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休息
第六十八話
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おつかれさまと皆が声を掛け合うと、それぞれが部屋に帰り始める。俺も衣装を脱ぎ自分の服に着替えると波野さんの部屋を出る。
俺の部屋に戻ると須賀の姿はなく、俺は風呂場へ直行した。
大きなバスタブに入り少し高揚している身体を落ち着かせる。この前は緊張しすぎてカチコチであまり記憶もない。たまに見せる須賀の険しい表情を見てビクビクしていたことを、なんとなく覚えているくらい。
でも今日はプールサイドや海での撮影で開放的だからなのか気持ちも良く、波野さんやスタッフの働く姿も見る余裕も少しできた。
皆で夕焼けを待って『今だ!』とカメラマンの合図でプロらしく皆が各々仕事をこなす姿に、俺も緊張が走ったことを思い出す。
「ふふ。今日の夕焼け、きれいだったなぁ」
今はすっかり陽が沈んで、夜の虫たちの声がする。遠くでは波の音がしていた。波の音をもっと聞きたくなってバスタブから上がってバスローブを羽織ると浴室から続いているバルコニーに出た。
海の向こうは真っ暗でビーチの僅かな明かりが点々とあるだけ。
「静かだなぁ……」
バルコニーの柵に腕を乗せて穏やかな夜風に当たっていると後ろから声が掛かった。
「いい眺めだ」
驚いて後ろを振り向くと須賀がバルコニーに出てきたところだった。ベッドルームからも繋がっていて須賀はそこから出てきたのだった。
「びっくりした……! 須賀さん、おかえりなさい」
「ただいま、雪」
後ろから抱きしめられた。
「撮影はうまくいったか?」
「予定通りにできたと波野さんは言ってました」
「なら雪の仕事もうまくいったんだな」
「俺は──」
「予定通りというとは雪が美しく撮れていたということだ。それには雪も良い仕事をしていないと成立しない」
須賀にそう言われると恥ずかしいながらも、俺も頑張ったんだと言いたくなる。ちらりと須賀を見上げると須賀に微笑えまれ目元に口付けされる。
背中から伝わる須賀のぬくもりと、耳元にかかる息が擽ったい。どうして、こうも須賀に心が踊るのか。
ふと須賀が背中から離れた。心細さに振り向くと須賀はワイシャツを脱いでそれをデッキチェアに放り投げた。顕になった大きな背中が視界に入り俺は思わず前を向き直した。
──な、なんで脱いでるの?!……しかもいきなり。
耳で後ろを伺っていると、また一枚デッキチェアに布が掛けられたような音がしてから気配が遠のく。そして次にシャワーの音が聞こえてきた。
──須賀さん、お風呂に入るのかな
おそるおそる振り向くと須賀の裸体があった。こちらを背にしてシャワーを浴びている。風呂場からバルコニーはガラスで仕切られている。ガラス扉は開け放たれたまま。盛り上がる肩にシャワーの水が弾けるのを見て俺はゴクリと喉を鳴らしてた。
やがて須賀が浴槽に身体を沈めた。
「ゆきーー?」
呼ばれるとは思わずびっくりしてそばに行くと須賀が笑顔で「雪も付き合え」と俺を縁に座らせた。
「それで? 今日はプールの撮影か?」
「はい、プールサイドでも撮って、あと海にも」
「その割に日焼けしてないな」
そう言いながらバスローブの裾を摘んで俺の肌を確認した。
「波野さんのブランドの日焼け止めクリーム塗ったので大丈夫ですよ」
裾から須賀の手が滑り込もうとするのをやんわりと止め膝に乗せる。須賀は諦めたのか片眉を上げてその手をそのままにしている。
「海はどこへ行ったんだ?」
「車で二十分くらい行ったところで……名前はなんだったかな。あ! 岬にも行ったんですけど」
「うん」
「岩がゴツゴツしてて、そこに一時間くらい座ってました」
「あはは、それは辛そうだな」
「めっちゃお尻痛くなりました! ふふふ」
「アハハハ!」
須賀は声をあげて笑ったのだった。俺は失礼ながら唖然としてしまう。こめかみに手をやって堪えるようにまだ笑っているのだ。
「須賀さん」
「すまん、尻が痛いのに君はすました顔をしていたんだろう?」
「……そうですよ。だって、そんな顔したらいけないし」
「そのすました顔を撮られていたんだろう?」
「そうですけど……」
「それを想像したら、とても滑稽で……クックック……ッ」
「そんなに面白いですか?」
「あぁ、面白い」
ようやく収まった須賀をちらりと睨んで拗ねた。
「俺はお尻がへこんだかと思いましたよ……」
「そうか? では、確かめなくてはな」
ザブンといきなり立ち上がるとその勢いのまま俺を立たせて壁に押し付けた。
俺の部屋に戻ると須賀の姿はなく、俺は風呂場へ直行した。
