上 下
223 / 230

223 もってけ泥棒王!

しおりを挟む
 イスタルト王は、アルス王宮に到着。アルス王と主だった貴族は、慇懃(いんぎん)に王を迎える。

イスタルト王は、俊也とユーノ、エリーナを伴っていた。


「まずは紹介しましょう。
我が娘ルラの婿、俊也青形。
ミスト王よりナビスを譲られ、アオガタ公国の領主を務めております」

「俊也青形です。若輩者ですが、よろしくお願いいたします」
 イスタリア王に紹介され、俊也は堂々とあいさつする。

「噂は聞いているかもしれませんが、俊也や彼の妻は、相当以上のつわもの。
詳しくは申せませんが、ミスト王がなぜナビスを譲ったか。
それで推察してください。
ときに、アルス王、ご息女のエリーナ殿、今回の働き、どうかおほめ下さい」
 イスタリア王の言葉に、アルス側はきょとんとする。

「ほほ~、ご存じではなかったのですか? 
アルスを落とす寸前で、カムハンのヤン・ハン将軍が、なぜ兵を退いたのか」
 イスタリア王は、あきれたような目で、アルス側を見渡す。

「いや、不思議に思っていたのですが」
 老アルス王は、咎める目で貴族たちを見る。

貴族たちは、思わず目をそらす。カムハンに備え、国内の軍備を整えはしていたが、密偵を放つなど、誰も積極的な諜報活動は、行っていなかった。

隣国の王に、怠慢ぶりを暗に指摘され、うかつとそしられても反論できない。

「いや、それなら結構。
ただ、エリーナ殿の祖国を思う気持ちが、我が娘婿を動かした。
そして、もう一つ付け加えておきましょう。
カムハンの皇帝は、おそらく一年以内に、退位することになるでしょう。
娘婿がそのお膳立てを整えた。
もちろん、妻エリーナ殿のために。
これも詳しいことは申せません。
ここだけの話にとどめておいてください。
よろしいですかな?」
 イスタルト王は、鋭い目でアルス側を見渡す。

アルス王をはじめ、貴族たちは思わず背筋を伸ばした。

よくわかんないけど、なんかおっかね~……。
イスタルト王も、その娘婿殿も。

「外にもよく目を、配っておくことですな。カムハンが、南サミアの次に狙っていたのは貴国です。
何はともあれ、貴国がご無事であったのはめでたきこと。
話は変わりますが、私は商いを始めるつもりです。
イスタルト国内では、王の立場として、小商いをするのもはばかられる。
好都合なことに、ミケア侯爵殿が、孫のエリーナ殿に、パガダの一部を譲られました。
もちろん、祖国の危機を事前に阻止した、功績に報いるためです。
私はその地で、ささやかな店を構えます。
まあ、娘婿殿と共同経営という形で、老後の小遣いを稼ぐ心づもり。
どうかごひいきに」
 イスタルト王は、全然笑ってない目で微笑んだ。

つまり、文句があるなら言ってみろ、ということ。
貴族たちは、イスタルト王が自国内で「小商い」をすることの意味に、まだ気づかなかった。

俊也は思う。
このありさまなら、ヤン・ハン将軍に攻められたらイチコロだ。

思う存分二大豪商とやらを、食いつぶしてやる。愛しのエリーナのために。
 エリーナ、マイラブ、そ~~~スイーツ、なんちゃって。

「イスタルト王と私が、経営する商いについてご説明いたします。
よろしくご便宜のほどを。
ユーノ」
 俊也はユーノを促す。

「御説明いたします……」
 ユーノは差し障りのない範囲で、計画の詳細を語った。

貴族たちは思う。

それって「小商い」? 

俺たちのスポンサー、やばくない? 

