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イギリス編
第二話
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場所を移そうとアダムが提案してタクシーに乗り込む。僕に任せてとアダムは行き先を運転手に告げた。到着したのはいわゆる大衆居酒屋だった。
アダムは外国人観光客が知り得ない居酒屋や小料理屋を自分で探して食べ歩くのが好きで、特に日本の居酒屋文化を気に入っているという。
なんだかイライラしている吾妻と、それを申し訳なく思っているアダムが黙っている。
二人の顔を交互に見てはため息をついて、ここは伊都が話題を振らなければならないと覚悟した。
「あの、三人とも同じ大学に通っていたの?」
「あぁ、そうだよ、僕だけだいぶ年が上だけど吾妻とクリスは同級だ」
アダムが答えてくれた。
「それにアダムとクリストファーは同じイートンカレッジ出身」
そう付け足し吾妻はビールを煽る。
イートンカレッジといえば伊都でも分かる有名寄宿学校だ。カレッジと言っても日本に例えると中学高校にあたる。世界の王室の皇太子が通っていることで有名になっているが、そこをアダムとクリストファーは卒業した。
「確かに僕もイートンカレッジだけれど、クリスのお父上は公爵、貴族だ。王室と並ぶくらいのね。そして、当時イートンソサエティのメンバーにも選ばれている」
「貴族なの? イートンソサイエティ?」
伊都は初めて聞くことばかりでワクワクしながら質問を続ける。
「人柄と頭の良さで選出される優秀な学生のことだよ。もちろん家柄も求められる。過去のソサイエティの中には皇太子や首相もいる」
アダムが丁寧に説明している隣で吾妻はおかわりのビールを煽る。
「彼は上級貴族、一生遊んで暮らせる。きっと末裔もずっとね」
「とにかく別格ってことさ」
クリストファーは本物の紳士ということだった。
「貴族かぁ……そんな人と一緒に学生生活を過ごしていたなんて、なんか映画の中の世界というか、物語みたいだよね」
「伊都くんはロマンチックなんだね」
アダムが微笑む。
栗毛の長身な彼が古城で燕尾服着てたら……
あぁ、とても絵になる。
「それで……パーティーはいつあるんですか?」
「八月だよ。クリスのお母上の誕生日パーティーなんだ」
「伊都、本当に行きたいのか?」
吾妻が頭を抱えている。
「だって、招待状送るって。もしかしてただの社交辞令?」
「まぁ日本からとなるとあまりに遠い。素直に受け止めていいか分からないよね」
「はい」
アダムは本当に穏やかで優しい。
「実は僕も招待されているんだが、ここからは僕の推測に過ぎないんだが、お母上は派手なことで有名なお人で一人でも多くの人を招待したいんだと思う。日本からも駆け付けてくるなんて社交界の会話のひとつになるじゃないか」
話のタネ、と言われてしまうと伊都は落ち込む。
「渡航費だけでも馬鹿にならないですもんね……。本当にただの社交辞令で言ってくれただけかもしれないし……」
旅費だって百万を超えてしまうだろう。本気にしてはいけないのかもしれない。
「それも込みだよ伊都くん」
「え?」
伊都は驚きすぎて言葉が出ない。吾妻を見ればそれが招待ってことだからな、と焼き鳥を器用に前歯でむしる。
「クリスは古城で、と言っていた。あの古城を会場にするってことは今年は特別なのかもしれないな」
古城と聞いて反射的にアダムに振り向く。
「古城……、アダムさんはそこへ行ったことが?」
また一瞬にして伊都を夢の世界へ誘う。
「伊都くん、古城に興味があるのかい?」
「あります、あります! 写真集も持ってます!」
伊都の表情がコロコロ変わることが面白くてつい笑ってしまうアダム。
「僕が日本の城に興味を持ったのと同じ感覚なのかな。なら、この際だ、吾妻と来ればいい」
「アダム」
吾妻が余計なことを言うなと視線を送る。