大きなバスタブに入り少し高揚している身体を落ち着かせる。この前は緊張しすぎてカチコチであまり記憶もない。たまに見せる須賀の険しい表情を見てビクビクしていたことを、なんとなく覚えているくらい。
でも今日はプールサイドや海での撮影で開放的だからなのか気持ちも良く、波野さんやスタッフの働く姿も見る余裕も少しできた。
皆で夕焼けを待って『今だ!』とカメラマンの合図でプロらしく皆が各々仕事をこなす姿に、俺も緊張が走ったことを思い出す。
「ふふ。今日の夕焼け、きれいだったなぁ」
今はすっかり陽が沈んで、夜の虫たちの声がする。遠くでは波の音がしていた。波の音をもっと聞きたくなってバスタブから上がってバスローブを羽織ると浴室から続いているバルコニーに出た。
海の向こうは真っ暗でビーチの僅かな明かりが点々とあるだけ。
「静かだなぁ……」
バルコニーの柵に腕を乗せて穏やかな夜風に当たっていると後ろから声が掛かった。
「いい眺めだ」
驚いて後ろを振り向くと須賀がバルコニーに出てきたところだった。ベッドルームからも繋がっていて須賀はそこから出てきたのだった。
「びっくりした……! 須賀さん、おかえりなさい」
「ただいま、雪」
後ろから抱きしめられた。
「撮影はうまくいったか?」
「予定通りにできたと波野さんは言ってました」
「なら雪の仕事もうまくいったんだな」
「俺は──」
「予定通りというとは雪が美しく撮れていたということだ。それには雪も良い仕事をしていないと成立しない」
須賀にそう言われると恥ずかしいながらも、俺も頑張ったんだと言いたくなる。ちらりと須賀を見上げると須賀に微笑えまれ目元に口付けされる。
背中から伝わる須賀のぬくもりと、耳元にかかる息が擽ったい。どうして、こうも須賀に心が踊るのか。
ふと須賀が背中から離れた。心細さに振り向くと須賀はワイシャツを脱いでそれをデッキチェアに放り投げた。顕になった大きな背中が視界に入り俺は思わず前を向き直した。
──な、なんで脱いでるの?!……しかもいきなり。
耳で後ろを伺っていると、また一枚デッキチェアに布が掛けられたような音がしてから気配が遠のく。そして次にシャワーの音が聞こえてきた。
──須賀さん、お風呂に入るのかな
おそるおそる振り向くと須賀の裸体があった。こちらを背にしてシャワーを浴びている。風呂場からバルコニーはガラスで仕切られている。ガラス扉は開け放たれたまま。盛り上がる肩にシャワーの水が弾けるのを見て俺はゴクリと喉を鳴らしてた。
やがて須賀が浴槽に身体を沈めた。
「ゆきーー?」
呼ばれるとは思わずびっくりしてそばに行くと須賀が笑顔で「雪も付き合え」と俺を縁に座らせた。
「それで? 今日はプールの撮影か?」
「はい、プールサイドでも撮って、あと海にも」
「その割に日焼けしてないな」
そう言いながらバスローブの裾を摘んで俺の肌を確認した。
「波野さんのブランドの日焼け止めクリーム塗ったので大丈夫ですよ」
裾から須賀の手が滑り込もうとするのをやんわりと止め膝に乗せる。須賀は諦めたのか片眉を上げてその手をそのままにしている。
「海はどこへ行ったんだ?」
「車で二十分くらい行ったところで……名前はなんだったかな。あ! 岬にも行ったんですけど」
「うん」
「岩がゴツゴツしてて、そこに一時間くらい座ってました」
「あはは、それは辛そうだな」
「めっちゃお尻痛くなりました! ふふふ」
「アハハハ!」
須賀は声をあげて笑ったのだった。俺は失礼ながら唖然としてしまう。こめかみに手をやって堪えるようにまだ笑っているのだ。
「須賀さん」
「すまん、尻が痛いのに君はすました顔をしていたんだろう?」
「……そうですよ。だって、そんな顔したらいけないし」
「そのすました顔を撮られていたんだろう?」
「そうですけど……」
「それを想像したら、とても滑稽で……クックック……ッ」
「そんなに面白いですか?」
「あぁ、面白い」
ようやく収まった須賀をちらりと睨んで拗ねた。
「俺はお尻がへこんだかと思いましたよ……」
「そうか? では、確かめなくてはな」
ザブンといきなり立ち上がるとその勢いのまま俺を立たせて壁に押し付けた。
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初めて挑戦しましたオメガバース作品です。この世界にもαとΩが居たらどんな世界なのだろうと思って書きはじめました。『Maybe Love』の九条吾妻くんと、そのお父さんが友情出演致しました。須賀の幼馴染の堤の恋の話最後の恋煩いもあります。合わせてお楽しみください。
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