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人の価値
第十六話
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「……胃が痛い」
昼休憩に入ったのは十四時を回った頃だった。朝は緊張のため食事を抜いてきてしまったので空腹で胃の痛みが出てきてしまったのだった。急いで控室に戻るとバッグから胃薬と、あと朝飲み忘れたΩの抑制剤を取り出す。
誰が飲んでもいいように置いてあるミネラルウォーターのペットボトルを開けるとふたつを飲み込んだ。
ドアの向こうは賑やかな声がする。みんなで食事をしているのかも。俺は朝握ってきたおにぎりをみっつ、テーブルに並べた。
「いただきます……っと」
おにぎりのラップを剥がして口を開けておにぎりに近づけるとガチャリと扉が開いた。ノックもしないで入ってくるのはあの人しかいない。
「……ノックしてください」
「すまん、手が塞がっていてな」
見上げると須賀はお弁当らしきものを沢山抱えていた。
「雪、君は……」
須賀が俺の前に置かれているお粗末な昼食に目が行ったのが分かって思わずおにぎりを隠した。気まずさにちらりと須賀を見上げると、須賀の肩越しにドアから部屋の外が見えた。廊下にはお弁当が数種類、サンドイッチや、オードブル、ドーナツなどなど……ずらりと並んでおり皆好きなものを取って行っているようだ。
須賀の手をよくよく見ると大きな弁当の箱と小さな箱がそれぞれ二つずつ。俺のために持ってきてくれたのだろうか。須賀に遅れてカップをふたつ運んでくる佐伯さんが入ってきた。
須賀からみんなへの差し入れだった。ケータリングと言うのだそう。そんなものあるなんて知らずおにぎりを持参する俺、一応モデル。
「須賀社長、俺に持ってきてくれたんですか?」
「君の姿が見えなかったからな、温かなスープもあるぞ」
「そうでしたか、ありがとうございます。ではせっかくなのでそちらを戴きます」
「では、私はその隠してあるものを戴こうかな」
「あっ、ちょっと……」
ひょいと長い腕に取りあげられてしまった。
「雪が作ったのか?」
「……はい」
「おにぎりか、久しく食べてないな」
ラップを剥がすと須賀は大きな口を開けてぱくりとかぶり付くと半分消えていた。半分になってしまったおにぎりを見て、それが面白くてつい笑ってしまった。
もぐもぐと口いっぱいに頬張る須賀。無駄な肉のないすっきりとした頬がリスのように広がっているのがどうにも可笑しい。
須賀は目を丸くして俺を見ていた。須賀を笑ってしまったと気がついてすぐに謝ったが逆に怒られてしまった。
「なぜ、謝る」
「だって、あなたを見て笑ってしまったから」
すると、ぷっ! と後ろから吹き出すような笑いが聞こえて俺も須賀も一緒に振り返ると、少し離れて弁当を食べている佐伯さんが口を抑えて顔を赤くしていたのだった。
「も、申し訳ありません。長谷川様の言い方がどうにもツボに入りまして……クククッ」
「俺?!」
「……佐伯、俺が笑われて面白いか」
「えぇ、こんなことは御座いませんので!」
構わず笑っている佐伯さんを見ているとこちらまで可笑しくなってきてしまう。佐伯さんは笑い上戸なんだって。意外な一面を見ることができた。
俺は須賀の持ってきてくれた弁当とスープを平らげた。
午後は衣装を変えての撮影で、二時間ほどで終わった。
昼休憩に入ったのは十四時を回った頃だった。朝は緊張のため食事を抜いてきてしまったので空腹で胃の痛みが出てきてしまったのだった。急いで控室に戻るとバッグから胃薬と、あと朝飲み忘れたΩの抑制剤を取り出す。
誰が飲んでもいいように置いてあるミネラルウォーターのペットボトルを開けるとふたつを飲み込んだ。
ドアの向こうは賑やかな声がする。みんなで食事をしているのかも。俺は朝握ってきたおにぎりをみっつ、テーブルに並べた。
「いただきます……っと」
おにぎりのラップを剥がして口を開けておにぎりに近づけるとガチャリと扉が開いた。ノックもしないで入ってくるのはあの人しかいない。
「……ノックしてください」
「すまん、手が塞がっていてな」
見上げると須賀はお弁当らしきものを沢山抱えていた。
「雪、君は……」
須賀が俺の前に置かれているお粗末な昼食に目が行ったのが分かって思わずおにぎりを隠した。気まずさにちらりと須賀を見上げると、須賀の肩越しにドアから部屋の外が見えた。廊下にはお弁当が数種類、サンドイッチや、オードブル、ドーナツなどなど……ずらりと並んでおり皆好きなものを取って行っているようだ。
須賀の手をよくよく見ると大きな弁当の箱と小さな箱がそれぞれ二つずつ。俺のために持ってきてくれたのだろうか。須賀に遅れてカップをふたつ運んでくる佐伯さんが入ってきた。
須賀からみんなへの差し入れだった。ケータリングと言うのだそう。そんなものあるなんて知らずおにぎりを持参する俺、一応モデル。
「須賀社長、俺に持ってきてくれたんですか?」
「君の姿が見えなかったからな、温かなスープもあるぞ」
「そうでしたか、ありがとうございます。ではせっかくなのでそちらを戴きます」
「では、私はその隠してあるものを戴こうかな」
「あっ、ちょっと……」
ひょいと長い腕に取りあげられてしまった。
「雪が作ったのか?」
「……はい」
「おにぎりか、久しく食べてないな」
ラップを剥がすと須賀は大きな口を開けてぱくりとかぶり付くと半分消えていた。半分になってしまったおにぎりを見て、それが面白くてつい笑ってしまった。
もぐもぐと口いっぱいに頬張る須賀。無駄な肉のないすっきりとした頬がリスのように広がっているのがどうにも可笑しい。
須賀は目を丸くして俺を見ていた。須賀を笑ってしまったと気がついてすぐに謝ったが逆に怒られてしまった。
「なぜ、謝る」
「だって、あなたを見て笑ってしまったから」
すると、ぷっ! と後ろから吹き出すような笑いが聞こえて俺も須賀も一緒に振り返ると、少し離れて弁当を食べている佐伯さんが口を抑えて顔を赤くしていたのだった。
「も、申し訳ありません。長谷川様の言い方がどうにもツボに入りまして……クククッ」
「俺?!」
「……佐伯、俺が笑われて面白いか」
「えぇ、こんなことは御座いませんので!」
構わず笑っている佐伯さんを見ているとこちらまで可笑しくなってきてしまう。佐伯さんは笑い上戸なんだって。意外な一面を見ることができた。
俺は須賀の持ってきてくれた弁当とスープを平らげた。
午後は衣装を変えての撮影で、二時間ほどで終わった。
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