「……まぁ、えっと、都合が合うなら。吾妻忙しそうだからね」
アダムが軌道修正をするが、もう遅いようだ。
「行ってみたい、吾妻の過ごしたイギリスに」
アダムは外国人観光客が知り得ない居酒屋や小料理屋を自分で探して食べ歩くのが好きで、特に日本の居酒屋文化を気に入っているという。
なんだかイライラしている吾妻と、それを申し訳なく思っているアダムが黙っている。
二人の顔を交互に見てはため息をついて、ここは伊都が話題を振らなければならないと覚悟した。
「あの、三人とも同じ大学に通っていたの?」
「あぁ、そうだよ、僕だけだいぶ年が上だけど吾妻とクリスは同級だ」
アダムが答えてくれた。
「それにアダムとクリストファーは同じイートンカレッジ出身」
そう付け足し吾妻はビールを煽る。
イートンカレッジといえば伊都でも分かる有名寄宿学校だ。カレッジと言っても日本に例えると中学高校にあたる。世界の王室の皇太子が通っていることで有名になっているが、そこをアダムとクリストファーは卒業した。
「確かに僕もイートンカレッジだけれど、クリスのお父上は公爵、貴族だ。王室と並ぶくらいのね。そして、当時イートンソサエティのメンバーにも選ばれている」
「貴族なの? イートンソサイエティ?」
伊都は初めて聞くことばかりでワクワクしながら質問を続ける。
「人柄と頭の良さで選出される優秀な学生のことだよ。もちろん家柄も求められる。過去のソサイエティの中には皇太子や首相もいる」
アダムが丁寧に説明している隣で吾妻はおかわりのビールを煽る。
「彼は上級貴族、一生遊んで暮らせる。きっと末裔もずっとね」
「とにかく別格ってことさ」
クリストファーは本物の紳士ということだった。
「貴族かぁ……そんな人と一緒に学生生活を過ごしていたなんて、なんか映画の中の世界というか、物語みたいだよね」
「伊都くんはロマンチックなんだね」
アダムが微笑む。
栗毛の長身な彼が古城で燕尾服着てたら……
あぁ、とても絵になる。
「それで……パーティーはいつあるんですか?」
「八月だよ。クリスのお母上の誕生日パーティーなんだ」
「伊都、本当に行きたいのか?」
吾妻が頭を抱えている。
「だって、招待状送るって。もしかしてただの社交辞令?」
「まぁ日本からとなるとあまりに遠い。素直に受け止めていいか分からないよね」
「はい」
アダムは本当に穏やかで優しい。
「実は僕も招待されているんだが、ここからは僕の推測に過ぎないんだが、お母上は派手なことで有名なお人で一人でも多くの人を招待したいんだと思う。日本からも駆け付けてくるなんて社交界の会話のひとつになるじゃないか」
話のタネ、と言われてしまうと伊都は落ち込む。
「渡航費だけでも馬鹿にならないですもんね……。本当にただの社交辞令で言ってくれただけかもしれないし……」
旅費だって百万を超えてしまうだろう。本気にしてはいけないのかもしれない。
「それも込みだよ伊都くん」
「え?」
伊都は驚きすぎて言葉が出ない。吾妻を見ればそれが招待ってことだからな、と焼き鳥を器用に前歯でむしる。
「クリスは古城で、と言っていた。あの古城を会場にするってことは今年は特別なのかもしれないな」
古城と聞いて反射的にアダムに振り向く。
「古城……、アダムさんはそこへ行ったことが?」
また一瞬にして伊都を夢の世界へ誘う。
「伊都くん、古城に興味があるのかい?」
「あります、あります! 写真集も持ってます!」
伊都の表情がコロコロ変わることが面白くてつい笑ってしまうアダム。
「僕が日本の城に興味を持ったのと同じ感覚なのかな。なら、この際だ、吾妻と来ればいい」
「アダム」
吾妻が余計なことを言うなと視線を送る。
「……まぁ、えっと、都合が合うなら。吾妻忙しそうだからね」
アダムが軌道修正をするが、もう遅いようだ。
「行ってみたい、吾妻の過ごしたイギリスに」
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