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196 興津根様

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 翌日、俊也は三人の嫁にねだられて一宮本宅に跳んだ。

改良型新転移魔法のおかげで、俊也の活動範囲は実に幅広くなっている。
記憶の転写が可能な地にしか、五年前は跳べなかった。
つまり、嫁の誰かが、鮮明に記憶している場所という制約があった
「改良型」は、写真や動画があれば、衛星写真アプリと照らし合わせて、その場所に、転移魔法陣が描けるようになった。

転移地点に、人目や障害物があったら不都合だが、魔法陣を通し周囲をサーチ。結界を張って侵入者を遮断。
見知らぬ場所でも、安全に跳ぶことができる。

あちらの世界では、データ不足のため、まだ嫁の記憶頼りだが、こちらの世界なら大抵の場所に跳べる。

「で、マジで探すの? 妖怪」
 俊也はフミに振る。

「マジで探すの。ね~?」
 フミは側近姉妹に振る。姉妹はコクコクとうなずく。

昨日俊也を待つ間、三人は相談した。懸案だった妖怪探索を決行しよう! 
力が付いたら、絶対実行したいと三人は考えていた。

以前茜と幸が、初めて館を訪れた時得た情報。
山奥や超僻地なら、まだ妖怪が残っているかもしれない。

今ならどんな妖怪に遭遇しても、対処できる。もちろん熊なんて目じゃなないし。

「まあ、鹿や猪の害が多いとも聞くし。
狩りのついでなら、妖怪が見つからなくても無駄はないか。
とりあえず登ろう」
 俊也はあきらめて、嫁たちの好奇心に従うことにした。


 レジに変化した俊也は、三人の嫁と共に一宮本宅の裏山に登る。

三人の嫁たちが、裏山を探索の目的地に選んだのは、一応の根拠があったからだ。
一宮一族が、不便なこの地に、本宅を守り続けたのは、邸内にある一族の守り神「興津根様」神社と、聖域の裏山を守る意味が大きかった。

「興津根」とは「お狐」の当て字だ。つまり、妖狐を祭った神社である。

一族の伝承によれば、メスの妖狐と情を交わした先祖が、半妖の女子を妖狐から授かったという。

妖狐の霊力を受け継いだその女の子が、元祖巫見だった、というわけ。

時を経るにつれ、妖狐の血は薄まり、半獣化する子孫は皆無になったが、その能力は細々と現代にも受け継がれている。
一族の者は、みんなそう信じている。現に「巫見」の異能力は発現し、一族の繁栄をもたらしているのだから、誰も疑えない。

「たしかに、この山は高い魔力がある。伝承は事実だろうな」
 レジと三人の嫁は、目的地に近づいた。

館から取り寄せた「魔力探知機能付きドローン」で、魔力が特に濃厚な地点は、特定できている。
一族の者から「興津根様の滝」と呼ばれている場所だ。

「清浄な空気と水、濃い緑。
ルラさんが言ってた条件にも、当てはまりますね」
 レジに背負われたフミが、つぶやくように言う。フミはもっぱら俊也形態派だ。レジとは基礎体力をつけるため、三回お相手してもらっただけ。

したがって、レジと俊也半々の従姉妹たちとは、体力的に大きな差がある。

ちなみに「魔力」が最も濃くなるのは、水・緑・火山の地形的条件が、満たされる地点だ。
この裏山は、火山の条件に外れるが、滝はその条件不足を補って余りある。
僧侶や修験者(しゅげんじゃ)による「滝行」が、現代でも続けられているのは、ちゃんとした理由があるのだ。

そして、俊也がかたくななまでに、あちらの世界で化石燃料導入を拒むのは、三つの条件の前提である「清浄な空気」を守るためだ。
カントを産業革命時の、ロンドンにしたくはない。

「興津根様、まだご健在なのかな? 
言い伝えでは、戦国時代のころ以降、興津根様と会った者はいないということなんですが」
 一族の伝承に詳しい幸が悲しそうな声で言う。

「どうだろうな。
うつしみの(実体化した)妖狐は、もういない気がする。
ただ、一族は厚く祀り続けている。
神格化して霊体となっているなら、あるいは」
 レジはそう応える。半分以上気休めかもしれない、と思いながら。

なにせこの世界は、降臨した神や妖怪が、きわめて過ごしにくくなっている。
人間精神の負の結晶である悪霊は、しばしば見かけるが。
もっとも、深刻な霊障を引き起こすほどの悪霊は、滅多にいないので、猫又ナイトは無視し続けている。


 滝の音が聞こえる。数分登るうちに視界は開けた。

興津根様の滝に到着。
フミと姉妹は、用意の巫女衣装に着替える。

レジは思う。うふ…超似合ってる。たしかにここは強い霊気が感じられる。
超一級のパワースポットに間違いない。

三人はござを広げ、端然と正坐する。
「興津根様ゆかり(縁者)のフミにございます。
同じく茜、幸。夫を伴い、ご挨拶に参上しました。
どうか御姿を、お現し下さいませ」
 フミが厳かに言う。

四人はいっそう濃くなった霊気を感じた。霊気は次第に半透明の形をなし、純白の薄布をまとった女性の姿に。

ただし、リアルキツネ耳&しっぽつき。うふ…フミや姉妹によく似てる。

これはまさしく憧れの「どんぎつね」や~! 
俊也、感激!

