上 下
210 / 230

210 常夏のサミア

しおりを挟む
 俊也は護衛のパトラン、転移魔法要員エンランを伴い、ヤン将軍の宿営地へ跳んだ。

「俊也殿、相変わらず突然ですな」
 ヤン将軍は接収した宿の二階から下りてきた。
俊也はすでに、フリーパスのVIP待遇となっている。

ヤン将軍の主力は、チャム城砦に程近い、大きな街に宿営している。
チャム城砦には、まだ無視できないほどのサミア軍が、立てこもっているからだ。サミア王族のほとんども、城砦内で健在。

今のところ、サミアと交戦中という体裁を保つ必要があるので、この地から動くわけにいかない。

「どうも申し訳ありません。本国からの補給、まだ滞っていませんか?」
 俊也は頭を掻きながら言う。

「まだ? 相応の補給は受けていますが……」

「カムハンで、ある小細工をしました。
もう少ししたら泣きが入るはずです。
当分は無理だと。
とりあえず」
 俊也はクレオを目で促す。クレオは肩に担いでいた箱をテーブルに置く。
軽そうに扱っているが、実は重い。クレオが箱を開けると、ぎっしり金貨が詰まっていた。

「当面の軍資金にあてて下さい。
軍資金は十分に用意していますが、荷物になると思います。
警備も面倒でしょうから、小出しで供給します」
 将軍は目を見張った。

「どこから出ているのですか?」
「まあ、知らない方がいいです。カムハンの刻印は、お気になさらないように」
 俊也はニヤッと笑う。

将軍は考え込んだ。これほどの量の金貨。しかもカムハンで流通している貨幣……。

領主か大商人か……。

これでも一部という口ぶり……。

将軍はふと思い当る。

「まさか……」
「そのまさかです。方法は秘密です。
皇宮に帰ったら、おおよその見当はつくでしょうが。
カムハンのお金、真にカムハンのためになるよう、お役立て下さい。
後二カ月程度、この地で粘って下さい。
皇帝は、国中から資金をかき集めるはずです。
そうなれば…おわかりですね?」
 将軍は苦笑してうなずいた。

戦は金食いだ。皇帝はかなり無理をして軍資金を集めている。
その無理が大無理になったら、くすぶっていた不満は爆発する。

「私の方から、軍や実力者に根回しはできません。
手始めにカムハン南西部の有力者。
そして、北面軍の総司令、リュウ将軍とよくご相談なさってください。
では十日後のこの時間また来ます。
一か月間で必要な経費を試算してください。
すぐに準備します。
あ、将軍が帰国なさる時、露払いに、多少は役立てると思います」
 俊也はクレオを促し、宿から出ていった。

将軍は思う。『多少は役立てる?』。謙遜も度を過ぎたら嫌味というもの。
そうではないですか? 天下一の大泥棒殿。

将軍は大笑いした。

笑っちゃうしかないよね!


 エンランが俊也とパトランを転移魔法で跳ばしたのは、サミアのとある海岸。エンランが最後に魔法陣を抜ける。

「海岸に着きましたよ。転移魔法陣、五つ用意しました
跳んできてください」
 エンランが、魔法陣で念話を飛ばす。
『了解!』
 と、ルラから返事があった

 五つの魔法陣に、日よけテントやパラソル、クーラーボックス等が送られてきた。

 もう目的は、お分かりだと思う。館勢力は今のところ血を一滴も流していないが、臨戦状態であることには間違いない。
 戦いの緊張感はほとんどないにしろ、多少気分はささくれ立つ。

 そんなときにはバカンスでしょ!

 ということで、周囲が崖に囲まれ、プライベートビーチに等しい遠浅の海岸を見つけておいたのだ。
 もちろん、ドローンを利用して。

ヤン将軍を心底ビビらせた熱波作戦にも、ドローンは大活躍した。
 ただでさえ酷暑が続くサミアの気候を、さらにひどくするわけにいかない。熱波の範囲を正確に見極めるため、ドローンは必需であった。

 軽装の嫁たちや子供たちが、次々と転移してきた。愛人枠の琴音、芙蓉、さくらも混じっている。なんと巫見も。
 そしてなぜだか、朝陽と菜摘も。
 俊也の「関係者」の中でいないのは、妊婦嫁だけだ。

「俊也さん、どこで着替えたらいいんですか?
色っぽい水着、用意してるんですが」
 どうして朝陽となっちゃんが? 首をかしげていた俊也に、なっちゃんが聞く。

「更衣室用意してないんだけど……」
 俊也はとまどう。「関係者」には、今さらでしょ、ということで、俊也は着替えのことを考えていなかった。

「そうですか?
別にいいですけど」
 なっちゃんは、いさぎよくTシャツを脱いだ。
 お~~~! ずいぶん成長したね! ピンクのブラに包まれた……。

「アニキ! なっちゃんだけは見ちゃダメ!」
 そう言って、朝陽はTシャツを脱いだ。

 妹もなかなか……、って、見ちゃだめだってば!

