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休息
第七十話
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「雪……、それをどうする気だ? ん?」
「ほしい……」
目がとろんとしていつもの雪ではないように見える。本当に素直にΩの欲情を私に見せてくる。
「嬉しいことを言ってくれるな……、雪……愛してるよ。だが、ボディーソープが混じってるものは雪の口に入れさせたくないな」
そうさせてしまったのは私なのか、そう自惚れた気持ちを抱きながら身体と共に手もシャワーで洗い流した。
「あ……っ」
雪は洗い流されるそれをまるで勿体無いかのように呟いて、上目遣いに私を見る。
「なんで、俺には飲ませてくれないんです……」
雪は怒っているのか、その薬がないと生きられないとでも言うようなすがり方に困惑した。私も雪の味は蜜のようで中毒になりそうなほど高まる。……だが、雪にもそれが当てはまるとは限らない。決して美味いものではない。
瞳を潤ませて私を睨むのが精一杯のようで、やがて私の胸に頬を寄せてきた。
「須賀さん……いじわる……っ」
「ははっ、かわいい……、今夜は積極的だ」
顔を横に振るだけで雪の体重が少し重くなる。
「……雪……、?」
頬を掴みこちらに向かせると雪の顔は赤く目は虚ろ。逆上せているのだろうか。手早く泡を流し、新たなバスローブを掛けると抱き上げバルコニーへと連れ出した。
ウッドチェアに腰掛け雪を膝の上に抱く。雪は胸にしなだれかかっている。
──味見だと言ったくせに、雪が逆上せていることにも気が付かないとは……。
「雪……すまなかった」
額にキスをすると少し冷たい。夜風に少し冷やされたようだ。そのまままた立ち上がり今度はベッドへ優しくおろす。冷蔵庫から冷えたミネラルウォーターを取り出しベッドへ戻ると、雪は寝転がっていて起き上がれそうになかった。
「雪、口を開けて」
もう意識は半分ない、今にも眠りそうな雪の小さな唇にそれを口移しで与えるとゴクリと喉が鳴った。そして雪はごろんとひとつ寝返り背中を向ける。
バスローブの隙間から覗く白い脚を手のひらで撫でると、わずかにぴくりと震えた。
──私のものを飲みたいなどと……。随分と煽られてしまったな。
キスにも私からの愛撫にも慣れてきたのは喜ばしいことだが、辿々しさにも愛おしさがたくさんあることを雪は知らないんだろう。
雪のペースで私を乱してくれればそれで十分なのに。
美しく開花する雪を見るにつけ、最近私を戸惑わせるのだ。
雪の寝顔を見届けて書斎机で途中の仕事を広げる。すると部屋のインターホンが鳴った。佐伯かと扉を開けると波野が立っていた。
「お疲れ様です、あの、長谷川くんは?」
「お疲れ様、さっき寝たところだよ」
「みんなとの夕食にやってこないから電話したんですが応答が無くって……」
「疲れさせてしまったようで」
「え? あ、すいません!」
「いや、私のせいだよ、入ってくれ」
「……はい。じゃあ少しだけ」
少し戸惑いながらも促すと波野は部屋に入ってきた。家具で仕切られたベッドルームに雪がいることをチラリと確認してソファに座る。
「今日の撮影で岬の方へ行ったんですよ、強い風に当たりすぎて疲れたのかもしれませんね……それに初日でしたし緊張もあったかと」
「雪が話してくれましたよ」
思わず思い出し笑いをした私に波野は意外だという視線を向けてきた。
「変わったのは長谷川くんだけじゃなかった」
私より一回り年上の波野が、ふと笑った。
「長谷川くん、モデルとしてこれからも活躍できると思います」
「本人は生活費を稼ぐためのものくらいにしか思ってないようだがな」
「生活費?」
「雪は親からはとっくに独立している。私の庇護下に置かれることも好まない」
「……」
