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初めての旅行
第八十一話
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バスルームを出ると須賀はテラスに続く窓のそばに立って外を眺めていた。手をパンツのポケットに差し込んでいて、それはそれは絵になる男だった。ベージュのハーフパンツに白の半袖シャツを羽織っていて、すらりとした手足が顕になっていた。いつも三揃えのスーツばかりだからリラックスした格好は貴重だ。
それに周りにはスマホもラップトップもない。俺に気を遣ってくれて仕事を済ませるだなんて言ったんだとなんとなく思えた。
未だバスローブなのが恥ずかしくなりベッドルームへ急ぐ。クロゼットを開けて予め着る予定だったものを引っ張りだすが、短パンと、タンクトップだ。
──これじゃ、隠せない……。
すると後ろからふわっと肩に何かが掛けられた。須賀のビターな香りが漂う。
「これ、着ていいよ」
須賀が長袖シャツを羽織らせてくれた。
「あ、……りがとうございます」
「キスマークは周りへの牽制もあるが、正直見せたくない」
ぼそりとそう呟いて、バツの悪そうな顔をした。可愛くてどうしよう。そんな須賀に俺は抱きついてその胸に頬を寄せる。
「元親さん、好き、ふふ」
「揶揄うなよ」
恥ずかしいのか俺の身体をぎゅっと抱きしめてから身体を離し、さあ出かけようと俺の手を握った。
本館の一階にあるブティックで水着を購入し、プライベートビーチへ向かう。等間隔にパラソルとチェアが備え付けられていた。
「あまり人が居ないな」
「少ないですね、貸し切りみたい」
パラソルの下に着くと須賀がサングラスを外して胸元に掛けてあたりを見回した。このホテルの宿泊者しか使用できない上に部屋数は二十室に満たない。人は疎らだった。
仕事の撮影で行ったビーチも綺麗だったけれど、やはり離島は格別で真っ白な美しい砂浜を保っている。
「米軍から返還された土地だから海が綺麗だな」
須賀がチェアに座るとそんなことを言った。
「米軍が所有しているやんばるなんか、自然そのもので豊かだそうだ、人が立ち入れないから破壊もない」
「元親さんは、環境問題にも詳しいのか……」
「悪い、つい。こんな話は詰まらんな。さぁ雪、行こうか」
「はいっ」
須賀がシャツを脱いで水着だけになる。その後ろ姿を見て俺はぎょっとした。
「も、元親さん! だめっ」
「ん?」
「シャツ着てください……っ」
さっき更衣室では水着だけ着替えただけだったから背中に気が付かなかった。というか昨晩も一緒に風呂に入ったにも関わらず気付なかった。
──意外と背中は見ないものなんだな、なんて言ってる場合じゃない!
須賀の背中に昨晩俺が付けたであろう引っかき傷があるのだ。須賀は不思議そうに俺を振り返ったが、それ以上言葉が出ない俺の手を引いて波打ち際へと歩いていく。
「明日は天気が悪くなるらしい」
などと世間話をしながらどんどん海に入ってもうすっかり水面が腰辺り。俺はそれどころではなくなってる。
「どうした?」
「元親さんの、せなか……」
「あぁ、雪の痕、かっこいいだろう?」
「は……?」
「Ωを愛したαの勲章みたいなもんだ」
「い、意味わかんないし!はずい……隠して──っ」
須賀の後ろに張り付いて自分の付けてしまった傷を自身の身で隠そうとする。
「……ったく、なにしてるんだ?」と須賀の笑い声が聞こえてから俺はその大きな背中に担がれてしまった。
「これならいいか?……おぃ、暴れるなっ」
「おろしてっもう、恥ずかしいよぉ」
「どっちが恥ずかしいんだ?……ったく」
須賀に軽々とおんぶされ背中を叩いて反抗していたが、須賀がもっと笑うから、その笑い声がとっても優しくて、そんなふうに眉を下げて大きな口開けるんだって気づいたら……嬉しくなって須賀の首に手を回した。
「元親さん……ごめんなさい、痛かった?……ですよね」
「痛くないさ、雪がしがみついてくれるのが嬉しいんだよ」
「……でも、傷跡残ったら……」
「こんなの残らない、傷のうちにも入らない。……じゃあ次は雪の手を縛ってやろうかな?」
「えっ」
そう言って首に回されている俺の手首を噛んだ。須賀の犬歯が軽く肌を押す。
「──……っ」