 俊也は慌てて嫁や愛人たちの着替えシーンに、集中するのであった。
 なっちゃんと妹の着替えは、視界の端にぼんやりと、だけであった。
 あくまで、ぼんやりと、だよ?

 朝陽はさすがに後ろ向きで着替えていたが、なっちゃんは堂々と。

あの子、大丈夫なの? 

 見なければ大丈夫だろ? そんな失礼なことできません!


 海水浴初体験の嫁や愛人たちは大はしゃぎ。館前のレマン湖でも、短時間なら泳げなくもないが、夏場でも水が冷たすぎる。
 スカートを持ち上げて、膝程度の水に入り、きゃっきゃ遊ぶだけだった。
 あの、スカートを持ち上げて、っていうの、案外いいんだよね……。
 水着姿は? 野暮なことを聞くなと言うしかない。
 
 色とりどり、色々な形状の水着美女、美少女がわちゃわちゃと。
 
 俊也は何をしているのかといえば、もちろん鑑賞です!
 実を言えば、俊也はほとんどカナヅチに近かった。

こちらへ転移するまで、純然たる勉強オタク。朝陽に引っ張られ、何度かプールも行ったが、引率者の立場を守り続けた。

 そして転移事故で合体したのが猫。ご存じだと思うが、ほとんどの猫は水が大嫌い。
 そして俊也もナイトも、水着姿の女の子が大好き! 
 
 鑑賞者の立場を守り続けるのは自然だ。……でしょ?

「俊也さん、海へ入らないんですか?」
 白のビキニから、水を滴らせながら、なっちゃんが歩み寄ってきた。

「俺は監督だから」
 俊也はなっちゃんの水着姿を横目でとらえながら、苦しい言い訳。

「よっこいしょ」
 なっちゃんは、体が振れない程度の距離をあけ、俊也の隣に腰をおろす。

「大学、どうするの?」
 俊也は無難な話題を振った。
「おかげさまで選び放題です。
興津根様効果、すごいですね。
お肌がきれいになるだけじゃなくて」
 なっちゃんの成績は、中クラスだった。今や朝陽に次ぐ席次となっている。それほどガリ勉の必要はない。
授業で聞いたこと、一通り解いた参考書の内容が、容易に定着する。

「朝陽は早慶の政経受けるそうだけど……」
「そんな野暮な話、やめません?
水着少女と話す内容じゃないですよ?」

「それもそうだけどさ、なっちゃんは小さいころから知ってるし……」
「やだ! あの下着姿と比べてる!
私の黒歴史、忘れてください!」
 なっちゃんの言う「黒歴史」とは、ロリコン高校生の毒牙にかかりかけたことを指す。

「そんなの忘れてるから」
「忘れたんですか!
赦せない!」
 菜摘は悪い顔をして、俊也に寄り添った。

 俊也は触れた彼女の素肌が、やけに熱く感じられた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

性奴隷を飼ったのに

お小遣い月3万
ファンタジー
10年前に俺は日本から異世界に転移して来た。 異世界に転移して来たばかりの頃、辿り着いた冒険者ギルドで勇者認定されて、魔王を討伐したら家族の元に帰れるのかな、っと思って必死になって魔王を討伐したけど、日本には帰れなかった。 異世界に来てから10年の月日が流れてしまった。俺は魔王討伐の報酬として特別公爵になっていた。ちなみに領地も貰っている。 自分の領地では奴隷は禁止していた。 奴隷を売買している商人がいるというタレコミがあって、俺は出向いた。 そして1人の奴隷少女と出会った。 彼女は、お風呂にも入れられていなくて、道路に落ちている軍手のように汚かった。 彼女は幼いエルフだった。 それに魔力が使えないように処理されていた。 そんな彼女を故郷に帰すためにエルフの村へ連れて行った。 でもエルフの村は魔力が使えない少女を引き取ってくれなかった。それどころか魔力が無いエルフは処分する掟になっているらしい。 俺の所有物であるなら彼女は処分しない、と村長が言うから俺はエルフの女の子を飼うことになった。 孤児になった魔力も無いエルフの女の子。年齢は14歳。 エルフの女の子を見捨てるなんて出来なかった。だから、この世界で彼女が生きていけるように育成することに決めた。 ※エルフの少女以外にもヒロインは登場する予定でございます。 ※帰る場所を無くした女の子が、美しくて強い女性に成長する物語です。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