この世界では、類を見ないその計画を聞かされ、貴族たちは、ようやく危機感を抱き始めた。


 イスタルト王と、俊也たちは迎賓館に案内された。

「我が王。私たちはこれで失礼します」
 俊也が唐突に切り出した。

「なん、だと? 余に馬車で帰れと言うのか!」
 イスタルト王は、国境を越える手前で、転移魔法により使節団と合流した。帰りも同様、転移魔法をあてにしていたのだ。
アルス領内で転移するのは具合が悪いが、イスタルトに入ったら、ひとっとびで、楽ちん。

「当地で三日滞在なさる予定でございましょう?
私はなかなか忙しい身ですから。
特に我が王の暖かいご配慮のおかげで、五人も……」

「わかった、わかった。
待ち合わせは、行きと同じところでよいのだな?」
 俊也の皮肉を、王の鉄面皮で流す。

「はい。三日後の午後三時。お待ちしております」

「婿殿、正確な時間が知りたい、なんてね……。
嫁の皆に与えておるであろう?
と・け・い!」

「さようでございました! 今持ち合わせがございませんので……」
 俊也は腕に付けた時計を外し、王にささげた。

 王は嬉々として受け取る。
「ん……、なんか安っぽくはないか?
 ルラ達がつけている時計と、全然感じが違う。あれは宝石が散りばめられていた。これはよくわからない記号が……、もしかして数字か?
 俊也が常用していた時計は、由緒正しきDIY店で購入した逸品。

「時計なぞ、時間がわかればよいのです。
それに、色々な機能が付いております。
たとえば、ストップウオッチ機能!
失礼ですが、一度お返しください」
 俊也は時計を受け取り、ストップウオッチ機能を実践。

「おう!
これは便利だ!
ルラ達の時計は見栄えだけか!
針でなんとなく時間がわかるだけだし。
さぞ高かったであろう?」

「値段は聞かぬが花でございましょう。
午後三時は、15:00と表示されます」
 俊也は常にポケットに入れている折込チラシの裏に、ボールペンで15:00、と記入し時計と共に献上。
 
「他の記号は?」

「ご自分で解析なさってください。十種類しかありませんから、よき暇つぶしになるでしょう」 

「よかろう。時に婿殿。
この記号を書いた道具だが……」

 もってけ泥棒王! 俊也はボールペンも献上品に加えた。

「すまぬの~!」

「いえ……」
 どうせ1980円の時計と保険会社の粗品だから。俊也は心の中だけで言葉をつないだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】童貞のまま転生し悪魔になったけど、エロ女騎士を救ったら筆下ろしを手伝ってくれる契約をしてくれた。

飼猫タマ
ファンタジー
訳あって、冒険者をしている没落騎士の娘、アナ·アナシア。 ダンジョン探索中、フロアーボスの付き人悪魔Bに捕まり、恥辱を受けていた。 そんな折、そのダンジョンのフロアーボスである、残虐で鬼畜だと巷で噂の悪魔Aが復活してしまい、アナ·アナシアは死を覚悟する。 しかし、その悪魔は違う意味で悪魔らしくなかった。 自分の前世は人間だったと言い張り、自分は童貞で、SEXさせてくれたらアナ·アナシアを殺さないと言う。 アナ·アナシアは殺さない為に、童貞チェリーボーイの悪魔Aの筆下ろしをする契約をしたのだった!

【18禁】ゴブリンの凌辱子宮転生〜ママが変わる毎にクラスアップ!〜

くらげさん
ファンタジー
【18禁】あいうえおかきくけこ……考え中……考え中。 18歳未満の方は読まないでください。

【R18】僕の異世界転性記!【挿絵付】

サマヨエル
ファンタジー
【閲覧注意!】性的描写多数含みます。苦手な方はご遠慮ください。 ふと気がつくと見知らぬ場所で倒れていた少年。記憶の一切が無く、自分の名前すら思い出せない少年の本能は告げていた。ここは自分の居るべき世界ではない、異世界であると。 まるでゲームのような世界に胸を高める中ひょんなことから出現したステータスウィンドウには驚愕の一言が! ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 特殊スキル:異世界転性 種族問わず。性交の数だけ自身のステータス上昇とスキル取得ができる。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 誰もがうらやむ異世界性活が幕を開ける!

