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愛のかたち
第十四話
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十二月下旬。
期末試験も終わり冬休みに入り、街はにぎやかにクリスマスに浮き足立つ。
吾妻は院生たちと飲み会があるという。
伊都の部屋にデリバリーが届いたとコンシェルジュから連絡が来る。この三年クリスマスの恒例になっている。
中身はクリスマス仕様になっており小さなケーキもついていた。伊都の毎年の楽しみはクリームシチューだ。
伊都の部屋には特別な飾りはない。唯一のクリスマス気分を醸し出す料理をひとり味気ない部屋で食べる。
クリスマス時期に両親が家に居たことはなく良い思い出はない、そのせいかクリスマスだからと言って特別なことはしたくなくなった。ただ寂しいだけだったから。
玄関には宅配便の段ボールが積み上がっている。ひとつは母親からのクリスマスプレゼントだと分かっているが開ける気にはなっていない。
今年も部屋で静かに過ごすだけだ。
……なのに吾妻が居ないことに寂しさを覚えている自分に腹が立つ。
電話が鳴る。画面には吾妻の名前が表示されている。
今年はその静寂が破られた。
「どうしたの? 飲み会は?」
『つまんないから出てきた。伊都はなにしてる?』
「なにって夕ごはん食べてる」
『家で?』
「うん」
『じゃそっち行く』
コンビニのビニール袋を携えてマンションへやってくる吾妻
「飲み会がつまらなすぎた」
玄関にあった段ボールを当たり前のように抱えてリビングに入って来た。リビングに入るなり立ち止まる。
「クリスマスなのに殺風景だな」
リビングの隅に段ボールを置いた。
「飲み会、まじで無理だ。なんで女の子と交互に座る必要がある? 俺は忘年会って聞いてたんだけど」
あぁ……。飲み会ではなく合コンに誘われたのか。
リビングのローテーブルに大皿を出して吾妻が買ってきたお菓子をザラザラっと開けると、吾妻はソファに座らず床にドカリと座った。
「ちゃんと伊都とクリスマス過ごしたかったのに」
「クリスマスなんて誰と過ごしても同じだろ」
「違うさ!」
「一般論ではそういうのは恋人とか家族と過ごすだろうけど」
「俺は伊都と過ごしたかったんだ、なんで飲み会に行かせたんだよ」
摘んだポテチを落とす伊都。
確かにクリスマスに飲み会があるけど行きたくないとボヤかれたから、顔だけでも出しておかないとと言っただけだが…
「伊都は?」
「ん?」
「特別に過ごしたい人いるのか?」
「そんな人いないよ……。さっきも言ったけどクリスマスがどうでもいいんだ」
「伊都……」
「ただのイベントだろ?」
「伊都……あのさ」
吾妻が何か言いかけるが伊都はそれを無視しキッチンへ向かい小さな箱を持ってきた。
「吾妻、小さいけど半分こな?」
「なに?」
箱の中には小さなケーキが入っていた。
「メリークリスマス、吾妻」
「それは言うのな」
「そりゃ……吾妻が来てくれたからな」
「……え?」
「ん?」
吾妻は分けられたケーキにフォークを入れながらなかなか食べようとしない。
「甘いの嫌いだっけ? 口に合わないか?」
吾妻は不思議そうな顔をしている伊都をしばらく見つめていたが、やがていつもの片眉をあげて「おいしいよ」と伊都の髪をくしゃりとした。
伊都は吾妻が運んできてくれた段ボールをひとつ持ってきた。
「お母さんから? プレゼントか?」
「うん、たしかマフラーだと思う」
段ボールを開けて包装を広げるとやはりマフラーが入っていた。
「キャメルか、伊都に似合う色だね」
「そう?」
「キャメルは肌の白い伊都みたいな美しい人に似合う色だからね」
「やめてよ」
「俺は正直に言ってるだけだよ」
片眉をあげて揶揄うように笑う。
「俺もクリスマスプレゼントあるんだ」
「え! 僕に?」
「じゃーーん」
「あ! 先月発売したやつじゃん!」
ゲームの新作ソフトだった。
「やろ! やろ! 今やる?」
「おう」
クリスマスを特別という吾妻が伊都と過ごしたいと言う。
伊都に気遣ってのことなのか。
クリスマスなんていらない
特別な日なんていらない
