Maybe Love

Gemini

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再会

第四話

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 靴を脱ぐなり伊都は玄関でへたり込んだ。

 本が腕からバサバサと落ち、リュックも肩から落ちている。


 声をかけられたとき吾妻だと気づかなかった。それだけ吾妻に会うことは偶然じゃあり得ないと思ってるってことだ。

 遠い、遠い、海を超えた国に居るって。


 正直、会いたくなかった。

 黙って引っ越して行ったこと、十年連絡も寄越さなかったこと。伊都は伊都なりに理解しようとしていた。どんな理由だったら許せるだろう、と。
 けれど伊都には何も言わないで行ってしまったことの正当な理由が浮かばなかった。


 行き着く先は『吾妻に嫌われたんだ』と納得すること。


 その後で吾妻のような、またはそれ以上の友達が出来ていたら、想いも変わっていたのかもしれない。

 今も昔も吾妻しかいない。

 だからこそ、簡単に吾妻に会いたくない。




 伊都はふと気づく。

「明日、待ち伏せされてたらどうしよう」

 バス通学はしばらく止めよう。

 でも、さっきかなり冷たくしたし来ないかもしれない。

「はぁ……明日大学休もうかな……」

 伊都は玄関で項垂れた。




 リュックの中でスマホが振動している。取り出すと母親からだった。

『伊都? 学校はもう終わってる?』
「……うん、もう家だよ」
『そう、夕飯は食べた? 土屋さんのところ行った?』
「あ……今日は行ってない、でもちゃんと食べてるから」
『そう』

 伊都の母親はリゾートホテルのオーナー。世界の有名リゾート地には必ずあるほどの世界的ホテル王だ。
 一年の大半は海外におり、たまにこうやって電話がくる。

 独り暮らしの伊都は夕飯は土屋さんのところで食事を摂るようにしている。母親の友人の土屋さんはオーガニック素材を使用したレストランを営んでいて、伊都の母親が気に入っているからだ。

 ここでの食事代は母親へ請求されることになっていて伊都にとっては負担がなく、土屋さんを経由して伊都の近況もしれて母親にとっても最善策だった。

 そしてこのようなシステムになっている店が他にもある。伊都は自身で自炊することもなく、買い物の支払いもしない、箱入り息子なのだ。


「お風呂入るから、またね、切るよ?」
『愛してるわ、伊都』
「僕もだよ」


 どうやら吾妻の帰国は母親の耳に入ってないらしい。知っていればおそらくすぐに連絡してきたに違いない。ということは一時帰国なのだろうか。

 電話を切ると重い腰を上げようやくリビングにやってくると荷物を床に置いた。そしてそのままバスルームに向かった。




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