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143 ミストとの密約

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※矛盾がある表現、11/15日、一部訂正しました。


 一週間後。

日本でいた俊也は、急きょ館に呼び戻された。なんでもミスト王国から特使が、派遣されたそうだ。

アン、アンコンビも共に帰った。常設魔法陣があるリビングには、特使がいるそうなので、ルラが部屋に描いた魔法陣を使う。
転移魔法は、館の最高機密だから。

「俊也・青形です」
「ミスト王国、フィード・アングルです。
国王からは、主に対外交渉を仰せつかっております」
俊也とフィードは握手を交わす。

「どのようなご用件でしょう?」

「すでにルラ様に、ミスト国王からの親書はお渡ししました。
改めてお話しさせていただきます。
親書の内容を一言で申し上げれば、ミストの魔法研修使節団を、アオガタ様に受け入れていただきたい。
使節団の詳細は、まだ詰めておりませんが、団長は元ミスト王妃、ミーナ・オズモン様に決定しております。
それと、団長以外三名を予定しております」
俊也はびっくりしてルラを見た。

ルラは深刻な表情でうなずく。

王妃の浮気がばれちゃったんだ。

「親書には、書けないことがあったんですね?」
 俊也は念のため遠まわしに聞く。

「さようでございます。ミネット様は、金髪碧眼であること。
ミーナ様は、王妃となられる直前まで、金髪碧眼のマーク・ダイニー様に、魔法の指導を仰いでいたこと。
ミーナ様がご懐妊され、出産のためご実家に帰られていたこと。
ミーナ様は、残念ながら、流産され、同時期に御次兄のアルフ様が失踪なされたこと。
それらの事実で、お量り下さい」 

 おおよそは、三幹部が、推理した通りだった。

「その点に関しては理解しました。
魔法研修使節団についてです。
大体の想像はつきますが、想像の通りなのでしょうか?」
 外交では、言質(げんち)を取られないことが基本。俊也は慎重に言葉を選んだ。

「多分そうだと思います。
団長はこの地に骨をうずめる覚悟で、魔法を修めます。
団員は、ほどよいところでミストに帰ります。
最低一年は、青形様直々に指導を仰ぎたい。
場合によっては、二年三年になっても差し支えありません。
我が王は、見目よく気立てのよい娘を選ぶ所存です。
どうか手とり足とりねんごろに、とは、我が王の言葉です」

「念のためにお聞かせ下さい。
お断りした場合は?」

「団長は一途な方ですから。
魔法を究める悲願がかなわない場合、おそらくは自ら命を絶たれるかと。
オズモン家の近未来も、憂慮すべき事態に、なるやもしれません。
オズモン家は、わが国建国以来の名門。
王はオズモン騎士団長、ミーナ様の御長兄ですが、その方の武勇を、深く頼りになさっておられます」
 
俊也は話を聞き終え、深くため息をついた。

はっきり言って脅迫じゃん! 

俊也はルラ、フラワーをうかがう。二人は軽くうなずいた。

そしてエレンを見る。

エレンは両手を合わせ、深く頭を下げた。ミーナの実の父親は、想像通りエレンの兄だったのだ。

「わかりました。
私が責任を持って、使節団員を育てます。
念のために。
団員は女性であること。
それにある程度の魔力が必須条件です。
それと、妊娠したら私の指導が滞ります。
一人前になる前、妊娠してしまったら不都合ですよね?」

「一年では、無理だということですか?」

「基礎の魔力量にもよりますが、はっきり言って無理でしょう。
二年か三年、それを過ぎたら次世代はあきらめる。
それでどうですか?」
 
フィード伯爵は、しばらく考えた。やはり次世代は欲しい。
それもできるだけ多い方が望ましい。

「わかりました。
五年間おあずけします。
魔法も次世代も、よろしくお願いします」

「一つだけ、条件をつけてよろしいですか?」
 今まで黙っていたルラが口をはさんだ。

「どのような?」
 フィード伯爵が聞く。

「研修使節団は極秘扱いで。
イスタルトで広まってしまったら、問題となりそうです」

「なるほど。
当方にとっても、その方が好都合です。
固くお約束いたします」
 
こうして、密約は成立してしまった。
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