その時だけ会ってくれるより
詰まらなくてもいい 毎日会いたい
期末試験も終わり冬休みに入り、街はにぎやかにクリスマスに浮き足立つ。
吾妻は院生たちと飲み会があるという。
伊都の部屋にデリバリーが届いたとコンシェルジュから連絡が来る。この三年クリスマスの恒例になっている。
中身はクリスマス仕様になっており小さなケーキもついていた。伊都の毎年の楽しみはクリームシチューだ。
伊都の部屋には特別な飾りはない。唯一のクリスマス気分を醸し出す料理をひとり味気ない部屋で食べる。
クリスマス時期に両親が家に居たことはなく良い思い出はない、そのせいかクリスマスだからと言って特別なことはしたくなくなった。ただ寂しいだけだったから。
玄関には宅配便の段ボールが積み上がっている。ひとつは母親からのクリスマスプレゼントだと分かっているが開ける気にはなっていない。
今年も部屋で静かに過ごすだけだ。
……なのに吾妻が居ないことに寂しさを覚えている自分に腹が立つ。
電話が鳴る。画面には吾妻の名前が表示されている。
今年はその静寂が破られた。
「どうしたの? 飲み会は?」
『つまんないから出てきた。伊都はなにしてる?』
「なにって夕ごはん食べてる」
『家で?』
「うん」
『じゃそっち行く』
コンビニのビニール袋を携えてマンションへやってくる吾妻
「飲み会がつまらなすぎた」
玄関にあった段ボールを当たり前のように抱えてリビングに入って来た。リビングに入るなり立ち止まる。
「クリスマスなのに殺風景だな」
リビングの隅に段ボールを置いた。
「飲み会、まじで無理だ。なんで女の子と交互に座る必要がある? 俺は忘年会って聞いてたんだけど」
あぁ……。飲み会ではなく合コンに誘われたのか。
リビングのローテーブルに大皿を出して吾妻が買ってきたお菓子をザラザラっと開けると、吾妻はソファに座らず床にドカリと座った。
「ちゃんと伊都とクリスマス過ごしたかったのに」
「クリスマスなんて誰と過ごしても同じだろ」
「違うさ!」
「一般論ではそういうのは恋人とか家族と過ごすだろうけど」
「俺は伊都と過ごしたかったんだ、なんで飲み会に行かせたんだよ」
摘んだポテチを落とす伊都。
確かにクリスマスに飲み会があるけど行きたくないとボヤかれたから、顔だけでも出しておかないとと言っただけだが…
「伊都は?」
「ん?」
「特別に過ごしたい人いるのか?」
「そんな人いないよ……。さっきも言ったけどクリスマスがどうでもいいんだ」
「伊都……」
「ただのイベントだろ?」
「伊都……あのさ」
吾妻が何か言いかけるが伊都はそれを無視しキッチンへ向かい小さな箱を持ってきた。
「吾妻、小さいけど半分こな?」
「なに?」
箱の中には小さなケーキが入っていた。
「メリークリスマス、吾妻」
「それは言うのな」
「そりゃ……吾妻が来てくれたからな」
「……え?」
「ん?」
吾妻は分けられたケーキにフォークを入れながらなかなか食べようとしない。
「甘いの嫌いだっけ? 口に合わないか?」
吾妻は不思議そうな顔をしている伊都をしばらく見つめていたが、やがていつもの片眉をあげて「おいしいよ」と伊都の髪をくしゃりとした。
伊都は吾妻が運んできてくれた段ボールをひとつ持ってきた。
「お母さんから? プレゼントか?」
「うん、たしかマフラーだと思う」
段ボールを開けて包装を広げるとやはりマフラーが入っていた。
「キャメルか、伊都に似合う色だね」
「そう?」
「キャメルは肌の白い伊都みたいな美しい人に似合う色だからね」
「やめてよ」
「俺は正直に言ってるだけだよ」
片眉をあげて揶揄うように笑う。
「俺もクリスマスプレゼントあるんだ」
「え! 僕に?」
「じゃーーん」
「あ! 先月発売したやつじゃん!」
ゲームの新作ソフトだった。
「やろ! やろ! 今やる?」
「おう」
クリスマスを特別という吾妻が伊都と過ごしたいと言う。
伊都に気遣ってのことなのか。
クリスマスなんていらない
特別な日なんていらない
その時だけ会ってくれるより
詰まらなくてもいい 毎日会いたい
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