【R18】童貞のまま転生し悪魔になったけど、エロ女騎士を救ったら筆下ろしを手伝ってくれる契約をしてくれた。

飼猫タマ
ファンタジー
訳あって、冒険者をしている没落騎士の娘、アナ·アナシア。 ダンジョン探索中、フロアーボスの付き人悪魔Bに捕まり、恥辱を受けていた。 そんな折、そのダンジョンのフロアーボスである、残虐で鬼畜だと巷で噂の悪魔Aが復活してしまい、アナ·アナシアは死を覚悟する。 しかし、その悪魔は違う意味で悪魔らしくなかった。 自分の前世は人間だったと言い張り、自分は童貞で、SEXさせてくれたらアナ·アナシアを殺さないと言う。 アナ·アナシアは殺さない為に、童貞チェリーボーイの悪魔Aの筆下ろしをする契約をしたのだった!

転生したら遊び人だったが遊ばず修行をしていたら何故か最強の遊び人になっていた

ぐうのすけ
ファンタジー
カクヨムで先行投稿中。 遊戯遊太(25)は会社帰りにふらっとゲームセンターに入った。昔遊んだユーフォーキャッチャーを見つめながらつぶやく。 「遊んで暮らしたい」その瞬間に頭に声が響き時間が止まる。 「異世界転生に興味はありますか?」 こうして遊太は異世界転生を選択する。 異世界に転生すると最弱と言われるジョブ、遊び人に転生していた。 「最弱なんだから努力は必要だよな!」 こうして雄太は修行を開始するのだが……

女神に同情されて異世界へと飛ばされたアラフォーおっさん、特S級モンスター相手に無双した結果、実力がバレて世界に見つかってしまう

サイダーボウイ
ファンタジー
「ちょっと冬馬君。このプレゼン資料ぜんぜんダメ。一から作り直してくれない?」 万年ヒラ社員の冬馬弦人(39歳)は、今日も上司にこき使われていた。 地方の中堅大学を卒業後、都内の中小家電メーカーに就職。 これまで文句も言わず、コツコツと地道に勤め上げてきた。 彼女なしの独身に平凡な年収。 これといって自慢できるものはなにひとつないが、当の本人はあまり気にしていない。 2匹の猫と穏やかに暮らし、仕事終わりに缶ビールが1本飲めれば、それだけで幸せだったのだが・・・。 「おめでとう♪ たった今、あなたには異世界へ旅立つ権利が生まれたわ」 誕生日を迎えた夜。 突如、目の前に現れた女神によって、弦人の人生は大きく変わることになる。 「40歳まで童貞だったなんて・・・これまで惨めで辛かったでしょ? でももう大丈夫! これからは異世界で楽しく遊んで暮らせるんだから♪」 女神に同情される形で異世界へと旅立つことになった弦人。 しかし、降り立って彼はすぐに気づく。 女神のとんでもないしくじりによって、ハードモードから異世界生活をスタートさせなければならないという現実に。 これは、これまで日の目を見なかったアラフォーおっさんが、異世界で無双しながら成り上がり、その実力がバレて世界に見つかってしまうという人生逆転の物語である。

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

【異世界ショップ】無双 ~廃絶直前の貴族からの成り上がり~

クロン
ファンタジー
転生したら貴族の長男だった。 ラッキーと思いきや、未開地の領地で貧乏生活。 下手すれば飢死するレベル……毎日食べることすら危ういほどだ。 幸いにも転生特典で地球の物を手に入れる力を得ているので、何とかするしかない! 「大変です! 魔物が大暴れしています! 兵士では歯が立ちません!」 「兵士の武器の質を向上させる!」 「まだ勝てません!」 「ならば兵士に薬物投与するしか」 「いけません! 他の案を!」 くっ、貴族には制約が多すぎる! 貴族の制約に縛られ悪戦苦闘しつつ、領地を開発していくのだ! 「薬物投与は貴族関係なく、人道的にどうかと思います」 「勝てば正義。死ななきゃ安い」 これは地球の物を駆使して、領内を発展させる物語である。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

処理中です...