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第三話
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運命の出会いってこういうことなのかな。
大学の入学式、広大なキャンパスで見つけた。
大学デビューという言葉があるくらい、みんな身なりに気を遣っていたり、あからさまに気合を入れてるやつもいる。
その中でひときわ垢抜けてた。
後光が差してて眩しすぎて目がやられた。
「あぁ、これからの4年が俺の人生最盛期だな」
入学式が終わって学部棟へ向かうとまた光が見えた。
あいつだ。
廊下の掲示板に貼られた紙を見上げている。サークル募集の貼り紙だ。足早に近寄って隣に立ってみると俺より顔ひとつぶん小さい。おんなじ貼り紙を覗き込むと視線を感じた、俺を見てる。
「サークルって部活みたいなもん?」
声まで最高だった、女の子にも劣らないその可愛らしさのイメージそのままの低すぎないトーン。
「部活って意識の人もいるし、趣味の同好会みたいなのもあるし、合コンしかしないのもある、って感じかな」
俺は下心に蓋をして答える。
「よかったら一緒に見学行かない?」
貼り紙を指差す。
「喜んで」
俺は涼しい笑顔を貼り付けて尻尾ぶんぶん振ってる。
「俺は海斗」
「俺は……薫」
「お互い呼び捨てで宜しくね」
にっこり上目遣いでノックアウト。
俺はその帰りに黒縁メガネを購入したんだが決して海斗のせいではない。
それからは怒涛の合コンラッシュ。海斗と俺は合コンに呼ばれまくる。ノンケのふりをさせたら日本一の俺は海斗の次に人気になる。
いつもニコニコ可愛らしさ満点の海斗と、大人びた高身長のメガネ男子。
海斗は毎回お気に入りを見つけてはお持ち帰りコース。「薫、じゃあね」と女の子とふたり消えていく背中を俺はその度見送る。ラブホに行くんだ。
「あぁ……、このメガネめっちゃ遠くまで見えんじゃん」
少ししてひとりの女子大生が連絡してきた。それは海斗に近づくためだった。海斗に一番親しい人間からのアプローチ作戦だ。俺は笑顔を貼り付けてカフェで待ち合わせ、話をする。
「流れでホテル行ったんだけど……」
髪を耳にかけて照れた仕草をする。
『流れ』なんかない。どちらか一方でも下心がなくてはホテルへは漂着しないのだ。俺は斜めに座り直し通路側に長い足を組んだ。
「今日は雰囲気違うね、かわいい」
「え?」
「この間は夜に会ったからかな、あの時もかわいかったけど、今日のほうがいいな」
そう言えば女の子は一気に耳まで赤くして戸惑っている。一瞬で俺に気持ちが揺らいだのが分かる。
「恥ずかしいよ……」
「かわいいね」
女の子はホテルに付いてきた。そしてその可愛らしさとは裏腹な大胆なセックスだった。
海斗がキスした唇。
海斗が吸い付いたたわわな胸。
海斗がねじ込んだ温かなそれ。
その全てを上書きした。
運命の出会いだなんて言ってみたが、そう思っていたのは俺だけじゃなかった。
この大学に在籍するすべての女の子と言っていい、彼女たちが浮足立っている。なんなら学生課の職員だって、食堂のおばちゃんだってそうだ。
昼休みのたびに女の子たちに囲まれる。
満更でもない顔でにこやかに振る舞う海斗。
マンガかよってくらい、海斗の腕に手を添えたり、胸を押し付けてみたり。女の子の武器をこれでもかと行使してる。
モテる男は違うね。
向かいに座って素知らぬ顔で本を読んでいると、ふと海斗が気になり視線を送る。
喜んでいるかと思っていたのは間違いだった。海斗の顔がこの日は引き攣っていたのだ。俺は本を仕舞って海斗の荷物を持つと席を立った。
「お姉さんたち、ごめんね。これから用があるんだ」
海斗の肩を抱いて椅子から立ち上がらせるとそのまま食堂を後にした。
「薫……」
「大丈夫」
後ろが気になるのか振り返ろうとする海斗の肩に置いている自分の手に力を込める。俺は研究室へと向かっていた。
