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先輩
第十四話
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「先輩。もっかい、言って」
痛いくらいにぎゅっと抱き締められてしまった。
「……好きだよ、井上」
「オレもです、大好きです」
「うん」
「勘違いでも、本気にさせますから」
肩を掴まれて身体が離れると井上の真っ直ぐな視線が刺さる。しばらく見つめ合って、井上が僕の額に口付けた。
まるで誓いのキスみたいにゆっくりと唇が離れる。熱い視線のわりに、優しくキスをされてしまい、思わず頬が緩むと、井上が気がついて僕の顔をのぞき込んだ。
「先輩、……余裕っすね。オレが先輩のために好かれるためにどんだけのことやってきたか。先輩わかってますか……」
それは痛いくらいに感じている。
井上が寂しそうに僕を見つめる。
「ん……ごめんて」
「代わりでもいいなんて口走りましたけど、代わりじゃ嫌です」
「代わりだなんて思ってない」
「……、すいません。今ってその、お試しみたいなことですよね」
「お試し?」
「オレを好きになってもらう機会をオレが貰った、みたいな?」
「違うよっ、それは僕だよ。井上からの気持ちに応えるための……準備……? 違うな。今度は僕からアプローチする機会?」
そう言うと井上は顔をくしゃくしゃにして笑った。
「先輩がそんなにかわいいとはなぁ、ほんと、好き」
ようやく井上が笑った。
「先輩、かわいいです」
「井上もな。試験終わったらやり直しのデートしよ?」
井上が近づいてぎゅっとキツく抱きしめられた。
「先輩、めっちゃすきです……」
「あの、井上」
玄関からリビングに上げてくれて、二人で一本のビールとのり塩のポテチを囲んでいて、あることに気が付いた。
「会社、本当に辞めんのか?」
「それなんですけど」
井上は指先をティッシュで拭いてから僕に向かい直す。
「所長にそんなことを言った覚えはないんです」
「……?……だって仁言ってたよ」
「オレが先輩のいない所に転職なんて、そんなの起こるわけがないですよ」
「そ、そう、なのか? 辞めない?」
「辞めません、絶対」
「なんだよ……もう」
「諸悪の根源は所長っスね」
仁は何故嘘をついたんだ?
「あいつがわからねぇ……なんで人を混乱させるようなことを……!」
ブツブツといつまでも怒っている僕に対し井上は案外普通だった。
「オレが辞めるって知って、ここまで来てくれたんですよね?」
「うん。まぁ……それだけじゃないけどさ、でも僕のせいで辞めるんだとしたら、それは止めたかったし」
「そうなんですか?」
「お前が二年やってきたこと無駄にしたくなかった」
「側にいて欲しかったし?」
「えっ? 僕そんなこと言った?」
「一緒にいたいって言ってました」
「やめよう、思い出さないでくれ、恥ずかしい」
「とにかく、オレは辞めませんから。先輩のずっと側に居て、愛し続けます、一生」
「一生……なんて、大袈裟……な」
井上を小さく睨むと井上の大きな手が顔に伸びてきて親指が僕の唇を掠める。
「先輩、どうやってオレを口説くんです?」
口説くという言い方に、妙に胸がざわめいた。
「……していい?」
「え?」
「建築士の試験受かったら、キスしていい?」
「ご褒美?」
「褒美になるかは……」
むしろ、自分へのってことだが。キッカケが欲しいというか。井上をちらりと見ると頬を少し赤らめて恥ずかしがっていたが、突如笑いだした。
「こういうご褒美って、オレが先輩にお願いすることですよね、先輩から言うんだ? あはは!」
「試験までは集中してほしいし」
「はい、分かってます。先輩がたくさん勉強付き合ってくれたこと、本当に感謝してます」
「……うん」
「なぁ、これからも先輩って呼んでくれるよな? 今朝みたいなこと、ないよな?」
「ないです、心配しないで」
「ん。……ごめんな」
「なんで謝るんスか。災い転じて……っスよ」
「また、海苔ついてますよ?」と笑いかけてくれる井上を好きだと自然に心から思えた。
痛いくらいにぎゅっと抱き締められてしまった。
「……好きだよ、井上」
「オレもです、大好きです」
「うん」
「勘違いでも、本気にさせますから」
肩を掴まれて身体が離れると井上の真っ直ぐな視線が刺さる。しばらく見つめ合って、井上が僕の額に口付けた。
まるで誓いのキスみたいにゆっくりと唇が離れる。熱い視線のわりに、優しくキスをされてしまい、思わず頬が緩むと、井上が気がついて僕の顔をのぞき込んだ。
「先輩、……余裕っすね。オレが先輩のために好かれるためにどんだけのことやってきたか。先輩わかってますか……」
それは痛いくらいに感じている。
井上が寂しそうに僕を見つめる。
「ん……ごめんて」
「代わりでもいいなんて口走りましたけど、代わりじゃ嫌です」
「代わりだなんて思ってない」
「……、すいません。今ってその、お試しみたいなことですよね」
「お試し?」
「オレを好きになってもらう機会をオレが貰った、みたいな?」
「違うよっ、それは僕だよ。井上からの気持ちに応えるための……準備……? 違うな。今度は僕からアプローチする機会?」
そう言うと井上は顔をくしゃくしゃにして笑った。
「先輩がそんなにかわいいとはなぁ、ほんと、好き」
ようやく井上が笑った。
「先輩、かわいいです」
「井上もな。試験終わったらやり直しのデートしよ?」
井上が近づいてぎゅっとキツく抱きしめられた。
「先輩、めっちゃすきです……」
「あの、井上」
玄関からリビングに上げてくれて、二人で一本のビールとのり塩のポテチを囲んでいて、あることに気が付いた。
「会社、本当に辞めんのか?」
「それなんですけど」
井上は指先をティッシュで拭いてから僕に向かい直す。
「所長にそんなことを言った覚えはないんです」
「……?……だって仁言ってたよ」
「オレが先輩のいない所に転職なんて、そんなの起こるわけがないですよ」
「そ、そう、なのか? 辞めない?」
「辞めません、絶対」
「なんだよ……もう」
「諸悪の根源は所長っスね」
仁は何故嘘をついたんだ?
「あいつがわからねぇ……なんで人を混乱させるようなことを……!」
ブツブツといつまでも怒っている僕に対し井上は案外普通だった。
「オレが辞めるって知って、ここまで来てくれたんですよね?」
「うん。まぁ……それだけじゃないけどさ、でも僕のせいで辞めるんだとしたら、それは止めたかったし」
「そうなんですか?」
「お前が二年やってきたこと無駄にしたくなかった」
「側にいて欲しかったし?」
「えっ? 僕そんなこと言った?」
「一緒にいたいって言ってました」
「やめよう、思い出さないでくれ、恥ずかしい」
「とにかく、オレは辞めませんから。先輩のずっと側に居て、愛し続けます、一生」
「一生……なんて、大袈裟……な」
井上を小さく睨むと井上の大きな手が顔に伸びてきて親指が僕の唇を掠める。
「先輩、どうやってオレを口説くんです?」
口説くという言い方に、妙に胸がざわめいた。
「……していい?」
「え?」
「建築士の試験受かったら、キスしていい?」
「ご褒美?」
「褒美になるかは……」
むしろ、自分へのってことだが。キッカケが欲しいというか。井上をちらりと見ると頬を少し赤らめて恥ずかしがっていたが、突如笑いだした。
「こういうご褒美って、オレが先輩にお願いすることですよね、先輩から言うんだ? あはは!」
「試験までは集中してほしいし」
「はい、分かってます。先輩がたくさん勉強付き合ってくれたこと、本当に感謝してます」
「……うん」
「なぁ、これからも先輩って呼んでくれるよな? 今朝みたいなこと、ないよな?」
「ないです、心配しないで」
「ん。……ごめんな」
「なんで謝るんスか。災い転じて……っスよ」
「また、海苔ついてますよ?」と笑いかけてくれる井上を好きだと自然に心から思えた。
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