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146 いっぺんやってみる?

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 俊也とミネットは、肩を並べ近所のコンビニを目指す。不良君たちは自転車を押し、後に続く。
ちゃんと縦並びで。ミネットにつられたのか、ハーゲンダッ×につられたのか不明。単なる好奇心かもしれない。

「俊也さんとミネットさん、どんな関係? 恋人同士に見えるけど」
 ミネットにいたぶられた不良君Aが聞く。
「恋人というか、嫁だよ」
 俊也は気持ちよく答える。

「高校生くらいに見えるけど」
「見た目はね。実年齢は俺より年上」
「マジ?」
「マジだよ。君たちは高校生?」

「一応は。
ミネットさんは、マジでどこから来たの?」
 不良君Aは重ねて聞く。

「イスタルトという国だよ」
 俊也が答える。

「聞いたことないんだけど」
「今はシュンヤーダ王国の住人」
「それも聞いたことない…って、どっかで聞いたような……」

「アワワ……、ヤバい! 逃げよう!」
「本物の魔法の国だよ! 殺されるぞ!」
 不良君BとCは、一連の騒動を知っていた。

魔法のデモンストレーションの映像も見ている。自衛隊の演習場で、十トントラックが五台、一瞬で破壊されていた。

「殺したりなんかしないよ。手だしされなければ」
 自転車に乗りかけた不良君BとCは、逃亡を思いとどまった。好奇心の方が勝ったからだ。
ニュースなんて見ないAは、状況がイマイチ飲み込めない。

「自転車だから、この近所に住んでるんだろ? 
田んぼの中にある元ラブホ、知ってるだろ?」
 不良君たちはうなずく。知っているも何も、振り返ったら三階建の建物が見える。

「今はシュンヤーダ王国の大使館だ。
敷地内には入らないことだね。
魔法の結界が張ってあるから、ヤバいことになる」
 俊也には空き巣犯を、結果的に殺した苦い経験がある。
無用の摩擦を避けるため、大使館や魔導師の存在を隠すつもりはなかった。
ミネットに魔法を許可したのも、その方針の一環である。単にザマーイベントを楽しみたかっただけではない。

「魔法使いの人、何人いるの?…いるのですか?」
 不良君Bが聞く。

「今のところ十数人だよ。
この近所で見かける外人顔は、多分魔法使いだ。
そう思った方が安全だね。
東洋系の子も二人いるけど、異様に美人の子は危険だと思っていい。
オトモダチにもその噂流しておいて」

「はい!」
 三人は声をそろえて応える。こんな美味しいネタ、黙っている手はない。

「ついでに。
大使館周辺を見学するのは、お勧めできない。
急に土砂降りになったり、突風が吹くと思う。
こしょこしょ」
 俊也はミネットの耳元でささやく。

「局所的豪雨!」
 ミネットが魔法発動。五メートルほど先に、どばっと雨が降り出した。道幅だけ、十メートルほどの範囲で。
それはきわめて高度な魔法だ。つまり、ミネットはすでに上級魔導師レベルに達している。威力だけは。
多少はみ出している点、彼女の腕ではまだ仕方ない。

「ちょっぴり涼しくなったかな?」
 俊也は不良君たちを振り返って言う。九月中旬。残暑はまだ厳しかった。

「ドウシテ、ミミニアナアケルノ?」 (※イス)
 ミネットが後ろを振り返って聞く。
「どうして耳に穴開けるの?」
 俊也が通訳。

「それは、まあ、おしゃれ?」
 不良君Aが答える。

「イタクナイノ?」(※イス)
「痛くないのか、だって」

「そりゃ痛いけど」
 不良君Aは答える。

「オシャレニミエナイ。ヒョットシテ、イタイノスキ?」(※イス)
「おしゃれに見えないらしいよ。痛いのが好きなのか、だって」

「いや~、そう言われても……」
 不良君Aは、返事に困る。

「マホウデ、アナアケヨウカ? イタクナイトオモウ」(※イス)
「魔法で穴をあけてやろうか、だって。痛くないらしいよ」

「マジで?」

「ワタシ、マダミジュク。シッパイシテモミミチギレルテイド。
ヒールデ、ナオシテアゲル」(※イス)
「ミネットの魔法の威力はすごいけど、まだコントロールが未熟なんだ。
顔が半分ぐらい飛ぶかもしれない。いっぺんやってみる?」
 俊也は悪乗りで超意訳。

「ひえ~~~!」
 不良君Aは自転車に飛び乗り、去って行った。

「君たちは?」
 俊也はさらに悪乗り。

「親からもらった大事な体です! 遠慮します!」
 不良君B・Cも風のごとく去った。

 よっし! ハーゲンダッ×代、節約できた。あっ、ピアス代……。
まあいいか。親からもらった大事な体だ。

「俊也さん、あの人たちどうしたの?」
 ミネットがきょとんとして聞く。
「アイスおごってもらうの、畏れ多いそうだ。
謙虚さは日本人の美徳なんだ」
 俊也は澄まして答えた。
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