「しかし君のことはとても信頼していて、仕事を請け負いたいと思ったそうだ」
「……、確かにギャラは要らないと言われたのを思い出しました」
「はは、この間の仕事だって雪はまだ受け取っていないんだよ」
「ええ? じゃぁ生活費のためっていうのに、どうやって生活しているのかしら」
「自分の身体は二の次にしてしまうからな、大切にできないのだろう……」
ベッドルームのある方へ視線を向けた。
「服を買ってやっても受け取ろうとしない、アパートではセキュリティが不安だからうちに来いと言っても断られた、雪は一筋縄ではいかない」
それは分かっている。自己肯定感の低い雪には受け取れないのだ。
「須賀社長、長谷川くんが了承してくれるかは別として彼にはこの仕事をしてもらいたいんです。彼のためにも」
「というと?」
波野の方を向くと波野は言葉を選びながら話を続けた。
「長谷川くんは自分には価値がないような目をする時があるんです。もちろん新人は自信がないのは当たり前ですが、長谷川くんの良い所も全て否定しているような感じがして」
「雪の良き理解者が出来て嬉しいよ」
「え?」
「私からもお願いしたい。なるべく彼に外の世界を見せてやってほしい」
その時ベッドルームから僅かに音がした。雪が寝返りを打ったらしい。
「また、明日頼むよ」
私はそれだけ言うとベッドルームに向かった。ベッドに腰掛け雪のおでこに手を当てる。熱はこもっていないようだ。
「うーん……、須賀さ……」
眉を寄せる雪のおでこにキスを落として眠りへと誘う。
「あぁ、ここにいるよ」
リビングからは、もう人の気配は無かった。波野は部屋を出たようだ。
雪はこれからいろんな人と出会い、仕事をして社会と関わっていく。私以外の人間にもいつか心を開くだろう。
雪はまだ若い。
私の独占欲は雪の邪魔になるだろう。
ついこの間までは、自分だけのΩにしたくて、自分だけが雪の唯一でありたいと願っていたのいうのに。
芽生え始めるまた新たな想いに、自身も戸惑うばかりだった。
「ほしい……」
目がとろんとしていつもの雪ではないように見える。本当に素直にΩの欲情を私に見せてくる。
「嬉しいことを言ってくれるな……、雪……愛してるよ。だが、ボディーソープが混じってるものは雪の口に入れさせたくないな」
そうさせてしまったのは私なのか、そう自惚れた気持ちを抱きながら身体と共に手もシャワーで洗い流した。
「あ……っ」
雪は洗い流されるそれをまるで勿体無いかのように呟いて、上目遣いに私を見る。
「なんで、俺には飲ませてくれないんです……」
雪は怒っているのか、その薬がないと生きられないとでも言うようなすがり方に困惑した。私も雪の味は蜜のようで中毒になりそうなほど高まる。……だが、雪にもそれが当てはまるとは限らない。決して美味いものではない。
瞳を潤ませて私を睨むのが精一杯のようで、やがて私の胸に頬を寄せてきた。
「須賀さん……いじわる……っ」
「ははっ、かわいい……、今夜は積極的だ」
顔を横に振るだけで雪の体重が少し重くなる。
「……雪……、?」
頬を掴みこちらに向かせると雪の顔は赤く目は虚ろ。逆上せているのだろうか。手早く泡を流し、新たなバスローブを掛けると抱き上げバルコニーへと連れ出した。
ウッドチェアに腰掛け雪を膝の上に抱く。雪は胸にしなだれかかっている。
──味見だと言ったくせに、雪が逆上せていることにも気が付かないとは……。
「雪……すまなかった」
額にキスをすると少し冷たい。夜風に少し冷やされたようだ。そのまままた立ち上がり今度はベッドへ優しくおろす。冷蔵庫から冷えたミネラルウォーターを取り出しベッドへ戻ると、雪は寝転がっていて起き上がれそうになかった。
「雪、口を開けて」
もう意識は半分ない、今にも眠りそうな雪の小さな唇にそれを口移しで与えるとゴクリと喉が鳴った。そして雪はごろんとひとつ寝返り背中を向ける。