オークションで競り落とされた巨乳エルフは少年の玩具となる。【完結】

ちゃむにい
恋愛
リリアナは奴隷商人に高く売られて、闇オークションで競りにかけられることになった。まるで踊り子のような露出の高い下着を身に着けたリリアナは手錠をされ、首輪をした。 ※ムーンライトノベルにも掲載しています。

淫らなお姫様とイケメン騎士達のエロスな夜伽物語

瀬能なつ
恋愛
17才になった皇女サーシャは、国のしきたりに従い、6人の騎士たちを従えて、遥か彼方の霊峰へと旅立ちます。 長い道中、姫を警護する騎士たちの体力を回復する方法は、ズバリ、キスとH! 途中、魔物に襲われたり、姫の寵愛を競い合う騎士たちの様々な恋の駆け引きもあったりと、お姫様の旅はなかなか困難なのです?!

【R18】抑圧された真面目男が異世界でハメを外してハメまくる話

黒丸
ファンタジー
※大変アダルトな内容です。 ※最初の方は、女の子が不潔な意味で汚いです。苦手な方はご注意ください。 矢島九郎は真面目に生きてきた。 文武の両道に勤め、人の模範となるべく身を慎んで行いを正しくし生きてきた。 友人達と遊んでも節度を保ち、女子に告白されても断った。 そしてある日、気づいてしまう。 人生がぜんっぜん楽しくない! 本当はもっと好きに生きたい。 仲間と遊んではしゃぎ回り、自由気ままに暴力をふるい、かわいい娘がいれば後腐れなくエッチしたい。 エッチしたい! もうネットでエグめの動画を見るだけでは耐えられない。 意を決し、進学を期に大学デビューを決意するも失敗! 新歓でどうはしゃいだらいいかわからない。 女の子とどう話したらいいかわからない。 当たり前だ。女の子と手をつないだのすら小学校が最後だぞ! そして行き着くところは神頼み。 自分を変える切欠が欲しいと、ものすごく控えめなお願いをしたら、男が存在しないどころか男の概念すらない異世界に飛ばされました。 そんな彼が、欲望の赴くままにハメを外しまくる話。

【R18 】必ずイカせる! 異世界性活

飼猫タマ
ファンタジー
ネットサーフィン中に新しいオンラインゲームを見つけた俺ゴトウ・サイトが、ゲーム設定の途中寝落すると、目が覚めたら廃墟の中の魔方陣の中心に寝ていた。 偶然、奴隷商人が襲われている所に居合わせ、助けた奴隷の元漆黒の森の姫であるダークエルフの幼女ガブリエルと、その近衛騎士だった猫耳族のブリトニーを、助ける代わりに俺の性奴隷なる契約をする。 ダークエルフの美幼女と、エロい猫耳少女とSEXしたり、魔王を倒したり、ダンジョンを攻略したりするエロエロファンタジー。

【R18】スライムにマッサージされて絶頂しまくる女の話

白木 白亜
ファンタジー
突如として異世界転移した日本の大学生、タツシ。 世界にとって致命的な抜け穴を見つけ、召喚士としてあっけなく魔王を倒してしまう。 その後、一緒に旅をしたスライムと共に、マッサージ店を開くことにした。卑猥な目的で。 裏があるとも知れず、王都一番の人気になるマッサージ店「スライム・リフレ」。スライムを巧みに操って体のツボを押し、角質を取り、リフレッシュもできる。 だがそこは三度の飯よりも少女が絶頂している瞬間を見るのが大好きなタツシが経営する店。 そんな店では、膣に媚薬100%の粘液を注入され、美少女たちが「気持ちよくなって」いる!!! 感想大歓迎です! ※1グロは一切ありません。登場人物が圧倒的な不幸になることも(たぶん)ありません。今日も王都は平和です。異種姦というよりは、スライムは主人公の補助ツールとして扱われます。そっち方面を期待していた方はすみません。

処理中です...