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初めての旅行
第七十ニ話
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「そう言えば須賀社長、明日午前中だけで長谷川くんは終わりにできそうですよ」
食事を終えた食器を端に寄せてから波野はスケジュール帳を開いた。
「ブツ撮りは午後にやります」
「順調だったんだな」
「えぇ、ほんとに長谷川くんがモデルだと仕事が捗って仕方ないです、みんなのやる気もどこか違ってて」
「……、だそうだよ、雪?」
雪はウトウトと私に段々と寄りかかり始めていた。それをそのままにさせていると、ついに私の腕に雪の腕が絡まって擦り寄ってきた。
「少しだけ……」と私にだけ聞こえるような小さい声でそう言ってすぐに眠りに落ちた。
「あら……寝ちゃった」
「子供みたいだ」
「ずっと緊張して気を張ってたんですね、須賀社長に甘えちゃってかわいい」
波野がそう言うと周りのスタッフたちも雪の寝顔を見守るように眺め始める。
「眠っていると本当に天使みたい」
「決して女の子っぽいとかじゃないのにね、不思議な魅力」
「かっこいいしかわいいって最強」
「こっからが本当に大変だね、波野さん」
ひとりのスタッフが笑った。これからが大変とはどういうことだ。
「そうだよねぇ、どれもボツにはしたくないから、厳選するのに時間かかりそう。もうデータもいつもの三倍はあるもん」
「すいません、ノッちゃって」
波野の嘆きにカメラマンらしきスタッフが頭をポリポリと掻いた。
スタッフたちがぽつりぽつりと店を出ていく中で、雪は相変わらずスヤスヤとかわいい寝顔を無防備に見せている。その頬を撫でると波野が笑ったような気がして振り向くとやはり波野は私を見て微笑んでいた。
「明日から独り占めできますね」
「波野。……言うようになったな」
「社長がもう隠さないからですよ」
ふふっと笑って頬杖をついて雪の寝顔に目を細めた。
「いっぱい褒めてあげてくださいね」
「言われなくとも」
「そうでした」
いたずらっぽい笑みを浮かべて波野は先に行きますと言って席を立った。
「佐伯」
「なんでしょう」
雪と別れたあとホテルの部屋に戻ると佐伯が書斎机の上に書類を並べている。
「明日から三日休む」
「かしこまりました」
すんなり了解されて拍子抜けした。佐伯をチラリと見上げるが佐伯はすましたいつもの表情でタブレットを眺めている。
「お前は、先に東京に帰るか?」
「もちろんでございます。社長は長谷川様とごゆるりとお休みになってください、この数カ月お休みになられていないのですから」
「リモートは重要なものだけ、あとはテキストでやり取りする、最低限仕事はするから」
「まさか、働かれるおつもりで?」
ついに佐伯が私を見た。
「まさか丸三日、仕事から離れるつもりはない。量を減らすだけだ」
「……まったく、長谷川様もがっかりなさるのでは?」
「雪が寝ている合間にやるから大丈夫だ。佐伯、お前も少し休め」
呆れた様子で佐伯は天を仰ぐ。それから、諦めたのか少し間をおいて私を見つめた。
「それはご命令でしょうか? 私は社長のサポートに徹しますよ。というより長谷川様のためというほうが的確でしょうか」
「参ったな」
「それで、どちらかへ発たれるので?」
話題をころっと変えて、それに合わせてにっこりと表情も変えた佐伯はタブレットに何か打ち込んでいる。なにか調べているようだ。
「島へでも行こうかと思っているんだが」
「では小浜島などいかかです? 宿泊できるか確認して参りましょう」
「お前がブッキングしてくれるのか?」
「おまかせください」
佐伯が嬉しそうにお辞儀をして部屋から去った。
食事を終えた食器を端に寄せてから波野はスケジュール帳を開いた。
「ブツ撮りは午後にやります」
「順調だったんだな」
「えぇ、ほんとに長谷川くんがモデルだと仕事が捗って仕方ないです、みんなのやる気もどこか違ってて」
「……、だそうだよ、雪?」
雪はウトウトと私に段々と寄りかかり始めていた。それをそのままにさせていると、ついに私の腕に雪の腕が絡まって擦り寄ってきた。
「少しだけ……」と私にだけ聞こえるような小さい声でそう言ってすぐに眠りに落ちた。
「あら……寝ちゃった」
「子供みたいだ」
「ずっと緊張して気を張ってたんですね、須賀社長に甘えちゃってかわいい」
波野がそう言うと周りのスタッフたちも雪の寝顔を見守るように眺め始める。
「眠っていると本当に天使みたい」
「決して女の子っぽいとかじゃないのにね、不思議な魅力」
「かっこいいしかわいいって最強」
「こっからが本当に大変だね、波野さん」
ひとりのスタッフが笑った。これからが大変とはどういうことだ。
「そうだよねぇ、どれもボツにはしたくないから、厳選するのに時間かかりそう。もうデータもいつもの三倍はあるもん」
「すいません、ノッちゃって」
波野の嘆きにカメラマンらしきスタッフが頭をポリポリと掻いた。
スタッフたちがぽつりぽつりと店を出ていく中で、雪は相変わらずスヤスヤとかわいい寝顔を無防備に見せている。その頬を撫でると波野が笑ったような気がして振り向くとやはり波野は私を見て微笑んでいた。
「明日から独り占めできますね」
「波野。……言うようになったな」
「社長がもう隠さないからですよ」
ふふっと笑って頬杖をついて雪の寝顔に目を細めた。
「いっぱい褒めてあげてくださいね」
「言われなくとも」
「そうでした」
いたずらっぽい笑みを浮かべて波野は先に行きますと言って席を立った。
「佐伯」
「なんでしょう」
雪と別れたあとホテルの部屋に戻ると佐伯が書斎机の上に書類を並べている。
「明日から三日休む」
「かしこまりました」
すんなり了解されて拍子抜けした。佐伯をチラリと見上げるが佐伯はすましたいつもの表情でタブレットを眺めている。
「お前は、先に東京に帰るか?」
「もちろんでございます。社長は長谷川様とごゆるりとお休みになってください、この数カ月お休みになられていないのですから」
「リモートは重要なものだけ、あとはテキストでやり取りする、最低限仕事はするから」
「まさか、働かれるおつもりで?」
ついに佐伯が私を見た。
「まさか丸三日、仕事から離れるつもりはない。量を減らすだけだ」
「……まったく、長谷川様もがっかりなさるのでは?」
「雪が寝ている合間にやるから大丈夫だ。佐伯、お前も少し休め」
呆れた様子で佐伯は天を仰ぐ。それから、諦めたのか少し間をおいて私を見つめた。
「それはご命令でしょうか? 私は社長のサポートに徹しますよ。というより長谷川様のためというほうが的確でしょうか」
「参ったな」
「それで、どちらかへ発たれるので?」
話題をころっと変えて、それに合わせてにっこりと表情も変えた佐伯はタブレットに何か打ち込んでいる。なにか調べているようだ。
「島へでも行こうかと思っているんだが」
「では小浜島などいかかです? 宿泊できるか確認して参りましょう」
「お前がブッキングしてくれるのか?」
「おまかせください」
佐伯が嬉しそうにお辞儀をして部屋から去った。
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初めて挑戦しましたオメガバース作品です。この世界にもαとΩが居たらどんな世界なのだろうと思って書きはじめました。『Maybe Love』の九条吾妻くんと、そのお父さんが友情出演致しました。須賀の幼馴染の堤の恋の話最後の恋煩いもあります。合わせてお楽しみください。
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