というか、役割としてキッチンで食器を洗っている僕の腰に手を回してくる。
夕飯は何がいいかしつこく聞かれ振り絞ったのはカレー。長政は「お安い御用だけど、今夜だと煮込みが足りないから食べるのは明日ね、それで今日は何が食べたい?」って結局振り出しに戻って、野菜炒めと言った。
長政は僕の背中にぴったり張り付いている。
熱い、長政の体温。
僕は長政を振り払わなかった。
だって、手が泡だらけだし……言い訳だ。
少ししたらお尻に硬いものが当たって、トクトクと鼓動は早くなった。
そして急に背中から熱が離れて、
「俺も、洗う」
長政が隣にきて一緒に洗った。
夜中、いつものように冷蔵庫からペットボトルを出す。いつもいる他人の気配がなくシーンとしてる部屋がとても懐かしくて落ち着く。
しかし奥の部屋には長政がいる。
あいつの気配というのは不思議と安心する。
痴漢から助けてもらったからだろうか。
一緒にうどんを食べたからだろうか。
いちいち生意気で腹が立つのに。
キッチンで考え込んでいると、後ろに気配を感じた。
「こうやっていつもこっそり水取りに来るよね」
長政が後ろから僕の腰に手を置いた。
その手首を掴み引き剥がそうとするが全く剥がれてくれず、その手は今度は腹に回って引き寄せられる。Tシャツ越しに背中にじんわりと長政の体温が移る。
僕は振り払うのをやめた。
馬鹿力で藻掻いても無駄だし、むしろ悪化するし、
何よりもう背中に感じる温度にひどく安心してしまっているから。
そして、ドキドキもするから。
「んっ!」
いきなり僕の項にくすぐったいような感覚がした。顔だけ振り返ると長政の顔が近づいて首に吸い付いている。
長政の頭を押して首から剥がそうとするがさらに迫ってきた大きな体とシンクの間に挟まれてしまった。
長政の鼻息が耳元にかかって熱い。
「反応よすぎ」
ぐっとお尻に硬いものが当てられる。
「おまえ……」
耳たぶを甘噛みされ鳥肌が立つ。
「……やめろっ」
また藻掻くと今度は両腕の上から抱きしめられてしまい、顕になった項への執拗な攻撃がはじまる。
長政の唇が耳元から耳裏を舐め項にまたキスをするとその唇で甘噛みを繰り返した。
ビリビリと背筋から脳に電気が走っているような快感がする。
必死に耐えているとついに項を下から上に舐め上げられてしまい、同じように快感が上りつめそうになり思わず声が漏れてしまう。
「ん…………っ」
すると噛みつかれたのかと思うくらい強く吸われて全身がビクリと跳ねた。
「へへ、おにーちゃん、感じた?」
いきなり快感から解放され、シンクの縁に手をついて息を整える。前髪の隙間から余裕そうな長政を睨んだ。
「お前、なにがしたいんだよ……こんなこと」
みっともないくらい足はガクガクしている。
「さぁ」
「さぁって」
「ただ……」
ギシっと小さく床が鳴った。
「この身長差ってキスするのにちょうどいいよね」
「揶揄うのも……っ」いい加減にしろ……
にじり寄ってくるブラウンヘアに僕の言葉は飲み込まれてしまった。強引な唇を離したくとも両頬を鷲掴みにされて逃げられない。
長政の大きな身体を押して、抵抗する。
「んんっ……!」
口端からどちらのものか分からない唾液が溢れてくる。
長政の荒々しく熱い鼻息が僕の頬をかすめたとき、押していた手を止めた。
すると自然と長政の手も緩み、それまでとは違う包み込むような温かさへと温度を変えた。
優しく何度も何度も唇を吸い取られる。
僕が手首に手を添えると長政はようやく唇を離した。
僕はこの隙に目一杯空気を取り込んだ。
擦り合わされるおでこの間で挟まった前髪がザリザリと音を立てる。
「なんて色っぽい顔してんの、……かわい」
あっという間に耳の縁まで血が巡る。
一瞬でもこの男の唇を受け入れてしまった恥ずかしさに、その大きな胸を突き飛ばして部屋に逃げた。
初めてのキス。
父親の再婚相手の息子と。
揶揄われたくない。
その後で余裕な顔をされるのも、
熱を当てつけてくるのも、
その熱に煽られてる自分も。
長政の荒い鼻息が何度も頬をかすめたとき、長政が興奮しているんだと頭が理解したら体は長政を受け入れてしまっていた。
欲に溺れた。
誰とも付き合ったことがなく、童貞の僕にとって刺激が強く立ってるのもやっとだった。手慣れていそうな長政、余裕なのが悔しい……
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