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193 ボーイフレンドを装備?

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 俊也はカントの町を見たいという、朝陽と菜摘を連れて町へ転移。

カントの町は、五年前に比べ、人口が十倍に増えている。

なぜならば、カントはおそらくこの世界で最も治安がよく、仕事に困らない。

鉱物の生産。女や子供でも、安定した収入が得られる薬草栽培。

今後ますます、この街は発展していくだろう。

「あら、いらっしゃい」
 ライラが笑顔で声をかけてきた。ライラは琴音と同じステイタス。つまり俊也の愛人だ。

俊也は館や日本の製品を販売する店を、ライラに任せた。「なんでも屋」のオヤジは、四年前ぽっくり死んだ。

その店を新築に立て直し、ライラは高級なんでも屋を営んでいる。
娼婦の仕事は、とっくにやめている。ミスト密偵の仕事も、ミスト宰相フィード侯爵直属、俊也担当渉外部長という感じ。

もちろんミストから手当も出ており、ライラは半分暇つぶしで働いている。

ちなみに、フィードは俊也との関係を取り持った功績で、侯爵の爵位を授かっている。今や押しも押されぬロン王の最側近だ。

もう一つちなみに、ロン王は六人の子をもうけている。全員男子。彼は俊也の娘を息子達の嫁にと、早くも積極的に運動している。

「わ~、売ってる物は、ほとんどメイドインジャパン。
なんか変な感じ」
 菜摘が率直な感想を述べた。

「日本の製品は、仕入れ価格が高くて。館の薬以外ほとんど儲けはないの。
半分以上ボランティア?」
 ライラは流暢に日本語をしゃべる。日本で店の商品を仕入れる必要があるからだ。

最初は嫁に通訳を頼んでいたが、俊也が大幅に手を広げたため、たびたび厄介をかけるわけにいかなくなった。
そこで日本語を猛勉強したわけ。 

「ライラさん、ウミサキ春のパン祭り、まだ間に合う?」
 ラブミーテンダーのおねえさんが、紙を差し出した。パンに付いているシールを集めたものだ。

「まだ残ってる。……はい、お皿」
 ライラは、カウンターの下から箱を取り出し、おねえさんに渡す。

「よかった。え~っと、何かお勧めは? 
最近俊也さんのお土産がなくて」
 おねえさんは、ほくほく顔で言う。

「そうね。チョコレートの箱詰めは?」
 ああ、バレンタインセールの売れ残りか。朝陽と菜摘は、カウンターに積まれた箱の中身がわかった。

日本ではハロウィンに押され、バレンタインのステイタスは下降気味。それでもその習慣は根強く残っている。

ライラさん、抜け目がない。たたき売りの限定商品を仕入れたのだろう。日本の商人としては、来年まで在庫を抱えるわけにいかない。

弥生さんというフィクサーがついてるし、ライラさんが言うほど、店の利潤は少なくないだろう。

おねえさんは、迷わずチョコレートを二箱買った。
「こんなおいしいもの、どうやって作るんだろう?」
 おねえさんは、そう言い残し、ご機嫌で店を出ていった。

「チョコをあっさり二箱も買える人、そうはいないのよ。
ラブミーテンダーの従業員は、この町でも高額所得者なの」
 ライラがそう説明する。

二人は納得。なるほどね。あのおねえさん、あか抜けていると思ったが、前の店の人だったのか。

町へ降りたのは初めてだが、二人はラブミーテンダーがどんな店だか知っていた。

体を売る代償として、チョコが買える。
なんだか切ない。

「奥の方に、館ブランドのアクセサリーがあるよ。日本で買うよりずっと安いから、俊也さんに買ってもらったら?」
 ライラの商魂はたくましかった。
 
自分が卸した商品を自分で買うか? 俊也は納得しきれなかったが、あきらめて二人を奥へ促した。


 俊也が次に案内したのは新撰組頓所。二十人近くの隊士が剣や槍の訓練に励んでいた。

「近藤局長に、敬礼!」
 俊也に気づいた古参隊士が、号令をかける。隊士たちは、俊也の姓が青形だと知っているが、絶対的に近藤なのだ。絶対的に怖い副長がいるから。

隊士の武器は、ひのきの棒、スタン木刀、ライトソード&ライトスピアと進化していった。
ライトシリーズは、実戦的訓練に大変役立ち、魔石の出力を調節することで、強力な武器ともなる。カントが世界一治安がよい、とは、この新撰組の功績だ。

「近藤局長? ああ、新撰組だからか」
 菜摘は、さっき俊也から、この自警団の名前は聞いたが、吹き出しそうになった。

俊也さんったら、超悪乗り。

「新撰組を作ったのはブルーなの。わかるだろ?」
 俊也は苦笑して言いわけ。

「なるほどね……。
あのブルーさんが母親か。信じられないというか」
 朝陽は率直な感想をもらす。朝陽はブルーの超ノリの良さ(つまり悪乗りぶり)と、超武闘派の一面を知っている(ほとんど全面だが)。

「ブルーをセーブさせるの、大変なんだ。
妊娠初期なのに訓練しようとする。
館へ帰ったらよく言ってやってよ」
 俊也は妹に愚痴る。俊也にブルーを抑えるのは不可能だった。特にクレオという格好のライバルを迎え、ブルーは一層過激な訓練を始めた。

見かねた俊也は、わざと避妊魔法を使わなかった。妊娠が判明し、ブルーは駄々をこねた。だが、初期巫女嫁の中で、ブルーはルマンダに次ぐ最年長者。

長幼の序を説き、俊也と館三幹部はやっとのことで言いくるめた。

「俊也さん、こっちの世界にはダンジョンないんですか? 
冒険者ギルドは?」
 菜摘はかねてから気になっていたことを聞いた。彼女は兄の小説を借り、その結果、異世界チート小説にはまっている。

「ダンジョンはあるよ。
魔石の廃坑は魔力がたまりやすい。強い魔物の格好の住み家となってる。
ただし、ダンジョンに宝箱はない。
訓練にはなるけど、儲けにならないのに、危険をあえて冒す物好きはそんなにいない。
よって冒険者ギルドなんてない」
 俊也は館へ来たばかりのころを思い出す。レジや嫁たちは数少ない「物好き」だった。

ただし、魔石をほとんど掘りつくしたはずなのに、魔石を発見できる可能性は高い。それはこの世界の常識だが、見つかるかどうかわからないのに、あえてもぐる「冒険者」は、やはり物好きとしか形容のしようがない。

今ではレジや嫁たちは、誰もダンジョンに潜らなくなっている。

「な~んだ。つまんない。
なら、お嫁さんたち、どうして訓練を続けるんですか?」
 菜摘は素朴な疑問を口にする。

「一種の病気だよね。ただ、魔力がたまりすぎると気分が悪くなる。
時々魔力を吐き出す必要があるんだ」

「男の人の生理とおんなじか。
俊也さんはたまりすぎる、なんてことないでしょうけど」
 俊也と朝陽は、菜摘に白い目を向けた。

なっちゃんは、どこか危ういところがある。それは兄妹の共通認識だった。

「朝陽となっちゃん、ボーイフレンドできた?」
 俊也は恐る恐る聞く。

「できた? 
失礼なこと言わないで。
常に二三人は装備してる。
なっちゃんも、けっこうもてるんだよ。
気がむいたら装備するみたい」
 装備、ね……。朝陽らしい言いぐさだ。

だが、俊也は安心した。「装備」なんて言っている間は安心だ。

待てよ、安心していいのか? 
二人とも、もう十七歳の乙女だし。

真剣に考え込む俊也だった。
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