幸い早い時間だったため研究室には誰も居なかった。
海斗を椅子に座らせて、俺も二人分の荷物を置いて隣に座った。
「海斗、今日どした?」
「え?」
「お姉さんたちの中に苦手な人でもいた?」
「はは……、すごい洞察力」
海斗の表情はまだ曇っている。
しかし言いにくいなら言う必要はないし、俺に詮索する権利もない。
「また囲まれたら今みたいに助けてやるよ」
「うん、サンキュー」
「次の授業までここにいるか」
「うん、そうだね」
海斗はカバンから雑誌を取り出した。まだソワソワしている。俺は話題を振る。
「そういや、髪型変えた?」
「え! わかる? さすが薫」
「わかるよ、耳見えてるもん」
「いつもの美容師さんなんだけど、耳出してみたらって提案されてさ」
海斗は原宿でカットモデルのスカウトをされて、二週間に一回くらいの頻度で美容院に行っている。
スカウトといえば美容師の卵が経験のためにカット代を無料にして提供してもらうシステムだと思うのだが、何故かその美容院のトップスタイリストがやってるという。
海斗を狙っているんだとしたらけしからん。
海斗の項に手を添えて短くなった襟足を撫でた。
「後ろもすっきりしてんじゃん」
海斗が鼻でクスリと笑った。横顔だけでもわかる。
「触んなよ」っていつもの海斗になった。
……しかし毎回海斗がかっこよくなってるから許すしかない。だって俺にはそんな技術ないからな。負け惜しみだ。
「昨日会った女の子はなんも言ってくんなかった」
海斗が口を尖らせた。
俺は心の中でガッツポーズした。
昨夜の海斗の夜のお相手に俺は勝ったということだ。
そうだな、俺は海斗が好きでたまらない。
でも同じくらい海斗は女の子が好き。
この思いは平行線、……ではなく開く一方。
末広がりなら縁起は良いが。
良き男友達として俺は最高だと思うよ。
毎日、褒めるところを見つけて、
それを伝えて、笑顔をお返しに貰う。
片思いは辛いって言うけど、
でも、海斗を見てても辛さは感じない。
可能性がゼロだから。
大学の入学式、広大なキャンパスで見つけた。
大学デビューという言葉があるくらい、みんな身なりに気を遣っていたり、あからさまに気合を入れてるやつもいる。
その中でひときわ垢抜けてた。
後光が差してて眩しすぎて目がやられた。
「あぁ、これからの4年が俺の人生最盛期だな」
入学式が終わって学部棟へ向かうとまた光が見えた。
あいつだ。
廊下の掲示板に貼られた紙を見上げている。サークル募集の貼り紙だ。足早に近寄って隣に立ってみると俺より顔ひとつぶん小さい。おんなじ貼り紙を覗き込むと視線を感じた、俺を見てる。
「サークルって部活みたいなもん?」
声まで最高だった、女の子にも劣らないその可愛らしさのイメージそのままの低すぎないトーン。
「部活って意識の人もいるし、趣味の同好会みたいなのもあるし、合コンしかしないのもある、って感じかな」
俺は下心に蓋をして答える。
「よかったら一緒に見学行かない?」
貼り紙を指差す。
「喜んで」
俺は涼しい笑顔を貼り付けて尻尾ぶんぶん振ってる。
「俺は海斗」
「俺は……薫」
「お互い呼び捨てで宜しくね」
にっこり上目遣いでノックアウト。
俺はその帰りに黒縁メガネを購入したんだが決して海斗のせいではない。
それからは怒涛の合コンラッシュ。海斗と俺は合コンに呼ばれまくる。ノンケのふりをさせたら日本一の俺は海斗の次に人気になる。
いつもニコニコ可愛らしさ満点の海斗と、大人びた高身長のメガネ男子。
海斗は毎回お気に入りを見つけてはお持ち帰りコース。「薫、じゃあね」と女の子とふたり消えていく背中を俺はその度見送る。ラブホに行くんだ。
「あぁ……、このメガネめっちゃ遠くまで見えんじゃん」
少ししてひとりの女子大生が連絡してきた。それは海斗に近づくためだった。海斗に一番親しい人間からのアプローチ作戦だ。俺は笑顔を貼り付けてカフェで待ち合わせ、話をする。
