130 / 230
130 SA新撰組燃ゆ 2
しおりを挟む
ブルーとアンリは、一軒の民家から出てきた男に目をつけた。やけにすっきりした顔だから、その家で男が何をしたのか、想像はつく。
ブルーはアンリに目配せ。アンリは小さくうなずき、男が通り過ぎようとするとき、物陰からよろよろと出た。
「ん? うげっ……」
男がアンリに気がとられた瞬間、ブルーが飛び出して素早く当身をくらわす。内臓破裂が起こらない程度の力加減、さすがのブルーも身につけた。
アンリが倒れ掛かってきたその男を背負い、物陰に姿を隠す。
ブルーは周囲を警戒し、アンリは男を背負ったまま仲間の元へ走る。
その間、およそ十秒。雪に囲まれ、静まりかえった町に、起こった小さな異変は、何事もなかったようだった。
街で一番大きい宿。一階は酒場も兼ねている。
アンが魅了の魔法で、捕虜を尋問したところ、盗賊団は全員この宿で集まっているとのこと。
全部で二十二名。ブルーとアンリに拉致された捕虜は、なんと盗賊団のボスだった。
もう息をしていない。街外れに放置された死体を見たら、ボスを生かしたまま、拘束する気になれなかった。
その死体はすべて男だった。盗賊団に抵抗したか、抵抗する可能性がある者は、皆殺しにされたのだ。
「あ~、やっと着いた。
すみません。旅の者です。
犬ぞりが立ち往生しちゃって。
お礼はしますから、手を貸していただけませんか?」
リラもどきが、酒場にたむろする盗賊団に愛想を振りまく。侍らされた若い五人の女は、一様に生気が薄い。
エレンもどきと、フラワーもどきも、にっこり笑って頭を下げる。
スゲー! この三人、何者?
盗賊団は鼻の下を伸ばし、侍らせた女をどかせ集まってくる。
「お嬢さん、こんな季節に旅? なんか事情でも?」
一人が聞く。
「ごめんなさい。お話しできない事情なんです。
でなければ、女三人でこの季節に、旅なんてしません。
お礼は…金貨二枚でいかがでしょう?」
盗賊団は互いに目を見合す。この三人、多分貴族の娘だ。色々お礼をしてもらえそう!
「いいよ。手は何人ぐらい?」
盗賊Aは可能な限り善良さを装い、そう聞いた。
「できるだけ多くの人に、お願いしたいんです。
そりが斜面に落ちちゃって」
「そうかい? じゃ支度をするからちょっと待ってて。
寒かっただろ?
暖炉にあたりなよ」
下心満載の盗賊Aは、精一杯の愛想をふりまく。
「ありがとうございます。
あ~、親切な人たちでよかった」
ルラもどきは二人を促し、暖炉のそばへ。
一階にいるのは全部で十五人。
残りの六人は、上の部屋でよろしくやっているのだろう。
盗賊たちは喜々としてブーツをはき、防寒の上着を着込む。
上着を着ないのは二名。女たちの見張りに残るのだろう。
「じゃ、そりに案内して」
盗賊Aが言う。
「おねがいしま~す!
エレン、フラワー、私が案内するから、あなたたちは残ってていいよ」
ルラもどきはそう言って、盗賊たちを外へ連れ出した。
エレンとフラワーもどきは、残った見張りに近づく。
「ねえ。私と仲良くしよう」
エレンもどきは、盗賊Bに手を伸ばす。フラワーもどきは盗賊Cに。
魅入られたように、BとCは近づく。
「アイススピア!」
次の瞬間、BとCの心臓に氷の槍が突き刺さる。
エレンもどきとフラワーもどきは、小さな火の球となって消えた。
女たちは上げそうになった悲鳴を、両手で押さえた。
よくわからないが、救援がきたことはわかったから。
そして次の瞬間。外で銃撃の音がけたたましく響いた。
二階からブルーとアンリが下りてきた。
「もう大丈夫だよ。カントの新撰組が助けに来たから」
ブルーが女たちに笑顔をむけた。
アンリは店の入り口に向かう。彼女の右手には、血濡れた脇差が握られていた。
「じゃあ、荼毘(だび)にふします。名残惜しいでしょうが下がって下さい」
ユーノが沈鬱な声で言う。
親しい者の死体を見つけ、悲嘆に暮れていた町の者は、泣きはらした顔で死体から離れていく。
隊士たちは、集めた薪を死体の上に置く。
「黙とう!
ヘブンファイア!」
ユーノが渾身の魔法を放つ。
薪と死体は、灼熱の炎で、あっという間に焼き尽くされた。骨も残っていない。
このスペースは、街の共同墓地になる。
「盗賊たちを地獄へ送ります。
ヘルファイア!」
ユーノは積み上げられた盗賊たちの死体に、怒りの魔法を放つ。
「これで我々の仕事は終わった。
隊士を五人残す。
復興に役立ててくれ」
ブルーはそう言って、魔法陣に入った。
「え~っと、お前。
お前は恋人の元へ帰れ。
他の者は雪が溶けるまで、ここでお手伝いをしろ。
ローラン」
ブルーに促され、ローランは転移魔法を発動。
恋人がいる隊士は、ちょっぴり後悔しながら魔法陣に入った。
残るやつら、超おいしい思いをするに違いない。この街の若い男は、ほとんど殺されてしまったから。
ひょっとしたら、局長級にもてるのでは?
