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初めての旅行
第七十九話
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ふと意識が浮上して身体が重い。
まだぼんやりとしながらあたりの気配を探ると、須賀の逞しい腕が俺の上に乗っかっている。後ろから抱き締められていた。
須賀は寝ているのだろうか、そぉっと腕を撫でてみるが反応はない。起きればいつも仕事をしていて、寝ている須賀は見たことがなかった。
──これは貴重なのでは?
出来たら寝顔が見たい、後ろを向きたい。しかし須賀の腕が重すぎて全然持ち上がらない。同じ男なのにαといえばこうもサイズが違うのか。すぐに諦めてため息をついた。今は素肌同士がくっついていて須賀の体温が高くって気持ちいい、このままでいたい気もする。
ベッドサイドにある明かりだけを残して部屋は真っ暗で、もう夜だった。プールに入ってたのは昼過ぎで……。何時間須賀と抱き合っていたのだろうか。
──いま、何時なんだろう。
時計もないし、スマホも近くにない。とにかくまだ瞼が落ちる、眠ってしまいたい。
「……まだ寝てろ」
後ろから突如声がして、そして力強く抱き寄せられた。
「須賀さん」
「いいから。まだ一時間くらいしか寝てないんだから」
「あの、」
「……ん?」
「そっち、向きたい……です」
須賀の腕が緩んでようやく後ろに寝返ることが出来て須賀の顔が見れた。寝起きとは思えない美しい顔に本当に寝てたのか疑問が浮かぶ。でもさっき腕を撫でても動かなかったのは寝てた証拠だと思うし、内緒にしとこう。なんとなくそう思った。
「……どうした?」
「いえ」
どうしてもニヤけてしまう頬を両手で抑えて緩みを支える。
「身体は痛くないか?」
須賀が腰に手を掛ける。一瞬でさっきの須賀が蘇るから嫌だ。それに痛くなんかない。
──激しかったけど、乱暴にはされなかったし、ずっと優しかった……と思う。
須賀は微笑してそんな俺の尻臀を軟々と揉んだ。
「……!」
「……かわいいな」
そう言って額に口付けると須賀の手が背中に移動し優しく撫でてくれる。
──かわいくなんか……
でも須賀にそう言われると嬉しくて仕方なくて。
「さぁ、もうちょっと寝よう」
「あ……須賀さん……あの、」
改めて聞くには真剣な話でもないし、こんな時が良いのかもしれない。ずっと気になっていることを切り出した。
「あの……名前……で……」
「名前?」
「いつまでも須賀さんって呼ぶの、どうなのかなって思……」
背中を撫でていた須賀の手が止まった。
──駄目だったか、そうだよな、俺みたいな下の人間から名前で呼ばれるとか無理だよな。
「それは……」
須賀は静止したまま考えているよう。
「雪が、私を名前で呼ぶということ、で合ってるか?」
「はいっ!……あっ、でも、須賀さんが不快なら俺は──」
「そんなことは言ってない」
「……はい」
はっきりと、低い声で言われてどうしたらいいか、困った。こんな話題しなければよかったとも後悔しはじめる。
「……呼んでみてくれ」
「……?」
須賀をおずおずと見れば須賀の頬が少しピンクに染まってた。
──もしかして、恥ずかしがってる?
「も……」
「……」
「元親さん……」
「ぉ……おう……」
須賀は気まずそうに視線を逸した。
「照れてます?」
「……」
──こっちまで照れるんだけど……! なんてかわいいの。
「あだ名がいいですかね? えっと……モトさん、チカさん? 難しいなぁ……」
「あぁっ!……もう」
「え?!」
「寝かせてやろうと思ったけど、……責任取ってくれ」
「な──────……っ」
キスで言葉が吸い込まれた。
まだぼんやりとしながらあたりの気配を探ると、須賀の逞しい腕が俺の上に乗っかっている。後ろから抱き締められていた。
須賀は寝ているのだろうか、そぉっと腕を撫でてみるが反応はない。起きればいつも仕事をしていて、寝ている須賀は見たことがなかった。
──これは貴重なのでは?
出来たら寝顔が見たい、後ろを向きたい。しかし須賀の腕が重すぎて全然持ち上がらない。同じ男なのにαといえばこうもサイズが違うのか。すぐに諦めてため息をついた。今は素肌同士がくっついていて須賀の体温が高くって気持ちいい、このままでいたい気もする。
ベッドサイドにある明かりだけを残して部屋は真っ暗で、もう夜だった。プールに入ってたのは昼過ぎで……。何時間須賀と抱き合っていたのだろうか。
──いま、何時なんだろう。
時計もないし、スマホも近くにない。とにかくまだ瞼が落ちる、眠ってしまいたい。
「……まだ寝てろ」
後ろから突如声がして、そして力強く抱き寄せられた。
「須賀さん」
「いいから。まだ一時間くらいしか寝てないんだから」
「あの、」
「……ん?」
「そっち、向きたい……です」
須賀の腕が緩んでようやく後ろに寝返ることが出来て須賀の顔が見れた。寝起きとは思えない美しい顔に本当に寝てたのか疑問が浮かぶ。でもさっき腕を撫でても動かなかったのは寝てた証拠だと思うし、内緒にしとこう。なんとなくそう思った。
「……どうした?」
「いえ」
どうしてもニヤけてしまう頬を両手で抑えて緩みを支える。
「身体は痛くないか?」
須賀が腰に手を掛ける。一瞬でさっきの須賀が蘇るから嫌だ。それに痛くなんかない。
──激しかったけど、乱暴にはされなかったし、ずっと優しかった……と思う。
須賀は微笑してそんな俺の尻臀を軟々と揉んだ。
「……!」
「……かわいいな」
そう言って額に口付けると須賀の手が背中に移動し優しく撫でてくれる。
──かわいくなんか……
でも須賀にそう言われると嬉しくて仕方なくて。
「さぁ、もうちょっと寝よう」
「あ……須賀さん……あの、」
改めて聞くには真剣な話でもないし、こんな時が良いのかもしれない。ずっと気になっていることを切り出した。
「あの……名前……で……」
「名前?」
「いつまでも須賀さんって呼ぶの、どうなのかなって思……」
背中を撫でていた須賀の手が止まった。
──駄目だったか、そうだよな、俺みたいな下の人間から名前で呼ばれるとか無理だよな。
「それは……」
須賀は静止したまま考えているよう。
「雪が、私を名前で呼ぶということ、で合ってるか?」
「はいっ!……あっ、でも、須賀さんが不快なら俺は──」
「そんなことは言ってない」
「……はい」
はっきりと、低い声で言われてどうしたらいいか、困った。こんな話題しなければよかったとも後悔しはじめる。
「……呼んでみてくれ」
「……?」
須賀をおずおずと見れば須賀の頬が少しピンクに染まってた。
──もしかして、恥ずかしがってる?
「も……」
「……」
「元親さん……」
「ぉ……おう……」
須賀は気まずそうに視線を逸した。
「照れてます?」
「……」
──こっちまで照れるんだけど……! なんてかわいいの。
「あだ名がいいですかね? えっと……モトさん、チカさん? 難しいなぁ……」
「あぁっ!……もう」
「え?!」
「寝かせてやろうと思ったけど、……責任取ってくれ」
「な──────……っ」
キスで言葉が吸い込まれた。
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初めて挑戦しましたオメガバース作品です。この世界にもαとΩが居たらどんな世界なのだろうと思って書きはじめました。『Maybe Love』の九条吾妻くんと、そのお父さんが友情出演致しました。須賀の幼馴染の堤の恋の話最後の恋煩いもあります。合わせてお楽しみください。
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