バスローブの隙間から覗く白い脚を手のひらで撫でると、わずかにぴくりと震えた。
──私のものを飲みたいなどと……。随分と煽られてしまったな。
キスにも私からの愛撫にも慣れてきたのは喜ばしいことだが、辿々しさにも愛おしさがたくさんあることを雪は知らないんだろう。
雪のペースで私を乱してくれればそれで十分なのに。
美しく開花する雪を見るにつけ、最近私を戸惑わせるのだ。
雪の寝顔を見届けて書斎机で途中の仕事を広げる。すると部屋のインターホンが鳴った。佐伯かと扉を開けると波野が立っていた。
「お疲れ様です、あの、長谷川くんは?」
「お疲れ様、さっき寝たところだよ」
「みんなとの夕食にやってこないから電話したんですが応答が無くって……」
「疲れさせてしまったようで」
「え? あ、すいません!」
「いや、私のせいだよ、入ってくれ」
「……はい。じゃあ少しだけ」
少し戸惑いながらも促すと波野は部屋に入ってきた。家具で仕切られたベッドルームに雪がいることをチラリと確認してソファに座る。
「今日の撮影で岬の方へ行ったんですよ、強い風に当たりすぎて疲れたのかもしれませんね……それに初日でしたし緊張もあったかと」
「雪が話してくれましたよ」
思わず思い出し笑いをした私に波野は意外だという視線を向けてきた。
「変わったのは長谷川くんだけじゃなかった」
私より一回り年上の波野が、ふと笑った。
「長谷川くん、モデルとしてこれからも活躍できると思います」
「本人は生活費を稼ぐためのものくらいにしか思ってないようだがな」
「生活費?」
「雪は親からはとっくに独立している。私の庇護下に置かれることも好まない」
「……」
「しかし君のことはとても信頼していて、仕事を請け負いたいと思ったそうだ」
「……、確かにギャラは要らないと言われたのを思い出しました」
「はは、この間の仕事だって雪はまだ受け取っていないんだよ」
「ええ? じゃぁ生活費のためっていうのに、どうやって生活しているのかしら」
「自分の身体は二の次にしてしまうからな、大切にできないのだろう……」
ベッドルームのある方へ視線を向けた。
「服を買ってやっても受け取ろうとしない、アパートではセキュリティが不安だからうちに来いと言っても断られた、雪は一筋縄ではいかない」
それは分かっている。自己肯定感の低い雪には受け取れないのだ。
「須賀社長、長谷川くんが了承してくれるかは別として彼にはこの仕事をしてもらいたいんです。彼のためにも」
「というと?」
波野の方を向くと波野は言葉を選びながら話を続けた。
「長谷川くんは自分には価値がないような目をする時があるんです。もちろん新人は自信がないのは当たり前ですが、長谷川くんの良い所も全て否定しているような感じがして」
「雪の良き理解者が出来て嬉しいよ」
「え?」
「私からもお願いしたい。なるべく彼に外の世界を見せてやってほしい」
その時ベッドルームから僅かに音がした。雪が寝返りを打ったらしい。
「また、明日頼むよ」
私はそれだけ言うとベッドルームに向かった。ベッドに腰掛け雪のおでこに手を当てる。熱はこもっていないようだ。
「うーん……、須賀さ……」
眉を寄せる雪のおでこにキスを落として眠りへと誘う。
「あぁ、ここにいるよ」
リビングからは、もう人の気配は無かった。波野は部屋を出たようだ。
雪はこれからいろんな人と出会い、仕事をして社会と関わっていく。私以外の人間にもいつか心を開くだろう。
雪はまだ若い。
私の独占欲は雪の邪魔になるだろう。
ついこの間までは、自分だけのΩにしたくて、自分だけが雪の唯一でありたいと願っていたのいうのに。
芽生え始めるまた新たな想いに、自身も戸惑うばかりだった。
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