リア充隊士は、大いなる未練を残しながら転移した。
ブルーはアンリに目配せ。アンリは小さくうなずき、男が通り過ぎようとするとき、物陰からよろよろと出た。
「ん? うげっ……」
男がアンリに気がとられた瞬間、ブルーが飛び出して素早く当身をくらわす。内臓破裂が起こらない程度の力加減、さすがのブルーも身につけた。
アンリが倒れ掛かってきたその男を背負い、物陰に姿を隠す。
ブルーは周囲を警戒し、アンリは男を背負ったまま仲間の元へ走る。
その間、およそ十秒。雪に囲まれ、静まりかえった町に、起こった小さな異変は、何事もなかったようだった。
街で一番大きい宿。一階は酒場も兼ねている。
アンが魅了の魔法で、捕虜を尋問したところ、盗賊団は全員この宿で集まっているとのこと。
全部で二十二名。ブルーとアンリに拉致された捕虜は、なんと盗賊団のボスだった。
もう息をしていない。街外れに放置された死体を見たら、ボスを生かしたまま、拘束する気になれなかった。
その死体はすべて男だった。盗賊団に抵抗したか、抵抗する可能性がある者は、皆殺しにされたのだ。
「あ~、やっと着いた。
すみません。旅の者です。
犬ぞりが立ち往生しちゃって。
お礼はしますから、手を貸していただけませんか?」
リラもどきが、酒場にたむろする盗賊団に愛想を振りまく。侍らされた若い五人の女は、一様に生気が薄い。
エレンもどきと、フラワーもどきも、にっこり笑って頭を下げる。
スゲー! この三人、何者?
盗賊団は鼻の下を伸ばし、侍らせた女をどかせ集まってくる。
「お嬢さん、こんな季節に旅? なんか事情でも?」
一人が聞く。
「ごめんなさい。お話しできない事情なんです。
でなければ、女三人でこの季節に、旅なんてしません。
お礼は…金貨二枚でいかがでしょう?」
盗賊団は互いに目を見合す。この三人、多分貴族の娘だ。色々お礼をしてもらえそう!
「いいよ。手は何人ぐらい?」
盗賊Aは可能な限り善良さを装い、そう聞いた。
「できるだけ多くの人に、お願いしたいんです。
そりが斜面に落ちちゃって」
「そうかい? じゃ支度をするからちょっと待ってて。
寒かっただろ?
暖炉にあたりなよ」
下心満載の盗賊Aは、精一杯の愛想をふりまく。
「ありがとうございます。
あ~、親切な人たちでよかった」
ルラもどきは二人を促し、暖炉のそばへ。
一階にいるのは全部で十五人。
残りの六人は、上の部屋でよろしくやっているのだろう。
盗賊たちは喜々としてブーツをはき、防寒の上着を着込む。
上着を着ないのは二名。女たちの見張りに残るのだろう。
「じゃ、そりに案内して」
盗賊Aが言う。
「おねがいしま~す!
エレン、フラワー、私が案内するから、あなたたちは残ってていいよ」
ルラもどきはそう言って、盗賊たちを外へ連れ出した。
エレンとフラワーもどきは、残った見張りに近づく。
「ねえ。私と仲良くしよう」
エレンもどきは、盗賊Bに手を伸ばす。フラワーもどきは盗賊Cに。
魅入られたように、BとCは近づく。
「アイススピア!」
次の瞬間、BとCの心臓に氷の槍が突き刺さる。
エレンもどきとフラワーもどきは、小さな火の球となって消えた。
女たちは上げそうになった悲鳴を、両手で押さえた。
よくわからないが、救援がきたことはわかったから。
そして次の瞬間。外で銃撃の音がけたたましく響いた。
二階からブルーとアンリが下りてきた。
「もう大丈夫だよ。カントの新撰組が助けに来たから」
ブルーが女たちに笑顔をむけた。
アンリは店の入り口に向かう。彼女の右手には、血濡れた脇差が握られていた。
「じゃあ、荼毘(だび)にふします。名残惜しいでしょうが下がって下さい」
ユーノが沈鬱な声で言う。
親しい者の死体を見つけ、悲嘆に暮れていた町の者は、泣きはらした顔で死体から離れていく。
隊士たちは、集めた薪を死体の上に置く。
「黙とう!