ちなみに、俊也は某インスタントうどんのCMが大好きだった。もちろんどんぎつねさんが。

「あな、いみじ。なつかしや。
わがまどろみを、おどろかしむ末にまみえんとは(ああ、すごい。慕わしいことだ。私の眠りを目覚めさせる子孫に出会うとは)」

 高校へ行ってないフミや姉妹は、専属の家庭教師から高等教育を受けている。
したがって、興津根様の言葉は、かろうじて通じた。まあ、使う言葉は古語だよね。

「しばし待て」
 興津根様は、数分黙想する。

「顕現したのは四百三十年ぶり? 
夢の中で巫見があいさつに来てたのは、なんとなく感じてたんだけど。
あんた、何者? 
子孫の夫だそうだけど。
不思議な霊力を感じる」
 どんぎつね様は、もとへ、興津根様はフランクに聞いた。
フミと姉妹から、現代語を学習したようだ。

「レジと申す。猫又と人間が、合体した存在だ」
 レジが答える。

「猫又と? ああ、なるほどね。
だけど、神気臭さも感じる。
それにありえないほどの霊力。
どうなってんの?」  

「元は化け猫の神で、佐保姫と竜田姫のペットとも合体してしまった。
異世界に跳んで一層妖力…霊力が増した」

「ほほ~……。あの美人姉妹のペット。
私は高天原に行かないけど、出雲の集会で昔会ったことがある。
異世界ね……。
さすが我が子孫。
とんでもない夫ゲットしちゃったね。
もしかして、あんたたちの霊力はその影響? 
霊能者同士がエッチしたら、互いに影響し合うのは常識だもんね。
特に女は」

「その通りでございます。
レジさんの形態にお情けをいただいたら、主に身体的な能力がアップします。
人間形態の俊也さんなら魔力、つまり霊力が驚くほどアップします」
 フミが答える。

「そうなんだ? 
ものは相談なんだけど、最近超衰えちゃってるの。
もう実体化できないほど。
三人かわりばんこでいいから、依り代にしていい? 
霊力、超アップするよ。
今のこの世界や、異世界とやらも見てみたい。
それに、エッチしてぇ~!」

「私なら構いません。茜ちゃんと幸ちゃんは?」
「もちろんOKです!」
 姉妹は異口同音に答えた。

「サンキューです! じゃ、フミからね」
 半透明体のどんぎつね…興津根様は、霧のように形が薄れ、フミの口から体内に。

「超居心地いい! エッチ! エッチ!」
 狐憑きフミは、赤い巫女袴を紐解いた。


 レジの体から下りた幸は、ぐったりとござの上に横たわった。頭の中に声が響く。

『超いっちゃった。
大発見! 
依り代が変わったら、エッチの感覚も違う。
これはやめられねぇ~。
わ~お! 
おっかなかわゆい大猫ちゃんだぁ~!』
 猫又ナイト2化に耐え続けていたレジは、2に変化していた。
そして、幸に避妊魔法を施し、ナイト化する。いつものように幸の股間に頭を潜らせる。

狐憑きになった三人は、一味も二味も違った。人間と獣と神。
混沌とした霊力との交わりは、ひどく甘美だった。

ナイト、超満足の熟睡。

「興津根様、依り代は三人以外無理なんですか?」
 魔力と性感の異様な高ぶりから、ようやく平静を取り戻したフミが聞く。

『ん? 今なら受け入れられたら、誰でも大丈夫だと思う。
あんたたちほど、居心地がいいとは思えないけど』

「俊也さんには、二十二人の嫁と、四人の愛人がいます。
興津根様が憑依なさったら、いっそう効率的な魔力アップが望めるのではないでしょうか? 
特に古参の嫁は、限界に達しております。魔力が乏しい嫁も。
私の体から興津根様が去られた今も、レジさんから精をいただいたときと、肥大化した器が変わらないように思うのですが。
俊也さん形態なら、もっとはっきりすると思います」

『わ~お! 色々な性感が味わえる! 乗った!』

 俊也の嫁たちは、どんな化け物になるのだろうか?
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