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先輩
第十二話
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「僕への気持ちがあってあんなに懐いてくれてたんなら、それってすごい酷だよ」
「そうだな、お前が一番よく分かるよな」
「あぁ……あいつは、すげえよ」
「で? どうなんだ?」
「わかんねぇ……後輩として可愛いとは思ってる」
「好きだって言われて、その後もかわいい後輩と思えるか?」
「思えるよ。これからも一緒にいてほしい」
「後輩として?」
「後輩として……」
「ただの後輩として?」
「ただの……?、もうっ! なに! なんだよお前!」
笑いつつ呆れたような顔をして頬杖ついて仁は僕を見る。
「俺なら好きでもないやつから告白されて気まずいし、もうふたりで飲みになんかいかねーよ」
「お前、冷てぇな」
「例えば俺が井上に告白されても、そんな目で俺の筋肉見てたのかと思うと無理なわけ、俺の筋肉は女の子のためにあるからな。今はミカちゃんのためにだけにあるわけ」
「……わかってるよ」
ミカちゃんとは仁の奥さんだ。仁に他人の性的指向を差別しようという意がないのは分かる。ただ、女の子が良いというこれまたひとつの指向だ。
「だからもう井上とは飲みにいけねーし、あいつを部屋には呼べないわな。でもお前はそうじゃないんだろ?」
仁に比べたら僕の筋肉なんかペラッペラだけど、それを井上が見てたら……。夏研修で同じ部屋になった、あのとき。シャワーから上半身裸で出てったような。あいつもそうだった。あいつ、筋肉ムキムキしてた。って、僕あんとき結構見てたんじゃんか……。思わず髪を掻き乱す。
「なぁ、何考えてんだよ。ニヤニヤして」
「してない」
「もう答え出てんじゃないの?」
「答えなんて出てない」
「だって、悩んでんだろ。それが答えじゃん?」
「既に変わったんだよお前と井上の関係が。お前の心の中で、分かるか?」
「……分かんねえよ」
「もう、前に進むしかないだろ」
「そんな、簡単に」
「実際はもっとシンプルだ。お前が複雑にしてるだけだと思うよ、俺は」
仁と別れ、帰り道。
酒臭さと煙草臭さがあるのに酔ってないことの違和感に、公園のベンチにひとり座った。
仁のいう、既に関係が変わってるとは、どういうことなのか。井上は二年も僕に片思いしてきたらしい。僕みたいなやつがいたんだな、不毛な恋するやつが。あいつも辛かったのかな。僕が辛かったみたいに。あいつも泣いたのかな。僕が泣いたみたいに。
いっつも、毎朝元気に挨拶してくれて、僕のフォローは完璧で、ランチも僕の好みを把握してたし、飲み会でも僕の空いたグラスを気にかけて飲みすぎたら水を用意してくれてた。全ては後輩としての配慮だとばかり思ってたが、それにしても井上からしてもらっていたことの多さに驚いた。
井上の優しさに甘えて漬け込んでいたと言われても仕方がなかった。
「やっぱ僕が原因なんだよな……?」
会社辞めるって相当なことだよ、次の就職先見つかってるのかな。もし勢いで決めたとしたら、それこそ僕は井上の人生を狂わせてしまう。そんなことはしたくない。あいつはこの二年間一生懸命に僕に付いてきた。
……でも、他の会社に行ってもあいつならうまく行くだろう。引き止めることも、また違うのか……?
とにかく、井上と話をしなくちゃ。
「そうだな、お前が一番よく分かるよな」
「あぁ……あいつは、すげえよ」
「で? どうなんだ?」
「わかんねぇ……後輩として可愛いとは思ってる」
「好きだって言われて、その後もかわいい後輩と思えるか?」
「思えるよ。これからも一緒にいてほしい」
「後輩として?」
「後輩として……」
「ただの後輩として?」
「ただの……?、もうっ! なに! なんだよお前!」
笑いつつ呆れたような顔をして頬杖ついて仁は僕を見る。
「俺なら好きでもないやつから告白されて気まずいし、もうふたりで飲みになんかいかねーよ」
「お前、冷てぇな」
「例えば俺が井上に告白されても、そんな目で俺の筋肉見てたのかと思うと無理なわけ、俺の筋肉は女の子のためにあるからな。今はミカちゃんのためにだけにあるわけ」
「……わかってるよ」
ミカちゃんとは仁の奥さんだ。仁に他人の性的指向を差別しようという意がないのは分かる。ただ、女の子が良いというこれまたひとつの指向だ。
「だからもう井上とは飲みにいけねーし、あいつを部屋には呼べないわな。でもお前はそうじゃないんだろ?」
仁に比べたら僕の筋肉なんかペラッペラだけど、それを井上が見てたら……。夏研修で同じ部屋になった、あのとき。シャワーから上半身裸で出てったような。あいつもそうだった。あいつ、筋肉ムキムキしてた。って、僕あんとき結構見てたんじゃんか……。思わず髪を掻き乱す。
「なぁ、何考えてんだよ。ニヤニヤして」
「してない」
「もう答え出てんじゃないの?」
「答えなんて出てない」
「だって、悩んでんだろ。それが答えじゃん?」
「既に変わったんだよお前と井上の関係が。お前の心の中で、分かるか?」
「……分かんねえよ」
「もう、前に進むしかないだろ」
「そんな、簡単に」
「実際はもっとシンプルだ。お前が複雑にしてるだけだと思うよ、俺は」
仁と別れ、帰り道。
酒臭さと煙草臭さがあるのに酔ってないことの違和感に、公園のベンチにひとり座った。
仁のいう、既に関係が変わってるとは、どういうことなのか。井上は二年も僕に片思いしてきたらしい。僕みたいなやつがいたんだな、不毛な恋するやつが。あいつも辛かったのかな。僕が辛かったみたいに。あいつも泣いたのかな。僕が泣いたみたいに。
いっつも、毎朝元気に挨拶してくれて、僕のフォローは完璧で、ランチも僕の好みを把握してたし、飲み会でも僕の空いたグラスを気にかけて飲みすぎたら水を用意してくれてた。全ては後輩としての配慮だとばかり思ってたが、それにしても井上からしてもらっていたことの多さに驚いた。
井上の優しさに甘えて漬け込んでいたと言われても仕方がなかった。
「やっぱ僕が原因なんだよな……?」
会社辞めるって相当なことだよ、次の就職先見つかってるのかな。もし勢いで決めたとしたら、それこそ僕は井上の人生を狂わせてしまう。そんなことはしたくない。あいつはこの二年間一生懸命に僕に付いてきた。
……でも、他の会社に行ってもあいつならうまく行くだろう。引き止めることも、また違うのか……?
とにかく、井上と話をしなくちゃ。
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