「流れでホテル行ったんだけど……」
髪を耳にかけて照れた仕草をする。
『流れ』なんかない。どちらか一方でも下心がなくてはホテルへは漂着しないのだ。俺は斜めに座り直し通路側に長い足を組んだ。
「今日は雰囲気違うね、かわいい」
「え?」
「この間は夜に会ったからかな、あの時もかわいかったけど、今日のほうがいいな」
そう言えば女の子は一気に耳まで赤くして戸惑っている。一瞬で俺に気持ちが揺らいだのが分かる。
「恥ずかしいよ……」
「かわいいね」
女の子はホテルに付いてきた。そしてその可愛らしさとは裏腹な大胆なセックスだった。
海斗がキスした唇。
海斗が吸い付いたたわわな胸。
海斗がねじ込んだ温かなそれ。
その全てを上書きした。
運命の出会いだなんて言ってみたが、そう思っていたのは俺だけじゃなかった。
この大学に在籍するすべての女の子と言っていい、彼女たちが浮足立っている。なんなら学生課の職員だって、食堂のおばちゃんだってそうだ。
昼休みのたびに女の子たちに囲まれる。
満更でもない顔でにこやかに振る舞う海斗。
マンガかよってくらい、海斗の腕に手を添えたり、胸を押し付けてみたり。女の子の武器をこれでもかと行使してる。
モテる男は違うね。
向かいに座って素知らぬ顔で本を読んでいると、ふと海斗が気になり視線を送る。
喜んでいるかと思っていたのは間違いだった。海斗の顔がこの日は引き攣っていたのだ。俺は本を仕舞って海斗の荷物を持つと席を立った。
「お姉さんたち、ごめんね。これから用があるんだ」
海斗の肩を抱いて椅子から立ち上がらせるとそのまま食堂を後にした。
「薫……」
「大丈夫」
後ろが気になるのか振り返ろうとする海斗の肩に置いている自分の手に力を込める。俺は研究室へと向かっていた。
幸い早い時間だったため研究室には誰も居なかった。
海斗を椅子に座らせて、俺も二人分の荷物を置いて隣に座った。
「海斗、今日どした?」
「え?」
「お姉さんたちの中に苦手な人でもいた?」
「はは……、すごい洞察力」
海斗の表情はまだ曇っている。
しかし言いにくいなら言う必要はないし、俺に詮索する権利もない。
「また囲まれたら今みたいに助けてやるよ」
「うん、サンキュー」
「次の授業までここにいるか」
「うん、そうだね」
海斗はカバンから雑誌を取り出した。まだソワソワしている。俺は話題を振る。
「そういや、髪型変えた?」
「え! わかる? さすが薫」
「わかるよ、耳見えてるもん」
「いつもの美容師さんなんだけど、耳出してみたらって提案されてさ」
海斗は原宿でカットモデルのスカウトをされて、二週間に一回くらいの頻度で美容院に行っている。
スカウトといえば美容師の卵が経験のためにカット代を無料にして提供してもらうシステムだと思うのだが、何故かその美容院のトップスタイリストがやってるという。
海斗を狙っているんだとしたらけしからん。
海斗の項に手を添えて短くなった襟足を撫でた。
「後ろもすっきりしてんじゃん」
海斗が鼻でクスリと笑った。横顔だけでもわかる。
「触んなよ」っていつもの海斗になった。
……しかし毎回海斗がかっこよくなってるから許すしかない。だって俺にはそんな技術ないからな。負け惜しみだ。
「昨日会った女の子はなんも言ってくんなかった」
海斗が口を尖らせた。
俺は心の中でガッツポーズした。
昨夜の海斗の夜のお相手に俺は勝ったということだ。
そうだな、俺は海斗が好きでたまらない。
でも同じくらい海斗は女の子が好き。
この思いは平行線、……ではなく開く一方。
末広がりなら縁起は良いが。
良き男友達として俺は最高だと思うよ。
毎日、褒めるところを見つけて、
それを伝えて、笑顔をお返しに貰う。
片思いは辛いって言うけど、
でも、海斗を見てても辛さは感じない。
可能性がゼロだから。
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