喉の奥でくくっと笑ったのを感じた。
それに周りにはスマホもラップトップもない。俺に気を遣ってくれて仕事を済ませるだなんて言ったんだとなんとなく思えた。
未だバスローブなのが恥ずかしくなりベッドルームへ急ぐ。クロゼットを開けて予め着る予定だったものを引っ張りだすが、短パンと、タンクトップだ。
──これじゃ、隠せない……。
すると後ろからふわっと肩に何かが掛けられた。須賀のビターな香りが漂う。
「これ、着ていいよ」
須賀が長袖シャツを羽織らせてくれた。
「あ、……りがとうございます」
「キスマークは周りへの牽制もあるが、正直見せたくない」
ぼそりとそう呟いて、バツの悪そうな顔をした。可愛くてどうしよう。そんな須賀に俺は抱きついてその胸に頬を寄せる。
「元親さん、好き、ふふ」
「揶揄うなよ」
恥ずかしいのか俺の身体をぎゅっと抱きしめてから身体を離し、さあ出かけようと俺の手を握った。
本館の一階にあるブティックで水着を購入し、プライベートビーチへ向かう。等間隔にパラソルとチェアが備え付けられていた。
「あまり人が居ないな」
「少ないですね、貸し切りみたい」
パラソルの下に着くと須賀がサングラスを外して胸元に掛けてあたりを見回した。このホテルの宿泊者しか使用できない上に部屋数は二十室に満たない。人は疎らだった。
仕事の撮影で行ったビーチも綺麗だったけれど、やはり離島は格別で真っ白な美しい砂浜を保っている。
「米軍から返還された土地だから海が綺麗だな」
須賀がチェアに座るとそんなことを言った。
「米軍が所有しているやんばるなんか、自然そのもので豊かだそうだ、人が立ち入れないから破壊もない」
「元親さんは、環境問題にも詳しいのか……」
「悪い、つい。こんな話は詰まらんな。さぁ雪、行こうか」
「はいっ」
須賀がシャツを脱いで水着だけになる。その後ろ姿を見て俺はぎょっとした。
「も、元親さん! だめっ」
「ん?」
「シャツ着てください……っ」
さっき更衣室では水着だけ着替えただけだったから背中に気が付かなかった。というか昨晩も一緒に風呂に入ったにも関わらず気付なかった。
──意外と背中は見ないものなんだな、なんて言ってる場合じゃない!
須賀の背中に昨晩俺が付けたであろう引っかき傷があるのだ。須賀は不思議そうに俺を振り返ったが、それ以上言葉が出ない俺の手を引いて波打ち際へと歩いていく。
「明日は天気が悪くなるらしい」
などと世間話をしながらどんどん海に入ってもうすっかり水面が腰辺り。俺はそれどころではなくなってる。
「どうした?」
「元親さんの、せなか……」
「あぁ、雪の痕、かっこいいだろう?」
「は……?」
「Ωを愛したαの勲章みたいなもんだ」
「い、意味わかんないし!はずい……隠して──っ」
須賀の後ろに張り付いて自分の付けてしまった傷を自身の身で隠そうとする。
「……ったく、なにしてるんだ?」と須賀の笑い声が聞こえてから俺はその大きな背中に担がれてしまった。
「これならいいか?……おぃ、暴れるなっ」
「おろしてっもう、恥ずかしいよぉ」
「どっちが恥ずかしいんだ?……ったく」
須賀に軽々とおんぶされ背中を叩いて反抗していたが、須賀がもっと笑うから、その笑い声がとっても優しくて、そんなふうに眉を下げて大きな口開けるんだって気づいたら……嬉しくなって須賀の首に手を回した。
「元親さん……ごめんなさい、痛かった?……ですよね」
「痛くないさ、雪がしがみついてくれるのが嬉しいんだよ」
「……でも、傷跡残ったら……」
「こんなの残らない、傷のうちにも入らない。……じゃあ次は雪の手を縛ってやろうかな?」
「えっ」
そう言って首に回されている俺の手首を噛んだ。須賀の犬歯が軽く肌を押す。
「──……っ」
喉の奥でくくっと笑ったのを感じた。
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初めて挑戦しましたオメガバース作品です。この世界にもαとΩが居たらどんな世界なのだろうと思って書きはじめました。『Maybe Love』の九条吾妻くんと、そのお父さんが友情出演致しました。須賀の幼馴染の堤の恋の話最後の恋煩いもあります。合わせてお楽しみください。
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