恋人契約~愛を知らないΩがαの愛に気づくまで~

Gemini

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αの世界

第二十話

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 この世界には男女の性別に加えてα、Ωという性がある。この地球上の人類の0.001%にも満たない。ほとんどの人間はその存在すら知らずに彼らに出会うことなく生涯を終える。


 αとはイギリス王室をはじめ諸外国の王室とヨーロッパ貴族の一部の特権階級の人たちだ。αは純血主義であり、また神に選ばれたという選民思想を持ち、α同士で姻戚を結び優秀なαの血脈を生み続けている。

 彼らはいわゆる『世界を動かすフィクサー』たちだ。

 今日も金のレートを操り、どことどこを戦争させるかを暗躍し、次のアメリカ大統領は誰にするかを決め指名するとその男を呼び寄せ指示をするのだ。大統領はαからは選ばれない。αでもなくΩでもない人間をαはβと呼び、彼らのゲームの駒にして世界を動かしているのだ。

 αの世界でも全てが生き残れるわけではない。特別最上位αたけが選ばれ、そうでないものは切り捨てられる。そうしたαたちは行き場を失い世界に散り散りとなる。中でも優秀なαはその土地土地で金融業で成功を収め、のちに銀行家として勃興すると財閥へと成り上がっていった。


 そして、もうひとつのΩも基本的にはα同様Ω同士の姻戚を結んでいたがその目的は種の保存に尽きる。αとの性交は殆どが強姦によるもので、また生まれる子供は高確率でαで生まれてくる。
 項を咬まれたΩは発情期を乗り切ることができず絶命する。生き残っても自死が後を絶たなかった。現在では、Ωのその特性上生存率が非常に低いことから学説上では絶えたという見解だ。
 政府はΩ保護法を施行したがその実績は非公式となっている。




 日本国内に於いては、財閥が最上位αの存在である。


 それは須賀 元親の家も同じようなものだった。

 

 αなど種馬同然。

 血統主義のαの世界で、俗にいう上位αの家に生まれた私は生まれた時から結婚の相手は決まっている。いや正確には生まれる前からだ。代々姻戚を結んでいるαの親族と血の濃い血族を作り出す。

 α同士は妊娠率も高く必ず優秀なαが生まれる。また生存率も一際高い。ひとり男児が生まれればその配偶者はたとえ優秀であっても用済みとなり離婚させられることも多い。

 それ故に、上位αにきょうだいは居ない。

 私も例外なくひとりっ子だ。

 そして母親を知らない。

 私はそんな世界にうんざりしていた。




 そんなとき、たまに繁華街へ出向くんだ。

 αの社交場とは違い、フェロモンや自分の二次性に振り回されることのないβがマジョリティの世界には自由があった。私はただの人間でいられる心地よさを気に入っていたんだ。

 なんてことはない、いつも一人で呑んでいるだけだ。ある日は幼馴染のつつみとつるんで遊ぶこともある。この日、たまたまクラブへ足を踏み入れてしまったんだ。

 激しい音楽に疲れて店の奥にあるトイレに向かった。そして、その廊下ですれ違ったひとりの男。すれ違うとき男の肩が触れ、よろけたその男の腰を支えた。

「大丈夫か?」と声を掛けた瞬間目が合った気がする。

 すると突然、血が滾りたちまち全身を掛けめぐったのだ。彼の細い腰を強く自分に引き寄せると、狼が総毛立ち獲物を狩るように喉の奥がうなった。

 ──この人はΩだ……っ

 自分の中に満月を見た狼のように変貌していく様を悟る。いつものように理性で抑えつけ平常に持っていこうとするが、どうにも自分の中にあるαが言うことを聞かない。

 ──欲しい、欲しい……欲しい!!

 この衝動に負けるわけにいかないのにαの血が目前のΩを求めている。理性が本能に負けようとしている。背中に汗が伝った。

 生まれて初めて感じる危機。僅かな理性を引きずり出し彼から距離を置こうとした時、彼のフェロモンがブワッと増した。そして彼の顔が近づき唇が重なったんだ。


 シーツの上で彼を組み敷くと、彼の胸の前に垂れ下がる私のネクタイを握られそれをグイッと引き寄せられた。彼と目が合うと艷やかな眼差しで私を見上げている。そしてその首を伸ばし私にその唇を押し付けた。

 それが始まりの合図かのように彼は私を求めた。私の昂りに腰を擦り寄せて前戯などなくとも彼の後孔は私を簡単に受け入れてしまう。
 上ずり泣く彼の声を聞きながら何度目か達したあとで彼がもう意識を手放していたが私はもう止めることが出来なかった。

 性欲がだんだんと満たされていくうちに理性と野生の割合いが逆転していく。射精のあと彼のナカに挿れたまま彼の身体を抱き締めた。そのまま手当り次第に彼の肌にキスをして私の痕を残す。

 細い身体だった。

 あちらこちらに皮下が鬱血した彼の体をきれいに拭いていると、軽い疲労感が襲う。寝息を立てる彼の横に寝そべってみると、案外心が穏やかになっていった。

 起きたら君は私に怒るだろうか。
 普段どんな声で話すのだ。
 名前を教えてはくれるだろうか。

 彼が寝返り私に背を向けたとき無意識に私は襟足に指を伸ばしてそれをかき分けた。彼の項は白くまっさらな絹のようだった。

 カーテンの隙間が少しだけ明るくなった頃、私は睡魔に負けたんだ。




 翌朝、僅かなフェロモンをシーツに残して彼は消えた。

 起きた場所が定宿にしている部屋だったことは賛辞に値する。ラット状態になっていたのによくここまで辿り着けたものだ。
 上位αは幼い頃からラットにならないよう厳しく訓練と教育がされるが、それでも極めてラット状態に近いところまでにさせるほどのフェロモンだった。

 彼の居なくなったシーツに寝そべるとまだ彼の香りがしてそれを辿るとすぐ下半身に熱を持った。一晩中散々彼を抱き潰したのに、三十年生きてきてこんなに性に駆られるなんて経験したことがない。身体が彼を欲しているのだ。



 髪を撫でたときの柔らかな感触

 絹のような白い肌

 その白い肌の皮下からうっすらと桃色に染まる頬

 鈴の音のような上ずった声

 断片的なΩの姿だが、どれもが私の血を滾らせた。





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初めて挑戦しましたオメガバース作品です。この世界にもαとΩが居たらどんな世界なのだろうと思って書きはじめました。『Maybe Love』の九条吾妻くんと、そのお父さんが友情出演致しました。須賀の幼馴染の堤の恋の話最後の恋煩いもあります。合わせてお楽しみください。
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