ヘブンファイア!」
ユーノが渾身の魔法を放つ。
薪と死体は、灼熱の炎で、あっという間に焼き尽くされた。骨も残っていない。
このスペースは、街の共同墓地になる。
「盗賊たちを地獄へ送ります。
ヘルファイア!」
ユーノは積み上げられた盗賊たちの死体に、怒りの魔法を放つ。
「これで我々の仕事は終わった。
隊士を五人残す。
復興に役立ててくれ」
ブルーはそう言って、魔法陣に入った。
「え~っと、お前。
お前は恋人の元へ帰れ。
他の者は雪が溶けるまで、ここでお手伝いをしろ。
ローラン」
ブルーに促され、ローランは転移魔法を発動。
恋人がいる隊士は、ちょっぴり後悔しながら魔法陣に入った。
残るやつら、超おいしい思いをするに違いない。この街の若い男は、ほとんど殺されてしまったから。
ひょっとしたら、局長級にもてるのでは?
リア充隊士は、大いなる未練を残しながら転移した。
0
お気に入りに追加
164
あなたにおすすめの小説
性奴隷を飼ったのに
お小遣い月3万
ファンタジー
10年前に俺は日本から異世界に転移して来た。
異世界に転移して来たばかりの頃、辿り着いた冒険者ギルドで勇者認定されて、魔王を討伐したら家族の元に帰れるのかな、っと思って必死になって魔王を討伐したけど、日本には帰れなかった。
異世界に来てから10年の月日が流れてしまった。俺は魔王討伐の報酬として特別公爵になっていた。ちなみに領地も貰っている。
自分の領地では奴隷は禁止していた。
奴隷を売買している商人がいるというタレコミがあって、俺は出向いた。
そして1人の奴隷少女と出会った。
彼女は、お風呂にも入れられていなくて、道路に落ちている軍手のように汚かった。
彼女は幼いエルフだった。
それに魔力が使えないように処理されていた。
そんな彼女を故郷に帰すためにエルフの村へ連れて行った。
でもエルフの村は魔力が使えない少女を引き取ってくれなかった。それどころか魔力が無いエルフは処分する掟になっているらしい。
俺の所有物であるなら彼女は処分しない、と村長が言うから俺はエルフの女の子を飼うことになった。
孤児になった魔力も無いエルフの女の子。年齢は14歳。
エルフの女の子を見捨てるなんて出来なかった。だから、この世界で彼女が生きていけるように育成することに決めた。
※エルフの少女以外にもヒロインは登場する予定でございます。
※帰る場所を無くした女の子が、美しくて強い女性に成長する物語です。
【R18】童貞のまま転生し悪魔になったけど、エロ女騎士を救ったら筆下ろしを手伝ってくれる契約をしてくれた。
飼猫タマ
ファンタジー
訳あって、冒険者をしている没落騎士の娘、アナ·アナシア。
ダンジョン探索中、フロアーボスの付き人悪魔Bに捕まり、恥辱を受けていた。
そんな折、そのダンジョンのフロアーボスである、残虐で鬼畜だと巷で噂の悪魔Aが復活してしまい、アナ·アナシアは死を覚悟する。
しかし、その悪魔は違う意味で悪魔らしくなかった。
自分の前世は人間だったと言い張り、自分は童貞で、SEXさせてくれたらアナ·アナシアを殺さないと言う。
アナ·アナシアは殺さない為に、童貞チェリーボーイの悪魔Aの筆下ろしをする契約をしたのだった!
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~
くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】
その攻撃、収納する――――ッ!
【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。
理由は、マジックバッグを手に入れたから。
マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。
これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。
【異世界ショップ】無双 ~廃絶直前の貴族からの成り上がり~
クロン
ファンタジー
転生したら貴族の長男だった。
ラッキーと思いきや、未開地の領地で貧乏生活。
下手すれば飢死するレベル……毎日食べることすら危ういほどだ。
幸いにも転生特典で地球の物を手に入れる力を得ているので、何とかするしかない!
「大変です! 魔物が大暴れしています! 兵士では歯が立ちません!」
「兵士の武器の質を向上させる!」
「まだ勝てません!」
「ならば兵士に薬物投与するしか」
「いけません! 他の案を!」
くっ、貴族には制約が多すぎる!
貴族の制約に縛られ悪戦苦闘しつつ、領地を開発していくのだ!
「薬物投与は貴族関係なく、人道的にどうかと思います」
「勝てば正義。死ななきゃ安い」
これは地球の物を駆使して、領内を発展させる物語である。
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
異世界で穴掘ってます!
KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語
【R18 】必ずイカせる! 異世界性活
飼猫タマ
ファンタジー
ネットサーフィン中に新しいオンラインゲームを見つけた俺ゴトウ・サイトが、ゲーム設定の途中寝落すると、目が覚めたら廃墟の中の魔方陣の中心に寝ていた。
偶然、奴隷商人が襲われている所に居合わせ、助けた奴隷の元漆黒の森の姫であるダークエルフの幼女ガブリエルと、その近衛騎士だった猫耳族のブリトニーを、助ける代わりに俺の性奴隷なる契約をする。
ダークエルフの美幼女と、エロい猫耳少女とSEXしたり、魔王を倒したり、ダンジョンを攻略したりするエロエロファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる